僕のぱんちら選挙戦
夏野七草
第1話
なんてことはないある日の学校。僕は飲み物を買いに行くべく急いでいた。
ふと向こうから人がやってくるのに気がついた。知り合い、というかクラスで一番の美少女である。なんとなくいつも休み時間に教室にいないイメージがあったので、珍しい人に会うもんだ、とガン見、とは言わないが少し視線をそちらに向けたとき。運命の風が吹いた。
その突発的な風は僕らの髪をゆらし、そして十分な強さを持って、僕の目の前に聖域を現そうとしていた。僕はその風の善意を裏切ることなくそちらへと目を向けた。
吹き付けた風に彼女は抵抗する様子を見せなかったが、しかしながら僕の期待は裏切られた。別に、スカートを抑えて恥ずかしがる様子よりもスカートの中を見せろ!とかそんなわけじゃない。スカートの中だって恥ずかしがる様子だってそれぞれにそれぞれの趣があるものだ。どちらだって僕は喜ぶ。
けれども僕の前に現れたのはそのどちらでもなく、風に煽られながらも全くびくともしない鉄壁のズボンであった。吹き付けられた風によって現れた優美な曲線がなんともいじらしい。これがスカートであったなら、例え中身が見えなかったとしてもどれほどよかったであろうか。
僕は無念さを振り切って帰ろうとしたが、その前にやらなければならないことを思い出した。
「なあ、お前、男だったのか…?」
「いや…なんで?」
普通に訝しげな様子の彼女を見て僕は安心した、どうやらこの胸の膨らみは本物で間違いないらしい。
しかし、だからこそ僕は聞かずにはいられなかった。
「どうして、スカートじゃないんだ?」
彼女はまた眉を潜めて、しかしなんら疑問もなく答えてくれた。
「別に校則でどっちでもいいってなってるから」
恥ずかしながら僕は知らなかった。このような悪しき校則が、自分のいた学校にあったとは。僕は天を仰ぎ、そしてこの校則を作った愚鈍なる先人を呪った。ふざけるな、お前のせいでこっちは素敵なぱんちらを見過ごした。どうしてくれる、どうやって僕にぱんちらを返してくれる。ぱんちらを返せ!ほら、返せよ!!
彼女は突然無言になった僕に一瞥をくれると立ち去った。
僕はその場に立ち尽くし、先人への恨みの言葉も尽きると、心はまっさらになり、その中から一つの使命感の炎がぽっとついた。
そうだ、校則を変えよう。
僕のぱんちら選挙戦 夏野七草 @natsunonanakusa
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