第7部



「あとこれはね。あそびっていうか、まねっこなんだけど・・」

 そう言ったメリーは突然、それまでの元気と楽しい事に満ちた表情を消し去り、スンとした無表情を露にしたのである。

「? ・・何だそれは? 何の真似なんだ?」

「ゴリラ! これは〝ゴリラのかまえ〟」

「ゴリラの構え・・それは何か戦いに使えるのか?」

「ゴリラはつよいの。だからチョッとのことじゃおこったりしないの」

「あーつまりそれは・・敵の挑発や言葉攻めによって、精神的に動じたりしない構えという事か」

「おねーちゃんもやって!」

「あぁ。そうだな師匠・・・・・・(スン)」

「ちがう! もっとゴリラのきもちになって! あいてのなんばいもつよいじぶんをそーぞーするの!」

「了解。・・・・・・(スーン)」

「・・・・・・(スーン)」


 ス―――――――――――――ン


 ZOOOOOOOOOOOOOOOOON!!


「「!?」」

 突然の地鳴りに、パンドランとメリーは周囲を見渡す。

「アレは!」

 何か巨大なシルエットの存在に気付いたパンドラが、その方向を見上げると、そこには象と猪を足して二で割った様な怪物が立っていた。

「バクだ・・・・・・」

「バク?」

「バクはゆめをたべるの。このせかいもすこしずつアイツにたべられてる。メリーがいつもあとすこしのところまでおいつめるんだけど、いつもそこでにげられちゃうの・・」

「ホウ、なら今日は記念すべき初勝利の日になるな。もしかするとこの世界脱出のカギも奴が握っているかもしれん」

「ムフー! きょうこそたおーす!」

「良し、行くぞ!」

「あっ! あのおにーちゃんは?」

「・・奴はもうダメだ。ニコラがきっと連れ帰ってくれるだろう」

「そっかー」

「承知シマシタ」

「では気を取り直して・・・・・・・アクセレート」

 《Accerate》

 ドゥン! という重い衝撃音と共に二人はハグの下へ向けて同時に駆け出す。

 二人がバクの下へ辿り着くのに、そう時間はかからなかった。

 射程圏内に入った事を確認すると、パンドラは加速状態のまま【蝶・効・果バタフライエフェクト】を発動し、群生体による怪獣の姿へ変身すると、バクの横っ面を殴りつける。

「!? ウボァァァァッ!」

 突然真横に現れた相手からの不意打ちとも言える一撃に、バクは成す術も無く倒れ込むが、パンドラは攻撃の手を止めず、大きく開けたその口から光線を光線を繰り出した。

 GYUDOOOOOOOON!!

「とおっ!」

 そこへ更なる追撃として、同じく巨大化したメリーが空中からドロップキックの様な一撃を放つ。

 出だしの流れは完全に二人の側が握っていた。ところが・・・・・・

「頂きマース!」

「!?」

 次の瞬間、バクは勢い良く飛び起きると、メリーのモコモコの髪の毛をムシャリと一口噛み千切ったのである。

「ギャアァァァァァァァァァおケケがぁ~! おケケがぁぁ~~~ッ!」

「落ち着け師匠。まだハゲた訳ではない」

 動揺するメリーを諭しつつ、パンドラは二射目の光線を放った。

 しかし、バクはパンドラの発射体勢に気付くと、発射直後の光線を、まるで水でもガブ飲みするかの如く、その体内へと飲み干したのである。

「ゲェェェェップ」

「っ! ・・攻撃まで食べるのか!?」

「お前も頂きマース!」

 光線を飲み干すだけでは飽き足らなかったバクは、驚愕するパンドラに組み付き、その頭部を頬張ろうと迫った。

「くっ!」

 だが、【蝶・効・果バタフライエフェクト】による群生体の姿だったパンドラは、そのまま一度消失してバクの捕食を回避すると、巨大な風船の様に膨らんだ姿でバクの背後に再出現する。

「気体ならば食えまい・・バックブースカー!」

 物体で無い攻撃であれば食い尽くされる事も無いと判断したパンドラは、バックブースカーによるガスでバクの動きを封じようと、最大出力で噴射した。

 ところが、コレに対してバクはその象の様な長い鼻を向けると、変わらない吸引力でパンドラの出したガスを微塵も残さずに吸い尽くす。

「ガスまで効かんのか!? ならば・・」

 予想と真逆の結果に、せめて視界だけでも奪わねばと考えたパンドラは、バクの正面からシャイニングリバースを浴びせかけた。


 カッッッッッ!!


「うぎゃッ!」

 光の速度で吐き出されたゲロが中々取れないのか、視界を封じられたバクの足つきがよろめく。

「どこだ~・・どこだぁ~」

「(良し今だ!)モッコリマンチョップ!」

 大きな隙を作り出す事に成功したパンドラは、何の疑いも無く、バクの股間へ水平チョップをくらわせた。ところが・・

「おねーちゃんダメッ!」

「!?」

 次の瞬間、急所に一撃を受けた筈のバクは、微塵も悶える様子を見せず、それどころか逆にパンドラの位置をつき止め、蹴り飛ばしたのである。

「ぐっ!」

 何故モッコリマンチョップがバクに効果を成さなかったのか、その答えはメリーによってすぐに明かされた。

「バクはおとこでもおんなでもないんだよ」

「! 性別の概念が無いのか・・・・・・」

 既に習得済みの技が二つも通じない状況であったが、戦況はそこから更に悪化する事となる。

 唯一、パンドラ側が持っていたアドバンテージである頭数を覆す為、バクはかつてメリーが丸呑みした筈のゴズとメズを、まるでパンドラの【蝶・創・生バタフライクリエイト】の様にその手から生み出した。

「・・成程、あぁやって毎度ゴズとメズを作り出していた訳か」

 そう言うと、パンドラは武器を手ににじり寄るゴズとメズへと迫り、一瞬で絡み付くと、二体が武器を振るう間も無く一気に締め上げる。

「野グソツイストォッ!」

「グゥゥゥ・・・・・・」

「グ・・・・・・アァ・・・・・・」

「弾け散れぇッ!」

 直後、二体は無数のキューブ状にその場で破裂し、短い生涯を終えた。

「【蝶・創・生クリエイト】ッ!」

 群生体のパンドラは口から無数の小さなキューブを経てウンコを造り出すと、それを複数回連続で、バクへ向けて撃ち放つ。

「ギャァァァァァ!」

「また召喚される前に畳み掛けるぞ。お師匠殿」

「よかろー!」

 二体に続いてこのままバクも倒してしまおうと、二人が新たに攻撃態勢に入ったその時――

「ああっ! またにげちゃう!」

 追撃を良しとしなかったバクの身体がみるみる内に薄く透け、徐々に見えなくなっていく。

「透明化でもするつもりか? なら無駄だぞ?」

 ところがバクは身体を消すと同時に、その気配すらもそこから消し去ってみせた。

「~~~~~ムキーーッ! またにげられたぁ!」

「待て師匠」

「?」

 怒りのあまり地団駄を踏むメリーを、パンドラは落ち着かせる。

「奴の生体波導は記憶した。逃げられはしないさ・・」

「ばしょわかるの?」

「あぁ。地獄の果てまで追い詰めてやる」

 そう述べるパンドラの顔には、悪どい笑みが広がっていた。

「師匠、手を」

 パンドラが手を差し伸べると、メリーはそれに応じる。

「では行こう。奴に悪夢を見せにな」

 そう言うとパンドラは【蝶・効・果バタフライエフェクト】を使用し、メリー毎その場から消失した。

 生体波導探知能力で逃亡先の位置を掴んだパンドラは、メリーと共にバクの目の前に再出現すると、怪獣の姿を生かした鋭いツメでその顔面を切り裂く。

「ギャァァァァァ!!」

 顔を押さえ、よろめくバクに、メリーはどこからともなく取り出したウンコを叩き込んだ。

「ウンコパンチ!」

「!? ~~~~っっ!」

「ホウ、そういうのもあるのか」

 関心するパンドラをよそに、メリーは更なる技を繰り出す。

「ハナクソナパーム!」

 鼻をほじったメリーが、取り出したハナクソをデコピンの要領で撃ち出すと、バクに直撃したそれは、森の木々の様な広範囲の大爆発を引き起こした。

「ハナクソ? ・・また人間特有の物か? ならば私に無くともウンコの様に創れるかも知れん・・【蝶・創・生クリエイト】!」

 パンドラの手から現れた無数のキューブ群が先のウンコやプロレスリングよりも遥かに極小サイズへと圧縮されていく。

「・・・・・・(素材がよく分からんが、ウンコと系統を同じくして排泄物であるのなら、恐らく何かしら汚い感じの物で構成すれば問題なかろう)」

 そう考えたパンドラは、極小の黒い球体を創り出すと、メリーと同じ様にデコピン形式撃ち放った。

 文字通りの絨毯爆撃がバクの身体を焼き尽くす・・・・・・・焼き尽くしている筈なのだが、当のバクは何と、自らの身体を蝕む焔さえも食べ始めたのである。

「何だアイツは! ウンコ以外なら何でも食うのか!」

 苛立つパンドラに、バクは食べ尽くした焔をそのまま吐き出した。(辛い物を食べた時、火を吹く程と表現される事があるが、この時のバクはまさしくそんな様子だった)

「ならば・・・・・・」

 パンドラは、ウンコ形態でバクに野グソツイストを仕掛けると、そこから身体の一部を風船の様に膨らませ、バクではなく真下へ向けてバックブースカーを放つと、バクを空中へと誘う。

「や、やめろぉぉぉ~!」

 そして空中で姿勢を上下反転させると、そのまま地面へと急降下し、重力に身を任せた。

「遠慮するな。まだお前の悪夢は始まったばかりだ」

「全力で拒否するゥゥゥっ!」

「フッ、お前が言っていい台詞じゃないぞ?」

 直後、パンドラによってホールドされたバクが地表へ叩きつけられると、蜘蛛の巣の様に地面全体へ亀裂が走り、一気に崩壊したその下に広がる白一色の空間へと三人諸共飲み込まれる。



《眠りの森の美女編――第8部へ続く――》

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