第4話影の英雄

あの大震災が起きて、二次災害の福島の原発事故。父はその原発を起こした東電で働いていた。

その日から父は多忙極まりなく家にも帰ってこなくなった。毎日のように朝から晩まで汗をながしていた。だが、周りの人からは人殺し扱い。


そう語るのは、福島の原発からわずか10キロほどに住んでいた綾瀬さんだ。当時高校卒業を控えていて大学進路も決まっていた。彼女は被災者でもあったが、友人から、お前の父ちゃん東電でしょ?人殺しじゃん。最低。そう言われていた。いつの間にか友達は、私を避けるようになり、誰一人口を効いてくれなくなった。


しばらくぶりに父が、家に帰ってきたが、痩せこけ頬はくぼみ、目の下にはクマができ、ガリガリになっていた。元気に、笑う父の姿はなかった。

ただただ黙りこみ、着替えをもってすぐ、また出て行った。


私は、母に尋ねた。「お父さんは最低なの?」

「何言ってんの!お父さんはね、英雄なんだよ。

東電で勤めてる人みんなが、悪い人じゃない!上の人達がちゃんとしてないだけなのにね。」

「でも、お父さんのせいであたし、友達失った」

「あんたの友達は理解してないだけ。お父さんは誰かがやらなきゃいけない事を責任持って懸命に命削ってやってるの。東電の中は今放射能だらけなのにも、関わらず、寝る時間もロクにない中で私達を養うために、必死になってるの。だから、理子も、理解してあげて?」

「うん。分かった。」


父は昔から責任感が強く、本当に優しかった。気さくでいつも私を笑わせてくれた。自慢の父だった。それが、理解ない人達に罪人扱い。人殺し扱いされるのが、居たたまれなく悔しかった。そして、何故か悲しくなった。


それから、3年後父は肺がんを患い、今も闘病中で、入院している。全てが狂い始めている。何もできないままただただ、毎日が地獄だった。

それは今も変わらない。と言い彼女は席を立った。

津波以外にもこんな現状もある。それでも、前を向いて生きようとする、彼女のお父さんには、頭が下がる。

早く良くなって欲しい。そう、心から、願うしかなかった。


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