勇者はいつも全裸で登場する

狐付き

普人族(超小人族)の世界

第1話 異世界

 なあ、家の風呂が突然大浴場になっていたなんて信じられるか?

 信じられないよなぁ。俺だって信じたくない。

 じゃあこの今見ている風景は一体なんだ?

 入る風呂を間違えたとか? いやいや、俺ん家だぞここは。

 というかうちに風呂は1つだし、こんな広い部屋すらない。

 うちの風呂が大体1坪くらいだが、ここはひぃふぅみぃ……わからんが、体育館くらいはある。

 しかも湯船が無いじゃないか。それどころかシャワーも。

 振り返ると風呂場のドア。その向こうには洗面台や洗濯機があるいつもの脱衣所。

 間違いない。ここは長年暮らしているいつもの我が家だ。


「きゃあ! 勇者様よ!」

「ほんと! 勇者様だわ!」


 な、なんか声が聞こえるぞ。しかも子供の声だ。

 声質からしてとても幼い感じだが、幻聴だよな。

 恐る恐る目線を下げると、そこにはメイド服を着た女の子が数人。


「ぎ…………ぎゃああぁぁぁぁ!」


 やばい、素っ裸を小さな子に晒してしまっている! 完全に変態だ!


「勇者様、よくぞおいでくださりました!」


 見知らぬ幼女の前で全裸とか、確かに勇者だよ。

 しかも彼女らは顔を赤らめて、なるべく俺の顔を見ないようにしている。何プレイだこれは。


「さあさあこちらへ。女王様がお待ちですよ!」


 幼女の1人が俺の手を掴み、引っ張っていく。

 やめて! まじで! そこまで勇者じゃない!

 いやもといそんな勇気微塵もねぇから!


「ままま待ってくれ! 女王様ってなんだ!? その前に服、服を!」


 俺はドアの向こう、脱衣所に飛び込もうとする。

 しかしそこで幼女たちは俺にしがみつき、止めようとした。


「だ、だめです! 勇者様が来たらすぐ通すよう仰せつかってますから!」


 俺の体のあちこちにしがみついてきやがる。全裸なのに! 俺全裸なのに!


「やあぁぁぁめえぇぇぇてえぇぇぇ!」


 このままでは恥ずかしくて死んでしまう。死因が幼女とか人として最低じゃないか。


「じゃ、じゃあせめて布! 何か体を隠せる布をくれ!」

「あの、私のでよろしければ……」


 そう言い、幼女の1人がエプロンドレスを外そうとする。


「足りない、その布足りないから! もっと俺が1人すっぽり入るくらいのやつ!」

「お願いします! 今用意できるのはこれだけなので! このままでは私たち、女王様に叱られてしまいます!」


 素っ裸の男をいきなり連れて来たほうが叱られるから!


 しかしこんなところで問答していてもらちがあかない。覚悟を決めてさっさと終わらせたほうが楽そうだ。着ぬは一時の恥。


「わ、わかったよ。とりあえずそれで手を打とう」


 俺はエプロンドレスを受け取った。

 しかし幼女が着ていたものだ。どう考えても俺に着られるはずがない。とりあえず腰に巻いて大事な部分だけでも隠せるようにしなければならない。


 大事な部分が隠れ、少し気を落ち着かせられたところでいくつか疑問が湧いて出た。

 なんだ勇者って。

 ひょっとしてゲームとかの、魔王を倒しに行くとかっていう類?

 俺を騙すためにセットを組んだとか? まさか、誰にそんなメリットがある。

 じゃあ本当にここはどこなんだ。ひょっとして異世界?


 んでこの世界と俺の家の風呂のドアがリンクして……なんだその嫌がらせは。

 そして幼女メイドは俺の手を引っ張り、どこぞへと連れて行く。女王様に会わせるとか言っていたが、こんな格好でいいのだろうか。


 などと考えているうちに、なにやら仰々しいドアの前へ立たされていた。メイドがドアを開けると、そこには広い空間と……整列しているたくさんの子供。


「さあ勇者様、こちらです」

「いやああぁぁぁっ! やめてええぇぇぇっ!」


 俺が力ずくで抵抗していると、後ろからも他のメイドが押しはじめた。やめて! 尻は生だから! わかったから触らないで! 

 降参し、謁見室らしき部屋に入る。顔を見られたくないからなるべく下を見て歩いていると、突然メイドが立ち止まった。恐らく女王の前まで来たのだろう。顔を伏せたまま目で正面を確認すると……女王らしき幼女がいた。


 メイドが床に片膝をつき、頭を垂れる。それに倣って俺も──やろうと思ったがやめた。今片膝をつく体勢になったら確実に別の頭が挨拶してしまう。


「ほう、そいつが勇者かえ」


 女王らしき幼女がメイドに対し、偉そうな口を叩いた。

 本当に偉いのかもしれないが、俺から見たら区別がつかない。


「はっ、はい! 見てくださいこの巨体。恐らくは大巨人族かと思われます!」

「確かに図体はでかいが、はたして使い物になるのだろうかのぉ」


 そんなに俺はでかいほうではない。しかし周りを見るとそこはロリショタだらけ。確かにこいつらと比べたらかなりでかい。


「じょ、女王様! それは私が保証します! 勇者様の勇者の部分は勇者のナニ恥じぬ立派なものでしたから!」


 やああぁぁめえぇぇてぇぇよおぉぉぉ!


 泣きながら幼女にそれ以上言わないでくれと懇願する俺。本気で死にたいが、ここで死んだら永遠に恥辱で俺の名は汚される。

 しかしそんな俺のことなんてどうでもいいと言った感じで、女王は手をパンパンと叩く。


「ちとえりや。やい、ちとえりはおらぬか?」

「女王様、こちらに」


 ちとえりと呼ばれた──これまた幼女は、女王の下へ来た。


「勇者に詳しい話をしてやれ。それと勇者の意味をはき違わぬよう説明いたせ」

「はっ。かしこまりました」


 いや、勇者の意味なんとなくわかっているから。この姿は勇者と関係無いし。


「では勇者殿、こちらに。ささこちらに」


 そう言ってちとえりは俺の手を掴んでどこぞへ連れて行こうとする。

 女王様は──背中を見せた俺の生尻を見て鼻で笑った。

 誰か俺を殺してくれ。


 

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