第21話 麻生VSアソウ! お前が陽ならオレが陰!

「あのジジイめ……」



 ニューヨークについた洋明が最初に見つけた手がかりはシラガネスの事だった。


 ここで暗躍しているマフィアは大きく分けてシラガネスとペンタゴラの二人で、それらはすぐに調べがついた。


 細かく調べた方がいいと思ったのはシラガネスの方だった。ヤツは薬物製造に力を入れており、その中に鉄仮面が使った毒物と非常に酷似“するのではないか”と思われるモノがあったのだ。


 なので、きっとシラガネスは鉄仮面と繋がっている。とても無視できる存在ではない。それに、鉄仮面がシラガネスかもしれない可能性だってある。


 そう洋明は確信した。


 リードルの事もすぐに解った。薬物開発を担当しており、彼女の毒について一番知っている可能性がある人物だ。解毒剤を持っている可能性が大きい。洋明はすぐ行動に移った。


 定食屋で罠にかかったのはてっとり早くアジトを知るためだった。薬物への耐性は修行時に会得していたので問題なく、それを知らないリードルは洋明をすぐにアジトへ連れて行くという過ちを犯してくれた。


 これでリードルを尋問し、すぐに解毒剤を手に入れる事ができる。


 しかしそう思い通りに事は運ばなかった。



 「そんな薬物など知らないだと……クソッ」



 リードルは彼女を眠らせた毒の事を知らなかったのである。嘘かもしれなかったので、様々な拷問をリードルに加えたが意見に変化はない。本当にリードルは毒の事を知らなかった。


 洋明に絶望の心が生まれかけたが、拷問の際リードルは言った。



 「アオ博士なら何か知っているかもぉぉぉぉ! ぐぎゃがああああああ! 脳みそグリグリグリィィィィィやめぇぇぇぇぇぇ!」



 おそらく嘘では無い。



 「アオ博士……南極にいたあの女がこの組織の人間だったとは」



 アオ博士は人一倍武器や兵器について貪欲な人物らしい。何でも造り出す天才で、彼女の可能性が高いと言ったのだ。


 研究所の場所を聞くとすぐにリードルに“制裁”し、洋明はアオ博士の元へと向かった。



 「見逃すべきではなかった……彼女は鉄仮面に関与している可能性があった……」



 見逃してしまったのは間違いだった。考えてみれば倒れている自分を発見するなどおかしい。鉄仮面による何らかの策略がなければあんな偶然起こりはしない。



 洋明は確信した。



 「シラガネス・ネーギィーシー、アオ・銀河! オレとした事がなんたる失態!」




 この組織は深き闇を与えるべき相手だ。



 洋明の中でシラガネスとアオ博士の敵認識がどんどん上昇していく。



 「何処だ! 姿を現せッ!」



 洋明はアオ博士の研究所へとたどり着く。


 地下に続く階段前の施錠を引き千切り階段を下りていく。降りる際、監視カメラに取り付けられたレーザー光線が洋明を撃ったが、全て手刀で弾き飛ばし、カメラは指先一つで破壊した。



 だが、研究室に向かう道のりで襲い掛かってく罠は無数にある。この手厚い歓迎はたった一人で突破できるような量ではなかった。



 「こんなオモチャが通じると思ったか!」



 だがそんな普通の理屈など洋明には関係ない。全ての罠を打ち破って進んでいく。


 両脇から槍が迫っても即座に斬りとばし、硫酸が吹き出しても関係なく突っ走り、雨のように降り注ぐ銃弾も右に同じだ。シャッターが閉まり毒ガスが散布されたりもしたが、修行で数多くの抗体を持った洋明にそんなものは効かない。



 「オレを倒したければ己でかかってこい!」



 やがて研究室のドアの前へたどり着き、その強固な扉が洋明の前に立ち塞がった。本来ならカードキーを通さなければ決して開かない扉である。


 だが、洋明にとってそんなモノは罠と同じで意味を成さない。正拳一突きで粉々に破壊し中へと進入した。



 「ドコだシラガネス・ネーギィーシー! アオ・銀河!」



 研究室の中は無数の扉がズラリと並んでいた。追い詰めるように一つ一つドアを開けていき確認していく。



 バン! と扉を蹴破る派手な音が研究室内にビリビリと響く。



 「ここが最後か」



 そして最後の扉にたどり着いた。



 広い研究室内にある全ての部屋を開けたが何処にも人の姿はない。


 つまり二人はこの部屋にいるという事だ。



 「ここかあッ!」



 洋明はドアを蹴破った。ドアは真っ直ぐ飛んで行き、部屋の壁へと激突するとそのまま砕け散る――――――はずだったが。



 「何ッ!?」



 だが、そこで不可解な現象が起きた。


 吹き飛ばしたはずの扉がそのまま洋明へ跳ね返ってきたのである。



 「くッ!」



 即座に回避、なんとか洋明はその場をやり過ごした。


 用心して洋明が部屋に入る。ドアを跳ね返したヤツはアオ博士なのかシラガネスなのか。


 しかし、その正体は洋明が予想だにしないヤツだった。



 「サすがは麻生。この程度ノ攻撃は問題ナシのヨうだナ」



 「お前は……!?」



 鉄の体、文字通り光る眼、ガシャンと金属のかみ合う音を鳴らし無機質な声でソイツは言った。



 「ワガナはメカアソウ。オ前ヲ倒すために生まれたお前ダ」



 メカアソウ。洋明を倒すために生まれたアソウだとソイツは言った。



 「オレを……倒すだと?」



 「ソノ通り。アなたは強くなりすぎたのデスよ。その力ハ世界にとっテあまリに危険デす」



 「ふん、機械風情が生意気な」



 「…………七月二十一日緑のハンカチ」



 「………………何?」



 「ちゃんともってイるはずデスよね? 彼女がクレた誕生日プレゼントなんですかラ、肌身離さずもってイナけれバ。フハハハはは」



 「貴様ッ! なぜソレを!?」



 「ナゼ? それは私がアナでもあるカラですヨ」



 七月三十一日。それは麻生洋明の誕生日である。緑のハンカチとは彼女が贈ってくれたプレゼントの一つで、洋明は嬉しさのあまりベランダで泣いた思い出がある。そして、その際に出た料理を彼女は作ってくれてメニューはたしか……



 「何をワケのわからない事を――――――ぐッ!?」



 急な頭痛で膝がガクリと曲がった。冷たい床に片膝を突き、顔に吹き出た汗がポタポタと落ちた。




 「が……ぐぅぅぐ………」



 「思い出の消失。マダそれは続いているようダナ」



 いつのまにか洋明のそばに迫っていたメカアソウは冷たく言い放った。



 「なぜ……なぜ貴様はその事まで知っている……」



 思い出の消失、たしかにメカアソウの言う通りそれは続いていた。しかも最近は以前にも増して思い出が消え去っている。名前はもちろん、顔も簡単には思い出す事ができなくなっているのだ。鮮明にあった思い出が突然消え去る事も多く、不意に酷い頭痛がする事が多くなっていた。



 「ワたシハ全て知っテいる。全て……スベてナ」



 思い出せる彼女の日々は数少なくなっている。もう、洋明が思い出せる彼女との日々は両手で数えられる程まで減ってしまっていた。



 「オレの事をそんなにも知っている……という事はまさか!? 知っているのかお前は!? 鉄仮面の事を!」



 時間はない。ヤツの情報が手に入るのならば何であろうと洋明は立ち向かう。



 「ならば吐いてもらうぞ!」



 メカアソウの腕を切り落とすべく洋明は手刀を振り下ろす。容赦はない、洋明の全力を持って振るわれた一撃である。



 が、それは難なく止められてしまった。



 キィンと高い音が部屋に響き、洋明の目が見開かれる。



 「刀……だと!?」



 「あなタハ麻生ダ。ならバ、ワタシは排除を実行シなければならなイ。なぜなら、ソノためにウまれてきたのダカら」



 メカアソウは武器をもっていた。白色に眩いその刀身は洋明の手刀がぶつかっても衰える事のない輝きを放っている。



 「黒式夢想。あなたノ持つ力に対抗するために造ラれタ対麻生洋明兵器。この刀あるかぎりやられる事はナイ」



 「ほざけッ!」



 構わず洋明はメカアソウに乱打を繰り出すがメカアソウは難なく全て防ぎ続けた。


 信じられない。全て防がれ続けるなど洋明は初めての経験だった。



 「無駄ダよ無駄」



 「クッ……!」



 「ワタシはあなた自身ダ。あなタの実力はワタシの実力。自分で自分と戦って決着がツクはずがナイ」



 メカアソウも攻撃してくるが素直にそれをくらう洋明ではない。その無数の斬撃全てを防ぎつつ隙あらば即座に斬り返す。


 しかし互いに傷を与えるには至らない。ずっと二人のアソウは火花をぶつけ合っていた。



 「ぬううううう!」



 「ヌウウウウウ!」



 その両者の気迫と裂帛は部屋を振動させ壁を爆発させた。それは連鎖するように続いていき、研究所全ての部屋が円を描くように繋がっていく。



 それほどまで二人の戦いは激白しており、落盤が起こらなかったのは奇跡だった。



 「黒式夢想がアッテもか……コピーでは互角デ限界とイウ事デスね……」



 メカアソウはため息をつきながら言った。



 「あなタトこういった形デ決着をつける事はデキないようダ。互イに無駄な時間をつかいマシたネ」

 「何をごちゃごちゃ言っている! 次で……次の一撃でお前をッ!」



 攻撃のぶつかり合いで両者の間合いが離れ、再び必殺の一撃を放とうと洋明が足を踏み出そうとした時。




 「マチナサイッ!」



 「ッ!?」



 洋明にメカアソウは一喝した。その迫力にさすがの洋明も踏みとどまった。

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