第3部



「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

『パンドラさん大丈夫ですか?』

「たかだか熊に噛み付かれた程度だ。痛手にもならん。だが、こんな事ならもう少し早く変身しておくべきだったな」

『・・・・・・その姿のまま次の敵の所へ行ってしまいましょうか』

「そうしよう」

 早速、入ってきた穴から出ようと歩き始めたパンドラだったが、その足は即座に一歩目で止まる事となった。

『あっ・・・・・・』

「・・・・・・・変形で穴までの経路が塞がれた。奴め、余計な事をしてくれたな」

 そう言うと、パンドラは再び胸部中央に波導エネルギーをチャージし、焔属性が付いた紫色の粒子ビームを放つ事で、その退路を確保した。

「ハァ、入る時は楽だったのが、出る時になってわざわざ作る羽目になるとはな・・・・・・」

 愚痴りながら一つ目の遺跡を後にしたパンドラは、その後すぐに目が付いた一番近い二つ目の遺跡へ向けて飛び立つ。

「さて、ここの遺跡で一つ問題なのは、どの遺跡が誰の本陣なのかだ」

『外見に特徴的なものが一切ありませんね』

「わざとそうしているのか。さては襲撃対策か?」

『なら何の問題もありませんね』

「何故そう思う?」

『何故ならば、我々は今から全部の遺跡へ攻め込むからです!』

「成程、確かにそうだな」

 得意げに宣言したアリスに、パンドラはそう答えながら、両手から生み出した焔属性のフォースボールで大型のフォーズボールを作り上げると、それを眼科の遺跡目掛けて撃ち放った。

 瞬間、耳をつんざく様な轟音と共に、外壁の一部が円形状に融解して陥没する。

 火山から噴火したマグマの様に、赤い液体状となって遺跡内部へと流れ込む金属壁が、そこにいた金属生命体達を呑み込んでいき、一瞬で溶かし尽くした。ただ一個体を除いて。

「ホウ、奴が次の相手か」

 遺跡内部に侵入を果たしたパンドラは、その奥に佇む遺跡の主を見据える。

『おっきなハサミに針の付いた長い尻尾・・・・・・パンドラさん、アレって』

「メタルスコーピオンだな」

 巨大サソリかと思われた予想に反して人型の身体を持ち、腰の部分からまるでスカートのように三対の足が折り畳まれて生えていた。

 腰の後ろからはサソリ最大の特徴とも言える先端に毒針の付いた長い尻尾が伸びており、両腕の巨大なハサミからはそれぞれブレードがその存在を主張している。

『来ます!』

 直後、真っ直ぐ突っ込んできたメタルスコーピオンに、パンドラは両手に作り出したフォースボールを連続して投げ飛ばした。

 だが、メタルスコーピオンは腰の多脚を駆使し、突如軌道を真横に変更する事でこれを回避する。

『サイドステップ!? 早い!』

「一飛びで何メートル移動したんだ? メタルグリズリーより俊敏ときたか」

『どうします?』

「フォースボールを当てるのは難しそうだ。近接戦闘を仕掛ける」

『了解です!』

 パンドラは再びアリスをスペードブレイダー形態で起動すると、展開したフォースウィングを羽ばたかせ、メタルスコーピオンへと迫った。

「敵の機動力を削ぐ」

『はい!』

 斬撃波を放ってはフォースボールのように避けられてしまうと考えたパンドラは、着地と同時に直接、メタルスコーピオンに斬りかかる。

 しかし、それすらもメタルスコーピオンは多脚による跳躍で軽々と回避してみせた。そして・・・・・・

「グッ!」

『パンドラさん!?』

 その瞬間、パンドラの首筋に一瞬の痛みが走ると、そこから焼かれる様な熱さが身体全体に広がる。

「ッ・・・・・・ハァ、ハァ」

 視界が眩み息苦しさが増していくのを感じたパンドラは、思わず地面に膝をついた。

『パンドラさんしっかり!』

 アリスの必死の呼びかけが脳内に響き渡る中、パンドラの視界は、手にしているスペードブレイダーが二つに裂けて見え始め、破裂しそうな程に膨らんだり、干からびそうな程萎んだりといった幻覚が見えるまでに悪化していく。

「? 他の連中の様に身体は融けんか。まぁいい、これで終わりだ!」

 絶好の好機とみたメタルスコーピオンがハサミを構え、背後からパンドラに襲いかかった。

『あっ!』

『・・・・・・変われ』

『エッ?!』

 次の瞬間、スペードブレイダーがパンドラの手からブローチの中へ戻ったかと思うと、その中から、先の童話世界でパンドラが封印した、あの赤ずきんが姿を現したのである。

 そして一瞬で腰のホルスターから拳銃を一丁抜き、襲いかかるメタルスコーピオンの右半身をたった一発の腰撃ち(爆撃級の威力である)で吹き飛ばしてみせた。

「オイ」

「!?」

「何故フレイムの力を使わない? 体内に入り込んだ毒を焼き尽くす事ぐらい出来た筈だ」

「毒を・・・・・・焼き尽くす?」

「チッ、今回は特別だ」

 不機嫌そうにそう言うと、赤ずきんは左手から紅色を帯びた焔を繰り出し、毒で苦しむパンドラに浴びせかける。

 すると次の瞬間、自身の体を支配していた焼かれる様な感覚と息苦しさ、そして幻覚症状がスッと無くなっていくのをパンドラは感じ、再び立ち上がった。

「自分の体内の異物を焼き尽くすとは・・・・・・フレイムの力にそんな使い道があるとは思わなかったな」

「私の力を取り込んでいるのだから当然だ」

『パンドラさん、敵がまだ動いてます!』

「ム!」

 アリスの警告に注意を傾けると、右半身を吹き飛ばされたメタルスコーピオンは動きが弱々しくなったとはいえ、かろうじてまだ動ける状態にある事が確認出来る。

「さて、止めを刺すとするか」

 そう言うと、パンドラはフォースウィングを羽ばたかせ、一気にメタルスコーピオンとの距離を詰めた。

 一方、メタルスコーピオンは残った左のハサミで反撃に出るも、焔の手を持つフレイムドレスのパンドラに鷲掴みで掴み取られ、その高温に徐々に融解し始める。

 しかしメタルスコーピオンはすかさず、自身の尻尾を下から股抜きする形で再びその毒針をパンドラに突き刺しにかかった。だが・・・・・・

「!?」

 パンドラはそれを焔の髪で受け止め、虎の子の毒針すらも溶かす事でメタルスコーピオンの戦闘能力を完全に封じ込めたのである。

 だがそれでもメタルスコーピオンの戦意を削ぎ切るまでには至らず、パンドラが焔属性が付加された大型フォースボールを撃ち込むも、その腰の多脚を駆使し、すんでの所でこれを回避してみせた。

「チッ!」

 戦闘能力を失ったメタルスコーピオンが逃亡を図る可能性がある以上、絶対に逃がす訳にはいかないと考えたパンドラは、フォースウィングを羽ばたかせてメタルスコーピオンに追いつくと、即座に焔の髪を操り、その多脚を捕える。

「ウグッ!」

 突然移動の足を捕縛されたメタルスコーピオンは、体勢を崩し転倒した。

「貰ったァッ!」

 戦闘能力を奪い、更には機動力すら奪った千載一遇のチャンスに、パンドラは波導エネルギーを胸部中央にチャージすると、至近距離でその焔属性を纏ったフォースカノンを放ち、メタルスコーピオンの業火の光線に呑み込んだのである。

「アアッ、アァ・・・・・・アァアァアァアアッ!」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・どうにか倒せましたね』

「あぁ。少し急がんとな」

「? コイツは童話主人公じゃないのか?」

 パンドラとアリスの会話を聞いていた赤ずきんが少し不思議そうに尋ねた。

「? あぁそうか、君はさっきまで寝ていたから金太郎を見て無いのか。ソイツは違う。かつての君と同じ様に、この世界にもムーンフェイスの軍勢によって洗脳を施された童話主人公がいる。こいつらはその童話主人公が作り出した金属生命体だ」

「金属生命体・・・・・・」

「奴等はまだあと二体いる。君の力も貸してもらうぞ」

「どうせ貴様に封印された身だ。好きにしろ」

 赤ずきんがそう答えると、パンドラは赤ずきんを一度ブローチに戻し、フォースウィングを展開してその場から飛び立つ。

 三つ目の遺跡の上空に辿り着いたパンドラは、フォースカノンを放つと、遺跡を外から切り崩しにかかった。

 だが、その中からまるで破壊されるのが分かっていたかの様に、切り崩した場所からおびただしい数の金属蛇が、遺跡からまるで湧き出る水のように大群を成してパンドラの足元へと押し寄せたのである。

「チッ、雑魚共を仕留め損ねた。流石に同じ手は通用せんか?」

『パンドラさん、奥の方に何かいます!』

 アリスの警告に、パンドラが流れ寄せる金属蛇の元を辿っていくと、その源泉とも言うべき位置に、それはいた。

「奴が次の相手か。だがその前にコイツ等をどうにかせんとな」

 そう言うとパンドラは、足下へ向けて焔属性のフォースカノンを放ち、確保したスペースに降り立つと、ブローチから赤ずきんを召喚する。

「私は奥の奴を倒す。後は頼む」

「良いだろう」

 金属蛇の相手を赤ずきんにほぼ丸投げしたパンドラは、最奥にいる第三の敵、メタルメデューサの元へと羽ばたいた。

 前方から急速に接近してくるパンドラを目にしても、メタルメデューサがそれに狼狽える事は無く、まるで見慣れた光景を見ているかの様に、冷静に瞳を開いた。

 額に存在する、第三の眼を。

「!」

 パンドラがその眼に気付いた時は自分の体がピクリとも動かなくなっていた。

 自分の周囲は通常通り動いている。

 だが自分自身だけが全く動かない。いや、動かせないのだ。

 指一つ、視線一つすら動かせない。

「オイどうした。何故石になっている?」

「!?」

 金属蛇の大群を始末し終えたらしい赤ずきんの呼びかけによって、パンドラはそこで初めて自分が石にされたのだと気が付いた。

 そんな中、メタルメデューサは巨大蛇の下半身をうねらせる。

「(っ、石にした私をそのまま巨大な尾で打ち砕くつもりか!)」

「チッ!」

 メタルメデューサの攻撃態勢に気付いた赤ずきんは、パンドラを庇う様に立ち塞がると、二丁拳銃を構え、メタルメデューサに狙いを定めた。

 だが、当のメタルメデューサは額の眼を再び見開き、赤ずきんをも石へと変えようと睨み付ける。だが・・・・・・



《金太郎編――第4部に続く――》

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