第78話 怪談話の恐怖
「そろそろシュシュのいそうな岩場だな。ごくまろ」
「了解です。フォーカス、連射モード、チーズ!」
ごくまろの魔法の発動と共に激しいフラッシュが点滅する。これによってこの暗い縦穴の中では目が眩み、シュシュを見なくて済むという考えだ。
なにやら悲鳴が聞こえたのは気のせいだ。
そしてなにごともなく通り過ぎた。なにも見えなかった。間違いない。
「なにをなさるんですか勇者様!」
「戻って来たか。誰も見てなかったぞ」
「そんなことありませんわ! あれほど強い光で──」
「暗い所で光を見るとな、その光が目に残って他のものが見えなくなるんだ。残像効果と言う」
「くっ……、ですが音は聞いたはず! ああ、私は辱めを受けてしまいましたわ!」
「ごくまろの閃光に気を取られてて気付かなかった」
悔しそうな顔をするシュシュと、対照的に勝ち誇った顔のごくまろ。
「ごくまろお姉さまはどうあっても私の恋路を邪魔しようというのですわね?」
「じゃああなたは私の恋路を応援するのですか?」
「するわけありませんわ! この泥棒猫!」
「それはこっちの台詞です!」
泥棒猫同士なだけあってキャットファイトってか? むしろ砂場の取り合いをするガキの喧嘩な印象だ。
「勇者殿、モテモテね」
「これがお姉さま方だったらどれだけ嬉しいことか」
「勇者殿が好みの女性ふたりが取り合ったらどうするつもりね」
「どっちとも付き合うに決まってんだろ」
「クズ野郎ね」
ふざけんな。これで丸く収まるなら万々歳じゃないか。どちらも争うことなく俺も選ばなくて済む。なんて平和で幸せな世界なんだ。
だというのにこいつときたら、俺が好き好んで二股をかけようとしていると思っていやがる。俺はドリンクトゥティアなんだ。意識高そうに言うとDTT。
「まあ今の暴言は目を瞑ってやろう。それよりいい加減バランス取り疲れたんだけど」
「ナニをイッてんね。まだ行程の1割程度ね」
そりゃわかってるよ。それを踏まえた上でどうしようかという話だ。
「レクシー様。以前はどうやって行ったんですか?」
「教える義理はないわね」
「く……、で、ですがほら、もうとくしまなんて限界に近いですし」
「あひぃぃ」
ほんとやばい。集中しっぱなしでそろそろ意識が限界らしく、首が座ってない。
「おいとくしま、俺の石と繋げろ」
「あぅあぅぁー」
あぶねえ。もう少し気付くのが遅かったら狂って落ちてたかもしれない。
「勇者様、できたら私のも……」
「おうよ。ごくまろの加えて3つになれば回らなくなる」
ああそうだ、これならいけそうだ。
球形だから回ってしまうんだ。だったら連結させてしまえばいい。これなら安全だ。
「よしゆーな、お前も来い」
「つかれたもー」
4つをうまく繋げた。これでひっくり返る心配はないだろう。
「勇者様、私も是非お繋ぎ願いたく……」
「やだよ。だってお前繋いだら『勇者様と繋がりましたわ! 責任取っていただかないと!』とか言うんだろ?」
「あの、ほんと後生ですから」
「わかったわかった」
とりあえず連結してやると、シュシュはホッとした顔をする。これはなかなかの苦行だもんな。
「レクシー様は大丈夫ですか?」
「この程度は修行にもならないわ」
聖職者ってどんな修行をしてるんだ。まるで少林寺みたいだ。
「勇者殿、私も繋げて欲しいね」
「お前なら大丈夫だ」
すっごい悲しそうな顔でちとえりが俺を見ている。今にも泣き出しそうだ。
だがここで甘い顔をしてはいけない。今までそうやって散々な目に合って来た。
「勇者殿は私が死んでもいいと思ってるね?」
「思ってねーよ」
「……ほんとね?」
「だってお前いないと帰れないじゃん」
ちとえりは「死んでやるねー!」と叫びながら穴を落ちていった。騒がしいやつだ。
さてそれじゃあ暇つぶしでもするか。
「いやぁーっ! こわいのいやぁーっ!」
「わ、わかったから落ち着け! 暴れるなゆーな!」
暗いから怪談をしたところ、ゆーなが拒絶反応を示した。みんな一斉に俺へ責める顔を向ける。
ちょっとした余興のつもりだったんだが、まさかこんなことになるとは思わなかった。
なんとかなだめようとしたところ、突然ぶちりと嫌な音が。
「やっべ、玉が外れた! 悪かったゆーな! さっきのはホラ話だ!」
「ホラーだけにね」
「戻ったならとっとと手を貸せやちとえりぃ!」
「ふひゃひゃ、私を見殺しにした報いを受けるといいね!」
「生きてんだろ! マジやばいんだって!」
「だぁれぇがぁいきてるってぇぇぇ?」
「いやあぁぁ!!」
ゆーなが更に暴れ出した。あいつほんと余計なことしかしないな!
やべっ、また1つ外れた! 落下速度が上がっていく!
「ゆーな! 静まれ!」
「やあぁぁぁ!」
おほぉっ!
……じゃねえ。ゆーなが俺に抱きついてきた。ちょっと元気になりそうだった瞬間、全ての玉が外れてしまった。
咄嗟に玉を縛ってあるロープを掴む。ゆーなは俺にしがみついたままだ。そしてごくまろが俺にしがみつき、とくしまとシュシュも俺にしがみつく。
「ちょっと待てマジ厳しいんだけど!」
軽いとはいえごくまろととくしま、シュシュの3人で大人ひとり分にはなるだろう。そこにゆーなが加わり、俺の自重。3人分の重量が手にかかっている。
そして落下速度はかなり上がっている。時速20キロほどだろうか。この速度なら高さ2メートルから落下するのと大差ないから着地は耐えられる。しかし底まで1時間以上握り続けるのは不可能だ。
「とくしまぁ! 飛べ!」
「は、はい!」
元気のいい返事はいいんだが、足にしがみついていたとくしまがきゅうに上下しはじめた。
……まさか!?
「おいとくしまなにしてやがる!」
「そ、その、臨場感を……」
「お前は自力でなんとかできる子だろ! がんばれ!」
「えー、今の私ぃ、りんじょーかんないとぉ、ちょっとできませぇん、みたいな……あああごめんなさい! 謝りますから足を思い切り振るのやめてください!」
「謝罪はいらねえからとっとと飛べ!」
全く、
「『わ、私の大事なトコロを足で……』『お前の大事なところなどない。全て余のものだ』『そ、そんな……あうっ』『足でも満足してそうだが?』『も、申し訳ありません帝王様……私、飛んじゃいそうです』『謝罪はいいからとっとと飛ぶがいい』『あああああっ! 私、飛ん、じゃうぅ!』」
とくしまは激しく飛んだ。
……ここ、穴の上じゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます