第52話 再び性癖を暴露する勇者
さて、そんなわけで向こう側へ無事通れることになったわけだが、シュシュが未だに情けない顔で屋敷があるらしき岩を見上げている。
「シュシュ、起こってしまったことは仕方ないんだ。忘れろとは言わないが、なにも起こっていなかったことにはしておいてくれ」
「それって難度が上がってますわ!」
「人間は難しいことにこそ挑戦すべきなんだよ。歴史を見ればわかる」
「では勇者様、私と子作りを──」
「無理」
難しいことに挑戦することは価値がある。しかしできないことをやろうとするのはただの無謀だ。
よく『不可能を可能にする』という言葉を使う人間がいる。だがそんなものはただ単に不可能だと思い込んでいただけに過ぎない。可能であるが難しいことをやっただけだ。不可能というものはそんな安っぽいものではない。可能にできないから不可能というのだ。
「無理ではありませんわ。勇者様は寝て空の星の数でも数えていればいいのですわ」
「てめぇはレ〇プ犯かよ。そもそも起たなければ意味がないだろ」
「セイン家に伝わる、男性器を強制的に起たせる技をお見せいたしますわ!」
なにその倍胡坐みたいなの。
どうせ直腸から前立腺を直接刺激するとかそういった類だろうが、かなり勘弁して欲しい。
「その話は10年後まで置いておくとして」
「長すぎますわ!」
「……いや、この話を進めていたら本線の話が進まないだろ。優先順位をはき違えるなよ」
「ではまずこの話を終わらせてから本線とやらに戻りましょう。優先順位を付けましたわ」
「おめーの優先なんてどうでもいいんだよ! 旅の目的をなんだと思ってるんだ!」
「私は勇者様と子供を作るために同行しているのですわ!」
ああしまった、こいつはそんな感じだった気がする。つまりシュシュにとっては俺たちから見て脱線していることが本線であり、優先事項としては自らの本線へ向かうことなわけだ。
こいつはいずれどこかで置いて行こう。んでもって俺だけでも本題に戻ろう。
「んでちとえりよ。この落とし前どうつけるつもりだ?」
「世界の危機の前にはたかが一国の貴族の屋敷如きどうということはないね」
うぬぅ。
最低限の被害で最大限の成果を得るための犠牲というのだろうか。
そもそもこいつらの──というよりも、この世界の考えとしたらメイドとかは道具であり、人として換算しないようだしな。
だから屋敷の主人が不在であるならば人命的被害はゼロということになる。いやまだメイドたちが死んだわけではないから実際にゼロの可能性もある。シュレディンガーの猫だ。
しかし家に帰ってみたらそこはクレーターのようになっていたと知った家主はどういう反応をするのだろう。唖然とするか憤慨するか、はたまた悲しむか。
どちらにせよちとえりが家主に謝罪することはないだろうし、善行ではないにせよ悪行とも思っていないはず。大体地球的常識を唱える意味はないのだから、言及するだけ無駄だ。
「今回も目をつぶってやるよ。んじゃ行こうぜ」
「勇者殿も大分雑になってきたね」
「メリハリだよメリハリ」
「……ああそうそう勇者殿」
「なんだ?」
「初物の女に入れたとき、大人の漫画とかだとメリメリッとか書かれるけど、実際にはそんな音しないね」
「知ったことかよ。てかそんなものどこから仕入れた」
「秘密ね。さあ出発ね」
女は秘密が多いほど魅力的に見えると言うが、ちとえりからは微塵も魅力を感じられない。
そんな感じで馬車を潜らせたところ、なんとか無事に向こうまで辿り着けた。
余計なことにだいぶ時間を使ってしまったな。
「もうじき夜が明けそうだ。俺は寝るからいつもの時間になったら起こしてくれ」
「あと2時間もないね」
「マジで? もう起きてたほうがいいかもしれんな……」
授業中寝るしかなさそうだ。まあ俺は将来平和になったこの世界で暮らすつもりだから、学校の成績なんてあまり気にしない。どうせトップクラスにはなれないんだし。
それでも行く理由はあいつらがいるからなんだろうなぁ。
なんだかんだいって俺はあいつやコムスメとの会話を楽しんでいる。今までロクにクラスメイトなどと話していなかったからというのもある。
形はどうあれ、友情っていいものだな。
「おはよう諸君」
「おはようじゃねえよ。もう昼過ぎてんぞ。てかお前寝すぎだっつーの」
「えーっ、授業くらいはちゃんと受けようよー」
あいつとコムスメは意外と真面目だった。
昼下がりの屋上。俺は昼食を食いながら、あいつとコムスメは食後のひとときとばかりに会話をしている。
「しゃあないだろ。朝まで超巨大ドラゴン系生物と戦ってたんだから」
「おっ、その話詳しく」
「なになにー? とうとうドラゴン童貞卒業したの?」
その言い方やめろ。まるでドラゴンとやったみたいじゃないか。
「でもま、俺が手を下したわけじゃないんだけどな」
「相変わらず過保護プレイかよ。羨ましいぜ」
「仕方ねえだろ。100メートル以上あんだぜ」
「「……は?」」
2人は間抜け面になった。俺の言ったことが理解できていないようだ。
「ひゃ、100メートルってあれだろ? 尻尾が90メートルある感じの」
「ねぇよ。立ち姿だけで100メートルだ。尻尾入れたら200メートルくらいじゃないか?」
「……ばっ、ばっかじゃねえの!? ばっかじゃねえの!?」
「そ、そうよ! そんなのどうしろってのよ!」
信用できないらしく、俺が嘘をついているような雰囲気を作り出している。全く、なんて酷い奴らなんだ。
「うちの魔法使いが400メートルくらいの岩を上空に召還して圧殺した」
「……相変わらずお前んとこのロリババア様はとんでもないな」
「もうその人だけでいいんじゃない?」
わかってるよ、そんなこと俺だって。いや俺以上にわかっているやつなんていないだろう。未だになんで俺がいないといけないのか不明だし。
考えるまでもなく、俺があの場で一番役に立たない。というよりも役に立ちどころがない。
破壊力で言えば圧倒的にちとえりととくしま。手数ならばごくまろ。トリッキーさならシュシュがいるし、そして回復はレクシー様。本来ならば防御役が欲しいところだが、それすらもできない。
「そうだ、お前らの世界の魔法ってどれくらいの威力があるんだ??」
「俺んとこはそうだな……まあ普通だ」
「あたしのとこも普通かな」
魔法の普通ってどこ基準だよ!
「じゃあ俺のとこの魔法って普通から見たらどうなんだ?」
「いやぁ、それは見てないからわかんねぇな」
「話聞いただけじゃあねぇ」
こいつら……ほんっといい性格してやがんな。
どうやってこの2人に制裁を加えようかと考えていたところ、突然塔屋の扉が開かれ、俺たちはそちらへ注視する。
そこにいたのは……これまたメスガキだった。
しかもなんのキャラのコスプレだと言わんばかりの恰好をしている。
「お姉さま! みつけた!!」
「はぁ?」
俺とあいつはなにいってんだこいつという顔を向けた。
「も……モチョモ!?」
「はい! あなたのモチョモです!」
変な名前のメスガキは、コムスメへ飛びついた。
なんてことだ。コムスメの知り合いだった。恥ずかしい知り合いがいるとか、コムスメはなんて恥ずかしい奴なんだ。
「おい込住! なんなんだその愛らしいロリっ子は!?」
ロリコンという名の特殊変態性癖を持ち合わせているあいつは当然反応した。
「いやあ……この子、あっちの世界の子なんだけど、どうやって来たのやら」
な、なんだと!?
いやでもそうだよな、こちらから他の世界へ行けるんだから、他の世界からこっちへ来れるというのも道理というものだ。むしろ何故来れないのかが不思議なくらいだ。
「おい、俺、とてつもなく重要なことに気付いた」
「おまえもか」
あいつも気付いたようだ。
もし魔物的な連中がそれを知り、この世界へ攻め入ったらどうするのか。かなりやばい問題になる。
「あの子、この世界の人間じゃないんだよな?」
「えっ? ああまあそうだろうよ」
「てことは! あの子に手を出しても違法じゃない! つまり合法ってことだよな!?」
「知るかボケぇ!」
さすがクソロリコン。世界の危機よりも欲情かよ。人間として駄目だな。
「だってよ、法ってのは戸籍とかあって、つまり存在している相手にのみ有効なんだろ。あの子はこの世界に本来存在しないはずだから……」
「誰が説明しろっつった! 知らないって意味の知るかじゃねえよ!」
やっぱりロリコンは駄目だ。完全に性犯罪者だ。こんな奴に友情を感じていたとか我ながら情けないわ。
そんな俺の内心を表情で察したのか、あいつは苦々しい顔を俺に向ける。
「……お前さ、もし逆の立場だったらどうすんだ?」
「どういうことだよ」
「もし現れたのがババ……年上の女性だったらお前だって好き放題したいと思うだろ?」
「ハハッ」
馬鹿な男もいたものだ。これだからロリコンは始末におえない。
「なにがおかしいんだよ!」
「俺はな、お姉さまを好き放題したいんじゃない。好き放題されたいんだ。一緒にするな!」
「……お前、それ変態じゃねえか……」
なんだこいつ、意味の分からんことを。
「あたしはどっちも変態だと思うな」
「「なっ!?」」
一緒にされただと? ふざけんな!
「だってさ、そういう……イケナイことはその……お互い思いあってやることだと思うんだよ!」
こいつ童貞とか普通に言うくせに、なに純情ぶってんだ?
「はっ、バカなことを。お姉さまは俺を蹂躙したい。俺はお姉さまに蹂躙されたい。互いに求めることは同じじゃないか!」
「ええっ!?」
これが俺とあいつの違いだ。俺はちゃんと互いに求めあっている関係を築いている。なんの問題もない。
「あ〇ざわ先生が描くような小生意気なロリっ子に蹂躙される……アリだな!」
「なっ!?」
あいつめ、ロリコンの分際で俺と同じ土俵に上がろうとしやがった。
なんてことだ。次の手を打たねば……!
「あのー、そろそろモチョモの話を聞いて欲しいところなんだけど……」
忘れてた。
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