僕と彼女とライトノベル
TERIAf1
第1話 ラノベ読みの告白
嗚呼、ライトノベル!
僕はラノベが大好きだ。愛している!
叶うなら一生ラノベのことを考えていたい。読んでいたい。語っていたい!
しかし今は学生の身。ラノベを読む合間に勉強もしなくてはならない。ん? 普通は逆じゃないかって? ハハッ! 僕は普通ではないから問題ないのだ――
「
突然、僕のフルネームを呼ばれる。
通っている高校からの帰り道。歩みを止め、振り返るとそこに声の主がいた。
「キミは……」
知っている顔だった。と、いうよりも同級生。さらにいえば一週間前、高校二年生に進級すると同時に転校してきたクラスメート。
背景の夕日と同色の肩下まで伸ばしたキレイな髪が特徴の小柄な女の子。薄く化粧をしていて気の強そうな印象を受ける。実際、気が強いのだろう。たった一週間でクラスに馴染み、出来たばかりの友達およびクラスメートにしっかり自分の主張をしている姿を何度も目にしている。
そして何より、これが一番重要なポイントだが、彼女は美少女だ。性格と相まって人を惹きつける魅力がある。
そんな彼女が僕に何の用があるのだろうか?
「
応じるように僕もまたフルネームで呼んでしまう。
良く見ると篠原は肩で息をしていた。白い頬も今は少し紅潮している。ここまで走ってきたのだろう。ただ、それだけが原因ではないように感じられる。
「天河、くん……その……ッ!」
何かを決意して、なのにその決意が寸前になって揺らいだような。ビッと僕を指差したかと思うと、引っ込めて口をもごもごさせている。
「……篠原、何の用だ?」
何事かと戸惑いながら問いかけるも、答えは返ってこない。
……いや、この展開。ラノベで読んだことがあるぞ。これはアレに違いない。告白。そう告白イベントだ。会話もしたことない美少女転校生からの突然の告白。そうに違いない。何故ならば僕は容姿に自信があるからだ。黒縁メガネの下の端整なシャープな顔立ち。学校指定の紺のブレザーが包む細身の178.5センチ。女子からは「小太郎くん、口を開いて訳の分からない話さえしなければとっても良い物件なんだけど……」と残念そうな顔で言われることは多々ある。ラノベの話を「訳の分からない話」と言ってしまうとは。一体家でどういう教育を受けているんだ⁉︎ 僕は両親からラノベ英才教育を受けて育ちました。
時間にして三十秒足らずだっただろうか。覚悟を決めた篠原茜は顔を上げ僕を見据える。
「その…………あたし、好きなの!」
「僕のことが?」
「違う‼︎」
あっさりと否定されたが特に悲しくはない。本当だよ?
「あたしが好きなのは……天河くんが持ってる、それ!」
頬をさらに赤くして、彼女が指差したのは僕……ではなく、僕が持っている一冊の色鮮やかな装丁の文庫本。
「……ラノベ?」
「そうそれ。ラノベ!」
この前発売したばかりの新作ラノベ。僕は二宮金次郎の如くラノベを読みながら登下校している。ラノベを読むのも、ラノベのことを考えるのも、ラノベについて語る時間も有限だ。一分だって無駄にはできない。歩きスマホではないが、そんなに集中して事故に遭わないか、あるいは事故を起こさないか心配されるがラノベを読みながら周囲を警戒するなんて技、掴まり立ちした0歳児の頃には体得している。これ、僕の自慢……自慢になるよね、これ?
「ラノベ、好きなのか?」
「うん!」
篠原は首をカクカク勢い良く上下に振って肯定する。何だこの可愛い生き物は。いや、しかしそれよりも――
「おまえ……ラノベ好きなのか!」
さあテンション上がって参りました。告白されるよりも嬉しい「告白」だ。何であれラノベ好きの同志がいた。こんなに嬉しいことはない……!
篠原は前髪を弄りながら照れ臭そうに言う。
「あたし、つい最近あるラノベを読んで、『うわっ!こんなに面白いモノがこの世にあるんだ!』って感動しちゃって。それからネットを見て人気作品をいくつも読んで、それもまた面白くって!」
瞳を輝かせながら、告白を続ける。
「次第にラノベの話ができる友達が欲しくなってきたんだけど、どうしていいか分からなくて……で、天河くんは学校の中でもつけないでいつも読んでるじゃん……ブックカバー」
ああ、そういえば。確かに僕はブックカバーをつけずにラノベを読む。表紙のイラストを惜しげも無く晒す。寧ろ見せつけるように読む。自分が面白くて読んでいるものの何が恥ずかしいのか。つけないのは男の嗜みだ。これ、聞き方によっては誤解を招く表現ではある。ちなみに僕は童貞です。そんな告白はいらないとか言わない。
「だからずっと見てて。それで今日、いてもたってもいられなくなって……声、かけちゃった……」
「ひとつ、聞いてもいいか?」
篠原の告白を聞き終えて、僕は疑問に思ったことを口にした。
「なんで僕だったの? ブックカバーはつけててもラノベを読んでるクラスメートは他にもいるぞ」
僕以外にもラノベが好きなクラスメートはいる。それこそコソコソしているが女子の中にもいる。隠していても注意深く伺っていれば分かってしまうものだ。
篠原と視線が合う。ああ、とひとりで納得してしまう。彼女は分かってくれているのだ。僕のことを。僕とラノベの関係を。
「天河くんは、さ。毎日違うラノベを面白そうに読んでるんだよね。周りの目なんか気にせずに。うるさいくらい笑い転げたかと思うと、次の瞬間には泣いてるし。キモイんだけどね。や、これだけラノベを愛している人だったら任せられるかなって……思ったんだ」
途中、酷いことを言われた気がするが――
そこで篠原はニッと悪戯っぽい笑顔を僕にみせて、告げる。
「あたしに面白いラノベを教えてよ!」
「任せろ!」
篠原のある意味とてつもない現金な願いに対して直ぐさま頷く。そこまで言われるとラノベ読み冥利に尽きるってものだ!
「よし! とりあえず行くか!」
「え? どこに?」
僕は今、とても機嫌が良い。
「そんなの決まってるだろ……僕たちの楽園。書店のラノベコーナーだよ!」
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