第73話 魔王
「魔王は妄言じゃなかったのか。だったらそもそも魔王はなにをやったんだ?」
「惑星召喚……いえ、異世界とのゲートを繋げたのです」
なるほど、確かに元凶だ。そもそもそいつがそんなことをしなければちとえりも暴挙に出なかったわけだし。
「そこから先は私が話すね」
「相変わらず復活早いな。じゃあ聞かせてもらおうか。嘘はいらないからな」
「わかってるね」
ちとえりの話によると、そもそもの発端は千年以上前の星召喚もどき──今後これはゲート開放と呼ぶ。その最初のゲート開放から始まる。
異世界の知識や資源などで潤った魔王、当時のこいつらの国の王は大規模なゲート開放に踏み切った。だがそれはやりすぎてしまい、現在まで開きっぱなしになってしまったわけだ。
「んで、それだけの間繋がりっぱなしってのは、確かにもはやくっついたものだとしてもいいかもしれないな」
「そう思うね。でも繋ぎ目からマグマが噴き出ないのはきっとそこまでゲートが開いていないからね」
あとは多分、気体がゲートを通過しないであろうということ。それを前提とすれば、この歪な世界のおかしなバランスが説明できる。
そして……。
「なあ。お前らの国の水源ってなんだ?」
「だから魔法陣さんが……」
「それはもういいっつったろ」
「う……ポセという井戸から無限に噴出しているね」
「ポセ井戸か。俺が思うにどんどん水が流出していくことに慌てた国王が、循環させるために無理やり繋げたんだろう。つまり」
「つまりなんね」
「ポセ井戸を利用すればお前の国から山巨人族の国へ行けたということだ」
ちとえりたちは口をあんぐりと開けたまま俺をガン見している。なんだよ一体。
「ば、馬鹿だ馬鹿だと思っていた勇者殿から考えもしなかった名案を言われてしまったね……恥辱!!」
「恥辱とか言ってんじゃねーよクソえりが! おめーよりは賢いんだよ!」
「そんなことないね! 私のほうが知識が豊富ね!」
「無駄な知識ばかりだろ! 無駄に時間を過ごしただけのガキめ!」
おおすげえ。ちとえりの頭から湯気が吹き出している。圧力釜みたいだ。
「勇者様、そんなに挑発したら本格的に初めてを奪われますよ」
「よく考えてみたらさ、俺が力負けするわけないんだよな」
小さい割には思った以上の力があるって程度だ。本気で抵抗すればいくらでも跳ね返せる。しかも今は縛り上げてあるから動けやしないだろう。
「ちょっと話が逸れたな。とりあえず俺たちはここまで無駄な時間をかけてやってきたことは置いておこう」
「ぐぎぎぎぎ……」
自分がやってきたことを否定されたんだ。さぞ悔しかろう。
だが……そんなことよりも俺には強く引っ掛かっている点がある。
「なあ、ゲート開放は千年以上前のお前らの王がやったんだよな」
「そうね」
「んで魔王って呼ばれてたりするんだよな」
「そうね」
「……まだ生きてんの?」
「さあね」
あまりにもイラついたから、ちとえりをネックハンギングツリーで持ち上げる。縛られているからタップもできまい。このまま息もできず朽ち果てるがいいわ。
「……ぎぶあっぷ……」
「ちょっと待て今どっから声だした!」
か細く小さな声だが確かに聞こえた声に思わず手を放してしまい、ちとえりはむせながらも呼吸を戻した。
「げほっ、こんなこともあろうかと……ごほっ、肛門括約筋を鍛えておいてよかったね……」
「意味わかんねーよ! どういうことだよ!」
「声は声帯を動かすことで発するのね」
「それくらいは知ってる」
「じゃあ肛門括約筋で同じことをすれば屁でも喋れる道理ね!」
「んな道理はねーよ!」
いや、できないとは言い切れない。振動と開度を調整できれば……考えるのはやめよう。絶対にアホらしい。
「大体ね、女には口が複数あるものなんね」
「やめろ最低発言は」
二口女は後頭部が本物の口なんだぞ。前の口はダミーだ。
それはどうでもいいとして、別にこいつを殺すことが目的じゃないしそのつもりもない。ただ色々とはっきりさせないといけないんだ。
「まずはっきりさせたいことがある。この星……まあ星っつーかよくわからん場所は崩壊しないことがわかったわけだ」
「そうね」
「てことはお前らの移住計画は意味をなさなくなったわけだ」
「それは別の話ね」
おや?
「崩壊しそうだから崩壊する前に逃げようっていう計画だっただろ?」
「それも理由のひとつってだけね」
「じゃあ別の理由ってのを教えてくれよ」
「魔物が侵攻してきたことね」
なるほど。そういやそうだったな。
だが待て。もしこれが本当のことだったら色々と辻褄が合いにくい。
「だけどそもそも移住するつもりで話を進めていたんだったら魔王を退治しに行く必要なかったんじゃね?」
「全員を移住させるだけの魔法陣さんを出すには相応のマナが必要なのね」
というわけで無駄な知識タイム。
この世界は魔法陣さんがいて魔法が使える。そしてその魔法陣さんはマナによって増殖する。しかし現在この世界の魔法陣さんとマナは釣り合った……飽和状態であり、魔法陣さんを増やすには同数の魔法陣さんを減らさねばならない状況。
しかし魔王という存在がこの世界にはいる。
魔王を倒すことで10ジゴマナという膨大なエネルギーを手に入れることができ、それによって転移が可能となるそうだ。
「つまり転移しようがしまいが、どちらにせよ魔王を倒す必要があるってわけだ」
「そういうことね」
なかなか悩ましい話だ。勇者が救ってやらないとこの世界……というか、別に世界は滅びないか。この世界の人間が滅んでしまう。
だがもし手を貸してやって魔王を倒した場合、裏切られる可能性がある。ここから導き出されることとしては、地球のためを思えばこれ以上の協力をしないことだ。
手伝わなければ地球は今まで通り。ただし俺の後に他の勇者が選ばれなければの話。
手伝った場合、地球が乗っ取られる可能性がある。もちろんあくまでも可能性があるという話なのだが。
で、ぶっちゃけた話、俺は地球に未練はないと言っているが、実際にはどうなってもいいわけじゃない。
双子はうるさくて邪魔だが、俺の妹だ。死んで欲しくないし、普通の幸せくらいは手に入れて欲しい。両親もだ。
あとはあいつとコムスメ。なんだかんだ言ってもあのふたりと過ごす時間は楽しい。とはいえあいつらはきっとこの世界でも普通に暮らせるだろう。なにせ勇者たしな。
だけどこいつらのことも捨て置けないんだよなぁ。
ちとえりはともかく、ごくまろととくしまはここまで一緒に頑張って来たんだ。変態という点を除けば……除いたらなにも残らないか。変態という点を考慮しても、死ぬような目にあってほしくない。
てかこいつらと付き合う男を是非見てみたい。あいつ以外で。
「勇者様、悩んでますね」
「まあな。お前らに手を貸し続けていいものか答えを出しかねてる」
「わ、私の! 私の全ての初めてを制していいので!」
「やだよお前脳内中古じゃん」
とくしまが縛られた状態でつちのこのように襲い掛かってきた。危ない奴だ。
てか俺は新品に然程興味がない。経験豊富なお姉さまこそが至高だと思っているからな。
「わかったね。その条件を飲むね」
「口約束でどうにかできると思うなよ。確定的ななにかが欲しい」
「じゃあ魔王を倒したときに現れるという伝説の
「誰だそれ」
「どんな願いも叶えてくれるね。彼の力を借りて地球を乗っ取るつもりだったから、会えなければできないね」
すっげえ嘘くせえ。10ジゴマナの話はどこ行った。
相変わらず嘘にまみれたやつだが、とりあえず魔王を倒すまでに対策を考えてみるか。それまでは好きにやらせてもらうさ。
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