第37話 地球侵略疑惑
「おっ、元気そうだな」
「まあな」
翌日学校へ行くと、あいつは元気に登校していた。足や腕、それに目もなんともなっていない。すげえな回復魔法。
これだけ綺麗に治るんだったら、多少の無茶はできそうだ。羨ましい。
いやそうじゃないな。そもそもそこまで無茶するような状況まで追い込まれるのは嫌だ。少しでも安全に進みたい。
というわけで昼休み、俺とあいつは屋上で情報交換をすることにした。
「まだ手とか痺れたり、幻肢痛みたいなのが起きるんだけど大体好調だ」
「そりゃよかった。あの姿を見たとき正直びびったぞ」
昨日の話だ。手足が吹き飛び片目が潰されていた。思い出しただけで鳥肌が立つ。
そんな体でどうやって異世界に行き来したのかというと、あいつの転移はペンダントを握り念じるだけでいいという、とても便利なものだった。まああの姿じゃ這うことすら無理だからな。
「そういやお前、ドラゴンとは戦ったのか?」
「いや。その代わり魔物の群れと遭遇しちまった」
「ほぉー。んで、どうだったよ。まあその姿からして大した数じゃなさそうだけど」
「数十万はいたと思われ」
「はぁ!? ウソだろっ」
あいつは唖然とした顔をしている。
そりゃ数十万もの魔物相手に無事どころかケロっとしているんだから驚くだろうさ。
「一体どうやって倒したんだよ」
「うちの魔法使いが一撃で終わらせたんだよ……」
俺はため息まじりに答えた。
また俺の出番はなし。飾り勇者と言われても仕方がない。
「ロリっ子魔法使いか。本気で羨ましいぜ」
「……お前、あのバカが使った魔法を知らないからそんなことが言えるんだ」
俺はあいつにちとえりが使ったタウンストライクについて説明した。
「…………マジか」
「マジだ」
あいつは再び唖然とした顔をした。こんな凶悪魔法、他にはない。
待てよ、ストライクシリーズとか言ってたよな。つまりそれって上には
……もう封印してもらおう。これ以上は本気でやばい。
「お前の世界ってとんでもない魔法が蔓延ってるんだな」
「他にもあるぞ。メギドなんたらっていうやつ」
「メギドって時点で物騒だな。どんだけやばいんだ?」
「水だろうと土だろうと物質全てが燃料になって燃え移るらしい」
「……あのさ、ひょっとしてお前、いらねんじゃね?」
ぎくっ。
この野郎、俺がなるべく思わないようにしていることに気付きやがった。
「ばばばばか言うなよ。おりゃあ勇者だぞ。俺しか魔王を倒せない的な系なんだぜ」
「でもそのロリっ子の魔法があれば倒せるんだろ?」
「お前な、星ひとつ丸ごと焼く魔法で倒したところで意味あんのか?」
魔王と共に星ごと滅ぶ。そんなアホな選択は流石にしないだろう。
ちょっと待てよ。そういやあの星自体がそろそろやばいとかそんな話だったはずだ。んで他の星に移住するだのなんだのって。
「なあ。しすてむそらーれくわとろ? とかいう星知ってるか?」
「んー? シュステーマソーラーレって太陽系のことだろ? クワトロってことは火星じゃねえか?」
えっ!? 太陽系ってそんな名前だったのか! ちょっとかっこいいかもしれん。俺もいつか使おう。シュステーマソーラーレの勇者とか。
「いやでも今現在人が住んでいるとか言ってたんだが……」
「ふん? だったら地球じゃねえの?」
地球は第三惑星、クワトロは四だ。数字が合わない。
待てよ、地球って惑星としては三番目であり、恒星も含めた星で数えたら四番目じゃないか!
やべえ、あいつら地球を侵略しようとしていやがる!
「どうしたんだよ急に。変な汗かいてんぞ」
どうしたもこうしたも、どうすんだよこの状況。
これでもし俺が勇者やめたとする。だけどあいつらはがっかりしながらも元の国へ戻り、また勇者を探すだろう。
さもなくばちとえりが特攻して魔王を火だるまにし、あとは燃え広がる前に地球と入れ替わってしまうくらいはするはずだ。
俺は向こうに行けば助かる。だけど他のみんなは助からない。
この事実をあいつに教えるべきか。だけど教えたところでどうにもできないはずだ。俺たちは向こうで勇者でもこっちじゃただの高校生。特別な力なんてありゃしない。
無駄に不安を煽るだけになりそうだ。これは俺の心にだけ閉まっておこう。
とにかく、今日からはあいつらの動向を探らないといけなくなるな。
「ちょ、ちょっと大切なことに気付いたんでな」
「よくわかんねーけど数少ない勇者仲間だ、頑張ろうぜ」
あいつは俺の肩をばしばし叩き、笑いながら言う。
いやほんと、どうすりゃいいのかねぇ。
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