14 遺失物6
夏樹の部屋に仕掛けられていた盗聴器などは全て撤去し、その場で玄関の鍵も取り替えた。
とりあえず今夜の所は心配ないだろう。
久志は車のシートに置いてあった封筒を手に取り、中身を取り出した。
夏樹の姿を撮した数枚の写真。社内での様子を捉えたものもあれば、自宅でリラックスしているものもある。
どの写真にも共通しているのは、写真に収められた夏樹の目線がカメラの方を向いているものが一枚もないことだ。
久志は脱衣所で半裸になっている夏樹の写真をつまみ上げると、眉間に皺を寄せながらそれをぎゅっと握りつぶした。
夏樹には知らせなかったが、実は他にも盗聴器やカメラがあちこちに仕掛けられていたのだ。
「久志さん?」
後部座席からの不穏な空気に芹澤が声をかける。今は仕事中ではないから役職名ではなくて名前呼びだ。
「気持ちはわかりますが、ちょっと落ち着いたらどうですか? 松本くんのことに関してはすでに調査を始めていますし、結果がわかればすぐに報告しますから」
「――どのくらいかかるんだ?」
久志が不機嫌さ丸出しの顔で芹澤に問いかける。
「相手にもよります。ただ、勤務中の写真があるということは社内の人間である可能性が高いですね。盗聴器の仕掛け方もお粗末なものでしたし、それほど時間はかからないと思いますよ」
芹澤に抜かりがないのはわかっているが、犯人が見つかる前に夏樹に何かあったらと思うと久志は気が気ではない。
「久志さんもご存じのとおり松本くんは幼い頃から、これと似たような経験が度々あったようですね」
「だから何だと言うんだ。変質者に襲われ慣れてるから大丈夫だというのか?」
久志が苛立ちを滲ませて運転する芹澤に告げる。
ミラー越しに久志の顔をちらりと見た芹澤が、久志に見つからないように口許だけで笑った。
この幼馴染みは、仕事に対してはダメなものは容赦なく切り捨ててしまうほどの冷酷さを持っているというのに、初恋の相手に関わることとなると全く別人のように愚かな男になってしまう。
「そうではなくて、松本くんは変質者に対する勘が妙に働くというか、自然と危機を回避している節がありますね。だからあの年になるまで何事もなく無事にいられたのかと思いますよ」
「…………」
久志にも思うところがあるのか芹澤の考えに反論することなく口を噤んだ。
芹澤の考えはある意味間違っていない。
確かに夏樹の変質者レーダーはかなりの確率で不埒な目的で夏樹に近づく輩を見つけ出す。
だがそれらの輩を見つけ出した所で、夏樹自身が変質者から自分の身を守る術を持ち合わせていない。
実は夏樹のことをつけ狙う輩と同じくらい、幼い頃から夏樹のことを守ろうとする人たちが彼の周囲に存在したのだ。
幼稚園の頃のけんいちくんに始まり、小中高と夏樹の守ってあげたいオーラに惑わされた誰彼が常に夏樹の周囲にいた。
今は修一がそれにあたる。
修一は普段はそれほど世話焼きではない。そんな修一の庇護欲をくすぐってしまうほどの夏樹の守ってあげたいオーラ。
それを幼い頃から無意識に発している夏樹はある意味最強かもしれない。
「芹澤」
「はい、なんでしょうか?」
「…………笑うな。それと……今日はありがとう。これからも宜しく頼む」
ばつが悪そうに言う久志。芹澤がミラーへ目をやると、後部座席に座る久志が難しい顔で窓から外を眺めている。
どうやら隠れて笑ってしまったことが久志にばれていたようだ。
幼馴染みが垣間見せる外面とのギャップに堪えきれなくなった芹澤は、久志がいるのもお構い無しに声をたてて笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます