歪で正しいかたち

すばる

第1話 きみがきたひ

「あーちゃん、今日から貴女の弟になる、瑞希(みずき)よ」


「……おとうと?」



その日私に弟が出来たー





いつも通りの朝のはずだった。

起床し、朝食を食べた。

イズミがいない以外はいつも通りの朝だった。

そして、イズミがどこからか帰ってきた。


いつも通りの朝ではなくなった。




旭(あさひ)は硬直した体を無理矢理動かし、イズミに紹介された弟という物に目を向けた。

無意識に握りしめていた手は、じっとりと湿っている。


大人のイズミの腰あたりに頭がある小さな男の子。

サラサラの黒髪にクリクリとした少し色素の薄い茶色の瞳。

こちらをジッと不思議そうに見るその目は純粋そのものだった。とても、落ち着かない。


正直、旭にとっては子供だとしても恐怖の対象だった。

足が竦んで動けないし、意識が飛びそうだった。

イズミにやめて、そんな弟(こ)いらないと叫びたかった。


しかし、もう旭は既に自分が我が儘を言えるような歳ではない事を理解していた。

今までイズミにはたくさん迷惑をかけたのだ、物分かりの良い子でいなければならないと自分を奮い立たせた。


「…な、仲澤(なかざわ)旭です」


男の子の目を見る事が出来なかったのは許して欲しい。

顔も引きつっているだろう。

声はしっかりと出ていただろうか。

目の前の男の子は不審がっていないだろうか。

ただ、それだけが不安だった。



「…瑞希です。旭さん、これからよろしくお願いします」


しかし、男の子は、不躾な旭の挨拶に気を悪くした様子のない落ち着いた声で返した。

思わず、旭はきょとんとした顔で彼を見てしまった。


旭よりもずっと大人びた態度で挨拶をする男の子は、一切不審がらずにまっすぐにこちらを見つめていた。


改めて、怖いと思った。



しかし、純粋とはこの子の事をいうのではないかと旭は恐れと不安で染まった頭の隅で思った。



「よし、瑞希。部屋に案内するわ!あーちゃんは学校頑張ってね」


気まずくなり、どうしようかと思った時にイズミから出された助け舟に早速乗り込んだ。

イズミには本当に助けられてばかりだ。


コクリと頷き、震える足を無理矢理動かし即座に玄関へ行き学校へと向かった。


手のひらにはくっきりと爪の跡が残っていた。



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