第46話 下半身のだらしない勇者
「悪いとは思ってるけど、これは勇者殿に必要なことね」
俺が宿に引き籠っていると、ちとえりが突如現れ言い訳をかましてくる。
なにが必要だってんだ。俺に嫌がらせすると世界が平和になるとでもいいたいのか?
「最近の勇者殿は下半身がだらしなさ過ぎるね」
ちとえりがなにかをほざきながら、俺が腰かけているベッドの対面にある椅子に座った。
俺の下半身がだらしないだと? 冗談じゃない。これでも俺は一途なんだ。女であれば誰でもいいわけじゃない。
だから俺の下半身はかなりしっかりしていると思うぞ。お姉様方にしか操は捧げん。
「……なんか不服そうね」
「当たり前だ。俺は身持ちが固いんだよ」
「身持ちが固いって、勇者殿は女だったかね?」
身持ちが固いって女に対してしか使わないのか。なんで異世界人に日本語を教わってるんだ……。
「まあ勇者殿の下半身が固いってことで覚えとくね」
「だからそういう誤解されそうなこと言うな! 俺は特定の女性としかやらん!」
「えぇー……」
なんだその信用できないって顔は。
「いいかちとえり。下半身がだらしない男ってのはな、老若構わず目についた女全てに手を出すような奴を言うんだ」
「勇者殿、それはただの辻ファッカーね。下半身がだらしないっていうのは、2人以上の女に手を出す男のことを言うね」
えっ、嘘! 俺の下半身ってだらしなかったのか!?
「いやいやいや! そりゃあお前が日本語をよく知らないだけであって、実際にはそうじゃないんじゃないのか?」
「そもそも日本は一夫一妻制が法律で決まっているね。だから複数に手を出すことがだらしないと言われるね」
くっ……、俺がアラブ人だったらこんなことには……っ。
「でもま、いっか。下半身がだらしないと思われても俺に損はないし」
「おっと開き直ったねクソ勇者殿」
下半身がだらしないと思われたくないからと、無理をしてなんになる。だったらそう思われてもいいから自由に生きたほうが楽しいじゃないか。
思われるだけならそんなにデメリットもないしな。そもそも結婚していなければ何十人と関係を持ったところで法的にも問題ないし、ここ日本じゃないし。
「んで、なんであんなことしやがったんだよ」
「私らは魔王を倒しに行くために勇者殿を召喚したのね。こんなところで肉欲に溺れて先へ進めなくなったら大変ね。だからトラウマを埋め込もうと思ったね」
勝手に決めるなよ。俺がそんなに意志の弱い人間に見えるか?
だったら間違えている。俺はちゃんとこらえられる男だ。魔王退治のためにお姉様たちとの酒池肉林を控えろと言われれば、極力控えるよう努力できる。
「もう少しくらい信用してくれてもいいだろ」
「できるなら苦労しないね。それよりとっとと準備するね」
「準備って、ごくまろたちはどうすんだよ」
「馬車に転がしておくね。ようやく目当ての人の場所が判明したし、そっち行くのが先決ね」
「急ぐのはわかるが、もう少し弟子にやさしくしてやれよ」
「だからこそね」
よく意味がわからん。
そんなわけで俺はちとえりに説明を求めた。
ちとえりが探していた人物とは、マメック聖人という色々とギリギリな名前の奴だ。
なんでもその人に触れてもらうと、その人の力が引き上げられるという、これまたアウトに近い能力を有しているらしい。
だからその人に会ってごくまろたちの力を引き上げてもらえばあいつらの国と同じように動けるようになるそうだ。
ソースはちとえり。こいつも以前出会ったことで動けるようになったようだから間違いないのだろう。
「うむ、そいつと会うのは確かに優先事項だな。ところでちとえりよ」
「なんね?」
「まだ実際に手を出していない場合でも下半身がだらしないっていうのか?」
「……さあ時間は待ってくれないのね! すぐ行くね!」
あっ、こんにゃろ、誤魔化しやがったな!
まあいい。馬車の中に逃げ場はない。たっぷりと謝罪してもらおう。
「んで、例の聖人ってのはどこにいるんだ?」
「ここから3日くらい馬車で行ったところにある小さな村の教会に来ているらしいね。聖人は1ヶ月くらい居るらしいけど情報の時期からして微妙ね」
また縦並びの馬車に乗りながら、俺たちは目的の人物がいると思われる場所へ向かっていた。
いろんなところを巡っているから探していたのか。そして微妙というのは、きっと情報源が1ヶ月くらい前のものだからだ。だけどもしいかなったとしても足取りが掴めれば探しやすいしな。
「ところで勇者殿。私はいつまで吊るされていないといけないのね」
「反省したと俺がみなしたらだ」
「せめて逆さ吊りはやめてね。パンツ見え放題なのね」
「誰も見てねえから大丈夫だ」
おしおきとしてちとえりの足首を縛り、天井からぶら下げている。これで明日雨になったとしても構わない。
それにちとえりのパンツを見たがる奴なんてスキモノを通り越して変態の類だ。そんな奴はこの場にいない。
「んでもって他の情報はどうなんだよ」
「他のってなんね」
「回復手段だよ。なんかの術使える奴探すって話になったろ」
「あーそれなら聖人かその周囲の人間が使えるっぽいね」
どちらにせよ目当ては一緒ってことか。そりゃあ好都合だ。
死んでも生き返るなんて贅沢は言わない。だけどせめて腕とかもげても生えるくらいは欲しい。
あいつはかなりのダメージを受けていたのに次の日普通だったからな。痛いのは嫌だが、治ってくれるならある程度の無茶はできる。
「ところで勇者様。なんでちとえり様は縛られてるんですか?」
「ごくまろは知らなかったか。あいつは俺をハニートラップにはめて俺とお前の仲を引き裂こうとしたんだよ」
「なっ!?」
ごくまろは驚愕した顔でちとえりを見た。
「…………ちとえり様、どういうことですか?」
「う、嘘ね! 勇者殿は嘘を言っているね!」
ああ嘘だ。だけどちとえりだって俺を騙したんだからこれでおあいこだ。
「勇者様、他人の恋心を利用するのは最低です!」
ううっ。
とくしまの言葉にかなり揺らいでしまった。そうだよな、やっていいこととやっちゃいけないことで分ければ、これはやっちゃいけないことだ。しかも無関係のごくまろを利用するなんてもってのほかだ。
「というわけでごくまろ、さっきのなし」
「えっ!?」
この腐った世界の中、ごくまろだけは俺の理解者だと信じよう。
11歳の子に諭されたのは微妙な気分だが、とくしまにも後で詫びをしないと。
「すまないなごくまろ。お前との約束はきっちりと守るから」
「あ、はい。じゃあまず、約束を3つに増やしてください」
「えっ!?」
「守ってくださいね?」
いやらしい笑みを浮かべるごくまろに、俺の考えは間違っていたのではないかと思い始めた。
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