第78話 竜也のある考え
「……わかった、わかった。儂が悪かった。野村殿よ。そこの2人も儂の意図がまったくわかっていないようであるから話すことにするか」
滝川一益は、竜也に詫びを入れた。
竜也もその言葉を聞き警戒を緩めていた。あれだけ怒っていた竜也は初めて見た気がする。滝川一益はその竜也にビビったのか。いや、そんなことはないか。滝川一益はニコニコしている。怖いぐらいに。実は向こうも怒っているのではないか。そう思ってしまうほどの表情をしていた。
案外笑っている方が怖い人っているけど、滝川一益はそういった人だったんだな。俺はそれを見てつくづく思った。
「儂は諏訪殿の領土を取り返したいというのは本音じゃ。それは野村殿の提案でもあったが諏訪氏を味方に付ければいいという考えもある。しかし、それよりももっと大きな狙いが儂にはあるんじゃ」
「狙い?」
佳奈美がその狙いが何なのかわからなくて聞き返した。
俺も狙いというのがよくわかっていなかった。
竜也を見ると竜也は分かっているような表情をしていた。
「竜也殿は分かっていそうだな」
滝川一益は、竜也に問いかける。
竜也はその言葉を聞くとにやりと絶妙な表情をした。
あー。これは絶対に理解している。
竜也の表情を見て俺も滝川一益の言っていることが本当だろうと思った。
「ええ、あなたの狙いは滝川派を増やすことですね」
「……やはり見込んだ男だ。その通りである。私の狙いは諏訪氏を味方にする。そして、信長様亡き後の政権において影響力を残すために派閥を作ろうと思う」
滝川一益の狙いが分かった。
俺の戦国時代の知識は一般の日本史の授業を受けた人レベルである。いや、それより上かなと思う。
さて、織田信長が本能寺の変で憤死して豊臣秀吉が政権を取る。この大雑把なことしかわかっていない。豊臣秀吉が信長後継を確立した柴田勝家との戦いである賤ヶ岳の戦いが起こったことぐらいしか知らない。
なので、この後のこまかな動きについてはやはり竜也と佳奈美の知識が必要となる。
……俺不要だな。
悲しくなってきた。
「とりあえず、私はあなたの派閥を作ることを否定はしません。諏訪氏を復活させることがとりあえずの目的なので利害が一致しているのでその方向で行きましょう」
竜也が滝川一益の意見に賛成までとはいかないものの否定をすることをしなかった。
その話が終わるととりあえず、諏訪氏復活を認めることを正式決定し、夏姫を丁重にもてなすことを滝川一益は家臣に命じた。
俺らは滝川一益の前から席を外した。
席を外し、誰もいないところに行くと、俺は竜也に尋ねた。
「竜也、この後の事なんだがどうするつもりだ?」
「どうするつもりとは?」
「いや、だから……滝川派なんて本当にできると思うのか?」
「……厳しいだろな」
「やっぱり、そう思う野村君も」
竜也と佳奈美の意見は同じみたいだ。
「そもそも、清州に移動している間に群馬に北条氏がせめて奪っちゃっているからまた滝川一益が群馬に戻れるかは不明だ」
「そうだね。しかも、北条氏が攻めてくることで上野衆はみな北条につくし、何より真田がね独立しようとするからね。やっかいだね」
「ああ、だから俺はある策を立てた」
竜也が自信満々に言う。
ある策?
あまりに自信満々であるが、一体何を考えているのだろうか。
佳奈美も竜也の策というものにピンときていないようだ。
「策って何の事?」
「策って何だ?」
佳奈美と俺は竜也に策って何なのか尋ねる。
竜也は、その自信満々の策というものを俺らに伝える。
「ああ、実はな。本来であればこの滝川軍の移動に関わっていないはずのある人物がここにいるんだ。本来の歴史とは異なる理由はよくわからないが、これを利用するしかないと思ってな。使うことにした」
「ある人物?」
「ああ、どうも真田源二郎がいるらしいんだ」
「ええ、あの真田源二郎がいるの?」
驚いたのは佳奈美であった。
だが、俺にはピンとこなかった。真田と言えば、わかるが源二郎って誰だ。そもそも真田昌幸にはあったけど源二郎とは昌幸の事か?
「忠志はピンと来ていないな。真田源二郎信繁のことだが、これでわかるか?」
「真田源二郎信繁……真田信繁……ああ、幸村の事か!」
「何だ、わかるじゃないか」
竜也の反応からしてあっているようだ。それはよかった。
「バカにするな。俺だって一応戦国の最低限度の知識は持っているぞ。まあ、ここが近代だったら完璧だが」
「はいはい。わかったから。だから、その真田幸村にあることを頼む。真田に上野一国を譲る代わりに滝川につくっていう話だ」
「それは滝川一益が許すか?」
「滝川一益ももともとは関東に興味はない。だが、織田政権の後継に秀吉がなると考えればこれから栃木、茨城、そして北条の根拠地小田原も攻め滅ぼす必要がある。滝川一益の領地は小田原がいいだろう。群馬は他の武将に任せる方がいいと思う。そこで、真田に任せればいいかなと」
「でも、真田って武田の元家臣だから群馬よりも山梨に領地が欲しいんじゃないの?」
「うーん。そこが問題だよな。昌幸は信玄のことを崇拝しているはずだし。だが、群馬の西部は元武田領だしどうにかなるんじゃないか」
「……ならいいけど」
佳奈美はどうやら不満らしいが話はまとまったらしい。
え? 俺はって? 俺は話についていけず蚊帳の外だ。悲しい限りだ。
「じゃあ、さっそく真田幸村に会いに行こうぜ」
そう言って、俺らは真田幸村のいるという陣の方へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます