超掌編『100文字小説集』

齊藤 紅人

01~10

#1

「犯人はこの抜け道から部屋に忍び込み被害者を殺害。偶然発生した竜巻で死体と凶器を消し去った。そう犯人は貴方だ」俺は物語終盤に登場した中国人を指差した。ノックスが俺の肩に手を回して言った。「ふざけんな」


#2

ノックの音がした。仕事の時間はとうに過ぎていた。俺は急いで仕事着に着替え、仕事用の革手袋を手にドアを開けた。木製のこん棒を持った屈強な男が俺を見つけて怒鳴った。「とっとと守備位置につかんかバカ野郎!」


#3

偶然か故意かは分からない。ほんの少し混じっていた。ただそれだけだった。それが表沙汰になった。それだけで四人の男が規則に従い黙々と続けてきたことが一瞬で崩壊した。「ポン」「俺もそれ、ポンやねんけど……」


#4

きじは要らないと桃太郎は思った。雉鍋にして三人で食べた。犬も要らないと思った。二人で犬鍋を食べた。鬼ヶ島についた。鬼を退治しなくてもいい気がした。二人で鍋の店を始めた。大層流行り、村の財宝分稼ぎあげた。


#5

『ラッキーアクション:バスジャック』俺は占いの頁を閉じると銃を構え強引にバスを止め、運転席に発砲した。硝子が割れ血が飛び散る。乗り込んで、絶命した運転手を引き倒す。見覚えのある雑誌が床に転がり落ちた。


#6

「よせ、まだ早いだろ? 落ち着いてよく考えるんだ。いま僕に手を出したら……また血を見ることになりかねない。せめて役割を終えるまでもう少し、もう少しだけ……あああっ!」かさぶたは無慈悲に引き剥がされた。


#7

ぴぴぴ、ぴぴぴ。むくり。ざばざば。しゃこしゃこ。もぐもぐ。ごくごく。「いってきます」ばたん。てくてく。がたんごとん。てくてく。「おはようございます!」ぺこり。「……何故にパジャマに手ぶらで出社した?」


#8

燃料も日程もギリギリの宇宙船で女の密航者が見つかった。真面目な操縦士は彼女に体重を尋ねた。「……44㎏よ」操縦士は内壁と私物を44㎏分、船外に破棄した。無論、宇宙船は期日までに目的地に到着しなかった。


#9

「ええ、そういった声は沢山寄せられおりまして、今回だけ、最強の盾と矛、両方を購入されたお客様に限り、DVD『最強の矛で最強の盾を突いたらどうなる?』をプレゼントさせて頂いております。この機会に是非!」


#10

「魔法が使えたらなあ」「ん?」「自由になれそう」「不自由にする呪いなら」「え?」「この呪いは対象者が術者以外の異性と幸せになる事を阻害する。術者は代償として対象者に指輪を捧げる……僕と結婚して下さい」

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