また君に会うために

あつまいも

第1話

「痛っ」


突然の痛みに、ホームルーム中にも関わらず思わず声をあげてしまう。


「美咲、大丈夫?」


隣の席の沙夜が心配そうに声をかけてくる。


「うん、大丈夫」


筆箱からシャープペンを出そうとして、たまたま美術の授業で使用するために持ってきたカッターの刃が出ていたことに気づかず指を思いっきり切ってしまった。


「結構血でてるじゃん」


薬指から流れ始めた血に気づいた沙夜(サヤ)が、隣の席から身を乗り出して手をとる。


「先生、美咲(ミサキ)が流血してます」


「なんだ、どうした?」


沙夜の発言にクラスの全員が一斉に私に注目した。


「いや、ちょっと指を切ってしまいまして」


全員の視線に気まずさを感じながら切った右手をひらひらと見せる。


「大丈夫か?保健室行って来い」


中年太り気味の先生はそういうと、みんなに、続けるぞと告げ話題をもどした

まだ35歳らしいが、最近髪の毛も乏しくなってきており、いい歳なのに、このままじゃ嫁ももらえないんじゃないかと、最近生徒たちにクスクスと噂されている。


「保健室ついて行ってあげようか?」


「あんたは部活ちょっとでもさぼりたいだけでしょ。それよりも沙夜、悪いけど部活遅れるって言っておいて」


「はいよ」


沙夜は私と同じくバトミントン部に所属していて、普段から一緒にいることが多い。


何事に対しても、やる気がない事が多い子で、少しでも手を抜けるところがあれば見逃さない。


だが、容姿はモデルやってるよ、と言われれば納得できるほどの美人なため、他のクラスの男子が、わざわざ見学に来るくらいだ。

髪はロングヘアーで、色素の薄いパッチリとした瞳と髪色、筋の通った高い鼻に同性の私でも、最初見とれてしまった。


入学時には、教室と廊下をつなぐドアに男子が溢れかえって、通行の邪魔でしょうがなかった。

しかし、当の本人は、人の目をかけらも気にせず、授業中だろうが、なんだろうが誰が見ても、あからさまにダラダラしている。


授業中はほぼ机に突っ伏して寝ているし、たまに顔を上げてると思えば、椅子にもたれかかり、足を投げ出し、手は両脇にだらんと垂らしている。


登下校中に沙夜に一目ぼれして見学に来た男子も、あまりのだらしなさに、数日後には冷めてしまうようで、あんなにうっとおしかった男子たちも、今は一人もいない。


よく、そんな沙夜を見て「もったいねーなー」なんて影で言われてるのを耳にする。


だが、行くまではやる気がなくても、一度部活に出れば、バトミントン自体は好きらしく、水を得た魚のように生き生きと活動しだす。

普段の姿からは全く想像できない。


そのことを知っている一部の運動部の男子にはそんなギャップがまた良いと影でファンクラブがあるようだ。

どうやらファンクラブを作ることによって、沙夜に抜け駆けする人がいないように牽制し合っているらしい。


「んじゃ、ちょっと行ってくる」


沙夜にそう告げると、私はなるべくホームルームの邪魔にならないようにそっと席を立つ。


ホームルームでは、来月行われる体育祭について説明されていた。

この高校に入るまでは、体育祭といえば秋のイメージがあったが、少しでも受験の邪魔にならないようにと、ここでは6月に行われていた。


別にすごく頭の良い学校というわけではないが、世間では平均レベルよりも少し良いと言われている。

そのため、学校行事も受験の邪魔にならないことが第1にスケジュールが組まれる。

高1・2年生は体育祭の日は当然1日中スポーツに勤しむわけだが、今年高3になった私たちは、午前中は授業が行われ、午後から体育祭に参加という形になるそうだ。


保健室のドアを開け、いるであろう保険医に声を掛ける


「先生ー、指切っちゃったんですけど」


しかし、誰もいないのか中からは何の反応もなかった。


「入りますよー」


一応声を掛け、1歩足を踏み入れる。


すると丁度ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


早く手当して部活行かないとなぁ

そんなことを考えながら治療しようと、消毒液などが乗っているカートへ向かって歩いていくと何かに足を取られ一気に体のバランスを崩した。


ヤバイ、転ぶ!


しかも最悪なことにバランスを崩した先には机の角がある。


どうしよう避けれらない!!


指を治療しに来たのに、さらに怪我することになるなんて。


ギュッと目をつぶり、痛みに備える。



すぐさま激痛が。。。走らない?



何かに支えられた間隔にそーっと目を開く。


「お前危ねーな。今の打ちどころ悪かったら死んでたぜ」


誰もいないと思っていたのに、どうやら男子生徒がいたようで、私を支えてくれていた。


その人は、ここの少し深めの青い学ランを身にまとい、くりくりと大きな目の、まだどこか幼さが残る印象の顔だった。

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