第70話 捜索隊編成の議
俺の策は暗礁に上がってしまった。
「まさか、諏訪氏が行方不明とは……」
弓削重蔵が帰った後、滝川一益と話し合いをしていた。
「野村殿、どうするのか?」
この展開を俺は予想していなかった。
すんなり諏訪氏の人が見つかると思っていた。諏訪氏を復興させた諏訪頼忠が見つかると思っていたのに完全にあてがはずれた形になる。
どこに行ってしまったのだろうか。
どこかに隠れているということだけは予想することはできる。しかし、信濃国というのはとても広大な土地だ。ただでさえ、山が多いため隠れることが簡単にできる。山奥にひっそりと暮らしている可能性がある。
「どこかに逃れ隠れ住んでいることだけは想像がたやすいのですが、どこにいるかせめて知らせがあればいいのですが……」
何も手掛かりがない。
完全に積みだ。
忠志と歌川の2人には何て言えばいいだろうか。
諏訪氏を復活させるとか言いながらできなかった俺に対してなんていうだろうか。「気にするな」とは言われそうな気がする。しかし、今まで俺は何でもできる人間というのを演じてきた。特に、忠志にはそのように思われているだろう。ここで俺が失敗する。あいつらからの信頼がなくなりそうで怖い。
俺が俺であるためにやはりこの作戦を何とか成功しなくてはいけない。
「諏訪湖周辺にはまだいるかもしれない」
俺は、可能性にかけ1つ提案してみる。
「諏訪湖周辺か……諏訪大社が燃えているのにその近くにわざわざいるか?」
「ええ、近いからこそいないと思われがちですが、神官であった諏訪氏は大社の復興を狙っているはずです。それと旧領の復帰を。そのためにも近くで機会を狙っているはずです」
俺は、滝川一益を説得できそうな内容のことを言う。しかし、それは確証のあるものではない。
「……嘘か真か判断することは儂にはできぬ。なので、今日だけは野村殿に機会を与えよう。儂の部下を何人か遣わす。このあたりを捜索することにしよう」
「え? いいんですか?」
「なに、見つからなかったらこの計画は無しになるだけだ。それに儂にとっても諏訪氏に恩を売っておけば影響力を増すうえで重要になる。だから、野村殿だけに良い案という訳ではないのだ」
まさにウィンウィンの関係であったということか。
俺は、滝川一益のその柔軟な考え方にとても感謝したい。
さて、部下として派遣される人物とは誰なのだろうか。
滝川一益の家臣をふと思い出す。
誰がいたのか。
「長崎左衛門尉に捜索隊の編成を任せる」
「はっ」
滝川一益に呼ばれた1人の男が返事をする。そして、そのまま外にあわただしく出ていってしまった。
長崎左衛門尉──長崎元家のことだ。
滝川一益の家臣にいた。あの真田幸村が主人公であった大河ドラマにもほんの少しであるが出ていた記憶がある。そんな人物が担当してくれるとはなかなかすごいことになった。
「滝川殿、ありがとうございます」
「うむ。野村殿も自ら捜索に行くか?」
「ええ、ありがたく送させていただきます。それでは御免」
そう言い、俺は滝川一益のところから退出し諏訪氏の手掛かりを探しに外に出たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます