第6部



「わっ!」

 塔を過ぎ去ってから少し経ってようやく自身がゴールを通り過ぎていた事に気付いたメリーは、突然目の前に現れたパンドラに驚いて尻餅をつく。

「ゴールを破壊して、一体どこを目指すつもりだったんだ?」

「でへへ・・・・・・」

 ジト眼で見下ろすパンドラに、メリーはバツが悪そうに苦笑した。

「塔の修繕までさせられる羽目になったぞ。・・まぁおかげで新しい力も手に入れたがな」

「えっ! なになに~?」

 新しい力と聞いたメリーは、その一言に食いつく。

「【蝶・創・生クリエイト】」

 パンドラはメリーの目の前で《ウンコ》と《木の棒》を創り出すと、まるで遊園地で子供に風船をあげるマスコットキャラクターの様に、先端にウンコを取り付けた状態で手渡した。

「っは~っ! ウンコ! ウンコつくった~スゲ~~~ッ!」

 ウンコ故か、パンドラの特異な能力故なのか、メリーはウンコを受け取るとまるで子供の様に地面をケラケラと笑い転げる。

「・・遊びはもう終わりか?」

「プロレスごっこする~!」

 パンドラに半ば催促されたメリーは、新たな遊びとしてプロレスを提示した。

「プロレス・・人間共がやる格闘技の一つだったか?」

「おねえちゃんリングつくって~」

「リング? 専用のフィールドで戦うのか。スマンがあまり詳しくないのだ。どんな物にすればいいのか、絵で描いてくれ」

「わかったー!」

 頼まれたメリーは再びスケッチブックとクレヨンを取り出すと、嬉々としてプロレスの絵を描き始める。

「ふぅ~やっと追いついた」

「遅かったな」

「君等が速過ぎるのさ。それで今度はプロレスだって?」

「あぁ。関係資料が欲しい。特に技に関する物を」

「了解シマシタ」

 パンドラのオーダーを受けたニコラは、自身のスペックを駆使し検索を始めた。

「・・どうだ、見つかったか?」

「見ツカリマシタガ、数多ク存在シマス。ドウシマショウ?」

「系統別に分けてリストアップしてくれ」

「承知シマシタ」

 パンドラの命を受けて、ニコラは即座に検索で見つけた技を系統別に割り振っていく。

 そして分類が完了した技は、以下の様にリストアップされた。

 《クラッチ系》《締め系》《蹴り系》《殴打系》《投げ系》《ストレッチ系》

「フム。思っていたより大分種類があるな。だが大きく分けて〝立っている状態の相手に仕掛ける技〟と〝倒れている相手に繰り出す技〟の二種になるようだ。後者は相手が倒れている事が前提となる以上、先に何らかの技で相手を倒しておく必要がある。となると、追撃技としての意味合いが強いか・・」

「やっぱりここは、立っている状態の相手に仕掛ける技からマスターするべきだと思うね」

「そうだな。何か良い技は無いのか?」

「できたーッ!」

 その時、プロレスリングの絵を描いていたメリーが、完成した絵をパンドラの方に掲げる。

「フム、フィールドは正方形か。四隅にあるのがポールだとして、これを繋ぐように囲んでいるこの細長いのは何だ?」

「ニコラが見つけた資料映像によると、柔軟性の高い物みたいだね」

 トーマスの見解に、パンドラも同じ映像を確認すると、そこには相手の技によって飛ばされた選手が、その囲いに受け止められ、リング中央へ押し返される様子が映っていた。

「コレは・・・・・・」

「ゴムか、あるいはスプリングの様な物かな?」

「関係資料ニヨリマスト、ロープ系ノ物ニ何カシラノカバーガカカッタ物ヲ使用シテイル様デス」

「じゃあ、アレ自体が伸び縮みしている訳でもないんだね」

「良し、分かった。やってみよう・・【蝶・創・生】!」

 次の瞬間、パンドラの掌から、四角形のプロレスリングが作り出され、軽々と地面に放り出される。

「ヒャーッ!」

「・・改めてみると、とんでもない能力だ。まるで神の様だよ。僕はあまり信心深い方じゃないけど、こればっかりは思わずそう感じてしまうね」

「そんな事より技を教えてくれ」

「アイッ! 今からメリーはおねえちゃんのししょーになります!」

「おぉ!」

「メリーのことはししょーとよびなさい!」

「では師匠、私に最初の技を伝授してくれ」

「よかろー。さいしょのわざは・・・・・・〝のグソツイスト〟!」

「!? な、何だって?」

 聞いた事の無い技名に、トーマスは思わず聞き返した。

「野グソツイスト・・それはどうやるのだ?」

「まず、ウンコになります」

「意味が分からない・・・・・・」

「成程、分かった」

「分かるの!?」

 驚愕するトーマスをよそに、パンドラは淡々と【蝶・効・果バタフライエフェクト】による群生体で巻きグソを形成する。

「いや、それただの巻きグソ!」

「これであいてにまきついて、ギ~~~~ッってする!」

「締め上げるのか」

「精神的ダメージ半端無いわ! ・・って、うわぁぁやめろやめろやめろコッチ来んなァァァ!」

 スッとトーマスの方に視線を向けたパンドラは、恐怖の叫びを上げるトーマスに対し、容赦なくにじり寄った。

 そして断末魔にも似た悲鳴が周囲に木霊する。


――――――「ギャァァァァァァァァァ!」――――――――


「うぅ・・・・・・うっ・・うッ!」

 それから少し後、そこには膝を抱え涙するトーマスの姿があった。

「悪かったトーマス。まさかそこまでの威力とは思わなんだ・・」

「トーマス、ポジティヴニ考エマショウ。実際ニ巻キツイタノハパンドラデアッテ、本物ノウンコデハアリマセン」

「分かっとるわ! 気持ち的なこう・・アレだよ!」

「〝アレ〟ですか?」

「まぁ良い、次の技に移ろう師匠」

「は!? 次!? 次って何!? まだやるの!? 僕もうヤダよ!? 今ので限界だからね?」

「つぎは・・〝シャイニングリバース〟をやります!」

「ホウ」

「待って! 嫌な予感がする! 名前からしてもの凄く嫌な予感がする!!」

「いままでたべたものを、おもいっきしはきだします!」

「ホラぁぁぁぁやっぱりぃぃぃぃ!! 絶対ロクな奴じゃないと思った!」

「チョットむずかしいので、メリーがおてほんをやります」

 そう言うと、メリーは当たり前の様にトーマスの方へ顔を向ける。

「イヤ、おかしい!  おかしいんだよなぁ! 何で君まで僕の方を向くのかなぁ!?」

 トーマスが必死に拒否の姿勢を見せる中、無慈悲にもメリーの口内に眩い閃光が灯った。

「くそぉっ、大人しくくらってたまるかっ!」

 トーマスは是が非でも射線上から逃れようと駆け出し、そのままニコラでムーンアークへと逃亡を図る。だが次の瞬間――


 カッッッ!!


 眼が眩む程の閃光が周囲一体を埋め尽くし、トーマスは駆け出してからおよそ三歩も進まない内に、白一色の世界に呑み込まれた。

 それと同時に、トーマスは自身の身体全体が生暖かさと、少しの粘り気と、そして酸っぱい臭いに包まれているのを感じ取る。

「! っクサッ! ヴォェェェェェ何コレ!?」

「ゲロだよ~!」

「ふざけんなァァァ! 爽やか元気いっぱいに言ってもダメェェェェ!!」

「大丈夫デスカ? トーマス」

「うぅぅぅぅ・・・・・・」

 ニコラに内蔵していた放水機能で全身を洗い流しながら、トーマスは自らにこびりついた臭いを気にかけた。

 が、その直後――


 カッッッッッ!!!!!


「・・・・・・・・・・・・・」

 先と同様の閃光と共に、トーマスは再びゲロ波をその身に浴びる。

「おいぃぃぃぃぃ! 洗い流した傍から何してくれてんだァァァァァァ!!」

「ハァ、中々消耗が激しいなコレは」

「お前かァァァァ!」

「けっこうつかれるよ? だからつよいけど、たくさんうてない」

「イヤそもそも最初から撃つなァ! サンドバッグ扱い良くないっ!」

「トーマス、イメージだ。汚い物と思うからダメなのだ。もっと被っても問題ない物に置き換えてイメージしてみろ」

「そーぞーりょくー!」

「はッ! そうか、ここは夢の中の世界だった。いくらゲロって言ったって、イメージ一つでどうとでも・・」

「そうそう。もっと肩の力を抜いて気楽にいきたまえ」

 そう述べるパンドラは、いつの間にかメリーと共に身体を風船の様に膨らませ、宙をプカプカと漂っていた。

「イヤ、力抜き過ぎだろ!」

「今、私の事を軽い女だと思ったろう?」

「思ったわ! 物理的な意味でな!」

「こっから〝バックブースカー〟するー!」

「オイ待て! 完全にアレの予感しかしないじゃんか! 待ってくれ! 今別の物にイメー・・」


 ブゥゥゥゥゥゥ~~~ッ!


「くっさぁぁ~~っ!」

「成程、そうするのか。では私も」

「待っ・・」


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


「アァァァァァァァァ~~ッ!」

「ちなみに、だしかたとだすむきかえると、おそらとべる!」

 そう言うと、メリーはブッ、ブッ、と断続的にガスを出し、俗に言うホバリングの様な状態を作り出す。

「ホウ、そういうのもあるのか」

「フグゥゥゥ・・・・・・ッ」

 バックブースカーによるガスをまともに吸い込んでしまったトーマスは、嗅覚だけでなく視覚も充分な機能を封じられていた。

「あのね、おねーちゃん・・」

 そんな中、メリーはパンドラに対し、そっと耳打ちし始める。

「何だ? ・・フム・・・・・・・フム・・・・・・ホウ! ・・了解した」

「いったとおりのじゅんばんでやって!」

「あぁ」

 メリーから何らかの指示を受け取ったらしいパンドラは、【蝶・効・果バタフライエフェクト】でトーマスの前に踊り出ると、何とその股間へ水平チョップをくらわせた。

「!?? ;p」いぴっあぅ!? ¥;:p「.。kっくあぁ~!??」

 突然の急所への衝撃に、困惑を隠せないトーマス。

「・・・・・・モッコリマンチョップ」

 パンドラは再び【蝶・効・果バタフライエフェクト】を使い、今度はトーマスの背後に出現すると、腰を落とし、両手を組み合わせて、人差し指を立てた。

「・・コレが最後だトーマス」

「!?」

「おケツドライバーッ!」

 直後、その両人差し指は〝人刺し指〟となり、閉ざされていた筈の扉を貫いて、トーマスの意識を異世界へと飛ばす。

「!???? ~~・:。、¥;:」@p:・:@::・@@;・:p:!%&$‘(’)$$U?」

 後にトーマス本人はこの時の事を、『何が起きたか分からなかった。周りが真っ白になり、何も考えられなくなって、気が付いたら宇宙を漂っていた』と語った。



《眠りの森の美女編――第7部へ続く――》

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