続・妹の紋章~~途切れぬ永遠色のチェーン

相羽裕司

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 2013年のもうすぐ暦上は春というある日。雪降る中を、俺と妹の彩可あやかは並んで傘をさして歩いていた。


 ここは列島の北の方にある街、Sエス市。


 この地方は春先まで雪が降るんだった、なんて改めて帰ってきたこの街の環境に想いを馳せたりもする。


 S市の一級河川にかかる橋にさしかかった頃。この橋を彩可といっしょに渡るのは初めてではないのだけれど。今日という日はちょっといつもと違っていて、彩可は橋の手前にある小さな社の前で立ち止まり、手を合わせて参拝した。


 彩可にならって、俺もしばらく手を合わせて目を瞑る。彩可の行動は、もうすぐまた3月11日がやってくることと関係してるのかな、なんて思いながら。


「ここの社って、何を祭ってるんだ?」


 瞑目を終えた彩可は、意外そうな顔をする。


真司しんじ、この一年ちょっとですっかり地元の人みたいな雰囲気になってるけど。そーゆうの聴くと、やっぱり真司はしばらくS市を離れていた人なんだなって思っちゃうな」


 ということは、地元では有名な社だったのだろうか。


橋姫はしひめ様だよ。他にも、夢守ゆめもり永遠とわとか、永認えいにんの巫女とか、色んな呼び名があるけど。この地に橋をかけるために犠牲になったお姫様的な人だよ」

「へー」

「伝承は今では色んな形になっちゃってるけど、たぶん本当に、荒れる河を沈めるために人身御供的になった人が昔いたんじゃないかな。橋姫様が天に昇る前に地上に残した『七つの色』を集めると、願い事が叶うって言われてるんだよ」


 ローカルに語り継がれている一つの「物語」といったところか。


「でも彩可、それ、けっこう切ない話だな」

「そうだね」


 この時俺は、こんなことを思った。


――橋姫様が残した力で、街の人達は願い事がかなう、「奇跡」が起こり得るという希望を持つことができた。でもじゃあ、一人犠牲になって天に昇ってしまった橋姫様の願い事は、誰が叶えてあげるんだ。


 と。

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