第8話 あの日の少年


土曜日の西陽の差し込むファミレスは、おしゃべりに興じる主婦たちと、疲れた父親たちを巻き込んだ家族連れでごった返していたが、喫煙席にはある程度のスペースがあった。

光の筋がたばこの煙を浮かび上がらせている。

「たばこ、よくないよ」

妙子がたしなめる。

「ああ、わかってる。でも辞められないな、しばらくは。」

「もう。」

少し膨れた顔は、おそらく本人が思うほど機能していない。

「それはそうと、聴いていて思ったんだけど、どうやら及川くんと同郷の子が私の友達にいるわよ。」

「マジ?」

「うん。マジ。」

テーブルに身を乗り出し、まっすぐに僕の目を覗き込みながら妙子は言った。

「世間は狭いな。なんて子?」

「知ってるかな、真田幸子っていうんだけど。」

「さなださなだ…あ、俺の2年上だ。」

「そっか。やっぱり知ってるんだ。」

「狭い街だったからな。でも大人しい先輩という印象があるだけでよくは知らない」

ひと呼吸置いて妙子は続ける。

「この前、ニュースになったでしょ、速水圭太が死んじゃったって。」

「自殺って言ってたな。」

「うん。真田さんは彼と付き合ってたのよ。」

「え?マジ?」

「うん。マジ。」

再びテーブルに乗り出した妙子はまっすぐに僕の目を見ている。

「それは…付き合ってたというのはいつの話だ?」

「うん。それがね、中学の時だって」

「と、いうことは…」

「そう。速水圭太も及川くんと同郷よ。」

驚きだ。とはいえ心当たりがない。速水なんて苗字は知らない。

「ペンネームよ。芸名。本名は…なんて言ったかしら。」

「水野圭一…か?」

それは僕の街でちょっと有名になっていた少年の名前だった。

「あ、そうそう。ご名答。私もその名前は真田さんから聞いたの。なんだ、知っているならなんで気づかなかったの?」

「いや、速水圭太と水野圭一が同一人物だとは知らなかったよ。顔も大人になれば変わってしまうだろうし。そうか、だからか」

「だから?」

「ああ。だから当時からギターがあんなに上手いわけだ。」


―それは僕が武史とバンドを組んだあの桜の日から、さらに少し遡った中学1年の3月の話だ。

僕より2つ上の水野圭一は、違う街へと引っ越して行った。「あの」卒業式の直後のことだった。

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