第4部
「・・・・・・・・・・・・」
崩れ落ちる氷壁を回避する為、【
「時のかけらを発見した。これより回収する」
パンドラはハップが姿を変えた二つ目の時のかけらを拾い上げると、先に手に入れた一つ目のかけらと見比べる。
「フム、コレは・・・・・・」
そう言うと、パンドラは二つのかけらの断面をそっと合わせた。
するとパンドラの予想通り、二つのかけらは一瞬の光を見せるとまるで最初から割れてなんかいなかったかの様な一つの塊を形成したのである。
「やはり、合うかけらで良かった。さて、例の童話主人公は・・さっきからあまり距離が離れてないな。さては新たにかけらを見つけたか?」
『なら奪えばいい。上手くいけば横取りだ』
満足げな表情で合体したかけらを眺めるパンドラに、赤ずきんが容赦の無い提案をあげた。
『ンマッ! 野蛮だ事。血も涙も無いとはこの事ね』
『何だ? 向こうが手に入れるまで待って話し合いでもしましょうってか? フン、さすがオカマ野郎は考える事がお花畑だな』
『・・次オカマを侮辱したら殺すわよ』
『それはお優しい。私は〝今〟殺そうと思っていたところだ』
『あぁわわわ・・・』
「やかましい。どうせ互いに傷一つつけられんのだ。それ以上の不毛な会話はよせ」
『・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・チッ』
険悪な空気の中、パンドラの重く響き渡るような圧を伴う一声に桃太郎と赤ずきんが控えると、それに怯えきっていたアリスはホッと胸を撫で下ろす。
それと同時にパンドラは童話主人公との距離を詰めるべく、【
『えっ? 飛ばないんですか?』
「飛べばあの童話主人公と同じ様に、そこにあるかもしれないかけらを見逃す事になる。奴との距離は詰められるだけ詰めるつもりだが、それはあくまでかけらを捜索しながらだ」
『分かりました。私達も怪しそうな所が無いか探しますね!』
「あぁ。・・ん?」
何らかの異変を感じ取ったらしいパンドラが、僅かに走行スピードを落とした。
『どうしました?』
「奴の生体波導が移動した。横に動いているな? ここから近道出来ると良いが・・進路を変更する」
そう告げたパンドラは、僅かに進行方向を左側にずらすと、落としていた速度を元に戻す。
更にパンドラは、そこから童話主人公の生体反応に関する新たな異変に気が付いた。
「ム? 奴の生体波導の動きが変わった」
『! また移動を始めたんですか?』
「違う。さっきから一定の範囲をいったり来たりしている」
『決まりだな。奴は時のかけらを見つけて戦闘中に違いない』
赤ずきんの推測に、自身も同様の物を感じたパンドラは、背中にフォースウィングを展開すると、そこから童話主人公の方角目掛けて飛翔する。
「乱入するなら二対一の戦いになるな」
『オイオイ、ボクを忘れてないかい?』
そういってパンドラに異議を申し立てたのは先の童話世界でパンドラを翻弄したキタカゼだった。
「蜃気楼光分身の事か? 確かにアレを使えば物量差を以って簡単に制圧出来るだろうな。相手が童話主人公じゃなければだが」
『ならどうする?』
戦術において何か考えでもあるのかと、赤ずきんはパンドラに問いかける。
「どこか様子をうかがえる場所に身を潜めつつ、【
『ステルスか。悪くない』
直後に、感知した生態波導のすぐ近くまで迫ると、激しい戦闘音がパンドラの耳にも届いた。
「・・やはり既に戦闘を始めてるとみて間違いないな。さて、どこに身を潜めたものか・・・・・・」
『全体を見渡せる場所って事は、やっぱり上からが良いんじゃないですか?』
アリスにそう言われたパンドラは、辿り着いた崖の上に視線を移し、そこに飛び移る。
そこではパンドラ達の予想通り、童話主人公が時のかけらのゴブリンと激しい戦いを繰り広げていた。
だが戦況はというと一方的で、童話主人公の方が、竜巻のような大規模の猛吹雪を形成し、周囲一帯を囲い尽くしたまでは良かったものの、氷で形成したサーベルや、地面から地雷の様な爆発と共に現れる氷の針山(まるでウニのよう)による攻撃をことごとく回避され、反対にゴブリンによってナイフ一本で翻弄されていたのである。
「・・どういう事だ? 奴は何故あれだけの攻撃をかわし続けられる? 奴にも【
『【
「何?」
『もし奴が【
「・・・・・・・・・・・・」
仮定段階ではあるものの、赤ずきんの疑問にパンドラが言葉を詰まらせる中、童話主人公の方は、新たに雪でゴーレムを二体、オオカミを五頭造りだし、ゴブリンを攻撃させた。
だが、今までの激しい攻撃をかわし続けたゴブリンにそれらの攻撃が当たる筈はなく、逆にゴブリンは指先にエネルギーを集中させていく。
『アレは!』
「フム・・」
様子を見ていたパンドラは物陰からそっと手をかざすと、【
「!」
その直前に何かに気付いた様子を見せたゴブリンは、集中させていたエネルギーをそっと消失させたのである。
こちらの存在に気付いたわけではないようだが、一瞬、何やら考え込むと、再びナイフで童話主人公に襲い掛かった。
しかしこれも、パンドラが【
その直後に【
対する童話主人公はというと、突然敵の身に起きた現象に戸惑いつつも、腰に下げたサブマシンガンを構えると、そこから数え切れない程の冷凍弾を発射し、文字通り空中に弾幕を形成したのである。
『えっ?』
「ホウ、時間停止現象を逆手に取ったか。面白い。なら私も少し手助けするとしようか」
そう言うと、パンドラは再び【
すると、余裕の表情で静止中の冷凍弾をかいくぐっていたゴブリンはピタッと動きを止め、表情を一変させるのとほぼ同時に、パンドラの操る冷凍弾の餌食となったのである。
『攻撃が当たりました!』
「成程。そういう事か」
『? どういう事ですか?』
「奴の予知と思われる能力が完全に私の【
『おぉぉぉ・・!』
「勝ち目あったな」
勝利への糸口を見つけ出したパンドラは物陰から悪どい笑みをゴブリンへと向けた。
「もがけもがけ・・・・・・そうして貴様は私に出会う事無く、私の糸引く童話主人公に倒されるのだ」
自分の弾幕として放った筈の攻撃が突然、制御を離れた動きをした事に戸惑いを覚えながらも、よもやパンドラが近くに潜んでいる事など知る由も無い童話主人公は、ゴブリンを倒せるのであればと、サブマシンガンから冷凍弾を撃ち続ける。
そしてそれらを片っ端から【
すると、童話主人公はサブマシンガンを構えると、氷で出来た無数のミサイルポッドや大型ミサイル、大型ガトリング砲、ビーム砲等を次々と召喚していく。
『トドメを刺そうとしてます!』
「フム、通常なら撃破直後の最も油断した隙を狙うとこだが、そのままかけらを取られては敵わんな」
そう言うと、パンドラは【
「!?」
「・・・・・・」
突然のパンドラの出現に、それぞれ対照的な反応を示す二人だったが、童話主人公の方は、それでも攻撃の手を止める事無く(もっとも、当初よりパンドラとも敵対していたので止める理由も無いのだが)トドメの一撃を撃ち放つ。
それに対しパンドラは、【
「ウッ・・・・・・グッ!」
「どうだね? これからされる事を予め知っている上で逃れられん気分というのは」
「こんなっ・・この〝千里眼のドクトル〟に避けられない攻撃などある筈がっ!」
「ムーンクレセントキック」
次の瞬間、直接攻撃のため背後から迫っていた童話主人公に対し、振り返りざまに右回し蹴りを食らわし蹴り飛ばす。
「・・【
ゴブリンの方へ向き直ったパンドラは再びスペードブレイダーの切っ先を向け喉元へ迫った。
「退屈な時間は終わりだ」
「い、いや待て! は、話し合いましょう」
「全力で拒否する」
「そうだ、手を組みませんか? 私の予知能力と貴方の力があればこの世界の覇権なd・・」
「悪いが予定が立て込んでるんだ」
「ま、待って! 何でも、何でもするから命だけはっ!」
「何? 何でもしてくれるのか?」
ゴブリン改め、千里眼のドクトルの申し出に、パンドラはその歩みを止めた。
『ちょっとパンドラさん?』
『馬鹿が、罠に決まってるだろう!』
「ほ、本当です! あ、貴方の言う事を・・何でも聞きます! 聞かせていただきますっ!」
『何を・・』
『白々しい』
「それはいい。すすんで私の願いを聞いてくれるとは」
「ハイッ! それは・・もう・・なんなりと」
「そうかそうか・・ならば死ね」
次の瞬間、パンドラはドクトルへ向けたスペードブレイダーの光刃から斬撃波を飛ばし、その首を斬り飛ばす。
「え? ふぐぇっっ!」
首と身体が分離した直後、彼は時のかけらへと姿を戻し、パンドラの手の中へと収まった。
「・・・・・・やっと戻ってきたか」
三つ目が融合し、ほぼ半分が満ちた時のかけらを眺めるパンドラの後方に、先程ムーンクレセントキックで蹴り飛ばされた童話主人公が、ヨロヨロと再び戦場に舞い戻る。
「遅かったな、かけらは私を倒さないと手に入らなくなったぞ?」
振り向きざまにそうふっかけるパンドラに対し、童話主人公は再び氷の剣を作り出すと、氷属性の斬撃波を放ち、二度目となるパンドラとの戦いの火蓋を斬って落とした。
対するパンドラは、スペードブレイダーを構え直してこれに応じる。
フォースウィングを展開して身を翻しながら斬撃波を回避し、スペードブレイダーで氷の剣を受け止めたパンドラは、一瞬の鍔迫り合いの後、同士討ちの要領でその氷のブレードとスペードブレイダーの光刃を消失させた。
だが、それと同時に童話主人公は空いていた左手から至近距離による冷凍波を放つ。
しかしパンドラにその攻撃が予知出来ない筈も無く、【
それを上方に躍り出る事で難を逃れた童話主人公は、そのままフォースカノンに沿って接近すると、サブマシンガンから冷凍弾を浴びせ返す。
それに対しパンドラは、【
「・・・・・・!」
自ら放った冷凍弾と共に、大きく上空へ吹っ飛ぶ童話主人公は、先程のドクトルとの戦いの最中で起きた現象がパンドラによるものである事にようやく気が付く。
そこへ畳み掛けるように、パンドラはスペードブレイダーから無数の斬撃波を空中へ放出し、こちらも先の童話主人公の様に防御幕を形成すると、【
『パンドラさん?』
「いや、【
次々と童話主人公に直撃していく斬撃波が、接触する傍から消滅していくのを見つつ、パンドラは次の攻撃プランを模索する。
「ドレスチェンジ」
到着当初の戦いに立ち返り、パンドラはフレイムドレスへとドレスチェンジすると、スペードブレイダーをしまい、両手から焔属性のフォースボールを辺り一帯へ乱雑に放り投げ始めた。
更に【
「・・・・・・!?」
そしてそれを引き寄せると同時に、左右に生成したフォースボールを合体させ、そこから焔属性の大型フォースボールを至近距離で押し付けた。
「~~~~~~っ!!」
このまま焔の髪で締め上げながら、大型フォースボールで全身を焼き尽くし、戦闘不能に持ち込んで封印契約を果たす。
それが現時点でのパンドラの攻撃プランだった。だが・・・・・・
「~~ッ!」
「!?」
全身を焼かれながらも、童話主人公は周囲に積もった雪を操り、パンドラの背後に角状の物を造形すると、それを彼女の腰から腹部にかけて突き刺したのである。
「・・・・・・。フン、君も学習能力の無い奴だ」
「!」
「私に不意打ちの類は丸見えだと言った筈だぞ? ・・あぁそうか、君はもう吹っ飛んでいたから聞いていなかったのか」
そう言うと、パンドラは自由な焔の髪を操り、己の身体を貫通している氷の角を覆い隠して瞬時に溶かし尽くしてみせた。
「ムーンボルケーノキック」
大型フォースボールを解いたパンドラの右脚に、焔属性を纏ったパンドラの波導エネルギーが急速に蓄積されていく。だがその時――
「!?」
【
《白雪姫編――第5部へ続く――》
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