嘆きのセイレーン

 私はセイレーン。悲しい宿命を背負っている、世にも哀れな女。今日も一人、岩場の陰で歌を口ずさんでいるの。

 私の歌声に魅了され、海のもくずとなる男達が絶えないという噂を、風の便りに聞いたことがあるわ。だけど、私は歌わずにはいられない。

 ああ、岩場の横を、船がまた一隻通り過ぎてゆく。私の歌に惑わされて沈んでいく哀れな船を、また見届けなくてはならないのね。

 でも、私はそれを受け入れなくてはならない。これが海の怪物として生まれついた時に定められた、呪われた運命なのだから……。


 一方その頃、セイレーンが住む岩場を通っていく船は、グラグラと船体を揺らしながら荒れ狂う海を渡ろうとしていた。波に飲まれまいと懸命に抗う男達は、必死の形相を作りながらこんなことを口走っていた。

「畜生、あのアマ! またあのクソ音痴な歌声で、舵を持つ手を狂わせようとしていやがる」

「こんなんだから、座礁して沈む船が増えるんだよ!」

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