第47話 理想と現実
「へぇー、きみってチョロいんだ?」
「うっせえコムスメが」
今日の勇者会議にあいつはいない。代わりにいるのがこのコムスメだ。
「俺から言わせりゃお前のほうがチョロいだろ。ほとんど崖っぷちの世界で勇者しやがって。んでどれくらいまで魔物を退けたんだ?」
「もう2割くらい奪還したかな。魔法って便利だよねー」
こいつ魔法使い系か。
そういや他の世界の魔法ってどういうのか興味ある。
「お前の世界の魔法ってどんな風に使うんだ?」
「ん? 普通に魔法の杖と呪文でだけど、なんで?」
「普通なのかそれ。俺んとこと全然違うぞ」
「えっ、なになに? 興味ある!」
説明するの面倒だが、あいつもいないし暇だから教えてやるか。
俺は大体の知識で魔法の使い方を教えてみた。
「魔方陣さん? へー、面白いね。呪文とか覚えてるの?」
「覚えるっつーか、結構適当でも発動するぞ」
「適当ねえ。どんな感じ?」
どんなとか聞くなよ。軽く犯罪だから。
「えーっとな、体内のボルテージを高めて属性のイメージを唱えるんだ」
「よくわかんないからちょっと具体的に言ってみてよ」
「やだよ。言ったら訴えるつもりだろ」
「なんで? よくわかんないけど訴えないからさぁ、ほらほら」
しつけえなコムスメめ。
いやこれはチャンスだ。ここで俺が呪文を唱えてドン引きさせれば絡んでくることもなくなるだろう。
「じゃあ水魔法を。『ふふっ、坊や、汗びっしょりじゃない』『そんな、これはお姉さんがじらすから……』『私のせい?』『あっいえ……』『それじゃもっと濡らしてあげる』『お、お姉さん、! 僕はもう、もう……っ』」
「……えっ?」
「今のが水魔法だよ」
「ごめん、ちょっと理解できないんだけど」
「性的興奮により魔力が増幅されて魔方陣さんから放出するんだ」
どうだ、ドン引きだろ。吐いてもいいのよ。
「つまりきみは、そういうシチュエーションに興奮するわけだ?」
「お、おう」
引いてくれよ。なんだその可哀そうな子を……違うか。なんか生暖かい目で見ているような感じを出すのはやめろ。
こうなったら話題の方向を逸らさねば。
「で、まあ俺のパーティーメンバーらはその魔法で戦うわけだ」
「確かきみんとこのメンバーって見た目10歳くらいなんだっけ? うわぁ」
「言っとくけど俺が言わせてるわけじゃねえからな」
「わかってるって。でもあいつ君がいたら大興奮だろうねぇ」
「まああいつとは殺し合い寸前までいったからな」
このことを言ったら本格的に殺戮が始まってしまう。だから俺たちは互いにタブーを知り触れぬようにしている。
「でもま、私がそっちの世界じゃなくてよかったよ」
「だろうな。俺もとっとと終わらせて楽になりたいしな」
未だに勇者が必要な理由がわからんしな。魔物のテリトリーへ入ればわかるのだろうか。
「────と、コムスメとはそんな感じの話をしているわけだ」
「ふぅん。学校で同じ歳の女の子と2人きりでお話ですか」
いつもの馬車でのたわいない会話の中、ごくまろが嫉妬っぽいことを言い出した。
「勘違いすんなよ。俺とコムスメの間は近付きやしないからな」
「ほんとですかー? 大体わざわざコムスメとか強調している辺り怪しいですし」
仕方ないだろ。名前が
「そこらへんは信用問題でしかないな。お前がどれだけ俺を信頼しているかだ」
「もちろん信用していますよ。たかがコムスメに勇者様がなびくわけありませんから」
わかってるじゃないか。しかもそれ自虐にもなるんだが、放っておこう。
「2人だけの世界のとこ申し訳ないね。そろそろ村に着くね」
空を飛んで偵察に行っていたちとえりが戻ってきた。なんだもう着くのか。思ったよりも早かったな。
「んーで、マメック聖人だっけ? そいつはまだいるのか?」
「いるね。もう既に話はつけてきたね」
さすが段取りいいな。後は会うだけか。
「そんで、手は貸してもらえそうなのか?」
「当然ね。聖人の弟子が旅に同行してくれるそうね」
そいつは有り難い。元々面識はあったみたいだし、聖人っていうくらいなんだから、魔王討伐となれば率先して動いてくれるんだろう。だけど本人が動き回るわけにはいかないから、弟子を貸し出してくれるって感じかな。
弟子は弟子で修行の一環として旅をするみたいな。
色々考えているうちに馬車は村へ入り込んでいた。隣の家まで数百メートルはありそうな、のどかそうな村だ。
そのなかでも比較的家が集まっている場所の先に目的の教会があった。
ちとえりは真っ先に馬車から降りると、教会の扉を叩きだした。
「さっきぶりね。ちとえりね」
そう叫ぶと、扉が開き小太りの老人が出てきた。あの人がマメック聖人かな。
異世界で小太りのじじいといえば、好色なエロジジイと相場が決まっている。しかしこの人からはそういった雰囲気を感じない。なんかほんとに聖人といった印象だ。
「お早いお着きで。それで、例の子らは?」
「馬車で寝てるね」
ちとえりが聖人を馬車に案内し、ごくまろたちを見せる。すると聖人は手を出しごくまろととくしまの頭に触れる。
「ふぇ!?」
暫く触れたところで、ごくまろが突然飛び起きた。とくしまも元気そうになっている。これは凄い。
「なあ、今のそれ、俺にもやってもらえるか?」
「ちとえり殿、こちらの方は?」
「今回の勇者ね」
すると聖人は俺のことをまじまじと見つめ、軽くため息をついた。
「なるほど……申し訳ないが、無理ですな」
「えっ、なんで!?」
「あなたには神が与えた力がある。その力以上のものは引き出すことはできない」
俺、そんな力あるの!? ……いや、ないだろ。どっちかっていうと神の呪いじゃないのか?
だけど聖人が言うんだからなんとなく頭の中に入れておこう。
あと聖人はシュシュにも同じことをすることで、普通に動けるようになっていた。シュシュは少し動けないくらいのほうがいいと思うんだが、次の国のこともあるし仕方ないか。
「助かったね」
「いえ、お役に立てたようでなにより。それと──」
聖人が何かを言いかけたところで、教会から誰かが出てきた。
そしてその人物こそが、俺が探し求めていたものだった。
まず胸。でかい。Fカップはあるだろう。
そしてキュッとくびれた腰。
女性としては少し高め。160ちょっとはある背丈。
見た目25くらいだろうか。ブロンドの髪に彫りの深い西洋顔。
洋物だ。洋物のお姉様だ。なんと、なんと美しい!
「聖人様、準備が整いました」
「それはいいタイミングだ。ちとえり殿、彼女が約束の回復術の使える僧ぞ」
「うっ」
ちとえりが一瞬渋い顔をした。俺の好みドストライクな女性が現れたことに対してだろう。
いじめたりするなよ。お姉様は俺が守る!
「……ちとえりね。よろしく」
「宜しくお願いします」
ちとえりが渋々握手する。しかし彼女────聖女様は笑顔だ。美しい。
俺はちとえりを押し退け、聖女様の前に立つ。
「俺……いや、僕が勇者です!」
「勇者、様?」
聖女様は俺が差し出した手をまじまじを見、そして顔を逸らせる。照れているのかな?
「ふんっ、オスガキか」
えっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます