(超短編)「正社員、正社員」って、正社員ってそんなに偉いのか? ~就職活動に100回落ちた男~

中西ユウ

第1話 

 ある昼過ぎ、今日も東雲天馬の家のインターホンが鳴る。

配達員:「東雲さん、郵便で~す」

天馬:「はい……」

 それは一週間前に受けた会社からだった。中身を見なくても大凡見当はつくが、取り敢えず封を開けてみる。

天馬:「やっぱりね……」

想像通り、今時の重役の頭髪並みにうっすい内容の文字がしたためられている。

??:「なになに? 『まことに残念ながら今回は採用を見送らせて頂くことになりました。

ご希望にそえなかったことを悪しからずご了承ください。末筆ではございますが、今後の貴殿のご活躍とご健勝をお祈り申し上げます』だって。すっげーじゃん、天馬。お祈りされちゃってんじゃんw」

天馬:「……」

 彼は熾天使ルヴィエル。人間のことを学ぶため天界からやってきたのだという。何故だか知らないが、天馬の家に居候している。

ルヴィエル:「何故って……天馬、信心深いじゃんw」

天馬:「それ……学校がそういう所だっただけだよ……」

 困ったときの神頼みっていうけど、彼にそれは通用しないらしい。

ルヴィエル:「だってオレ、神じゃねェし。あんな奴拝むんだったら、オレにしとけって。な?」

天馬:「――!」

 相当偉い地位にいるはずなのに、上司と上手くいっていないらしい。部下と上司の確執はどこの世界も共通らしい。

ルヴィエル:「しかし……同じ人間に祈ってもらえるって、すっげ~な天馬♪」

天馬:「……すごくないよ……というかこれ、祈ってないんだよ。婉曲な言い回しで嘲笑ってるだけなんだよ」

ルヴィエル:「嘘……マジ? どういうコトだ?」

天馬:「これはね、就活生を落とすときに使う『お祈りメール』っていう企業の常套手段なの。これをもらって喜ぶ人間は馬鹿だね」

ルヴィエル:「へぇ~。扱き下ろすためにわざわざ封書で送ってくるのか~、或る意味すげェな……」

 

 ――心にもない、企業からのお祈りメール。紙飛行機にしてもすぐ落ちそうだし、メモにも使えない。そんなクソの役にも立たないゴミをわざわざ送りつけてくるなんて、これは最後の嫌がらせか――?

ルヴィエル:「……ふぅ、今日のまとめ終わりっと」

 ルヴィエルは羽根ペンを置いて、小さく息を吐いた。



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