第71話 わさびの話
水辺へと俺は佳奈美と一緒に手をつないで歩いていた。
水辺にたどり着くとかなり広い湖だということが分かった。
「ああ、ここってもしかして諏訪湖じゃない?」
「これが諏訪湖か」
本当に諏訪湖かどうか分からないけど、かなり大きい湖だということもありこのあたりに他に湖があった覚えもないので諏訪湖であると俺は信じた。
……鉄道が少し好きな俺はそういえばみどり湖駅というのがあったことを思い出すもこんなにみどり湖は大きくないような覚えがあったのでやはり諏訪湖だと自分を納得させる。
「まあ、近くにそんなに大きな湖ないからここが諏訪湖で大丈夫よ」
佳奈美も俺と同じようなことを考えていたようでどうやらここが諏訪湖でいいらしい。
「さて、わさびでもさっそく探しますか」
「わさびってなると諏訪湖よりも近くの川にあるんじゃない?」
「近くの川か」
俺は佳奈美の意見を聞き川を探すことにする。
早速、湖の周辺を歩く。
近くに民家があれば植物についての話を聞くことができるかもしれない。
ただ、近くに民家はある気配がまったくない。
湖の近くなのだから建物があると思っていたが、まったくない。
「誰かこのあたりに住んでいないのか」
「うーん。水辺の近くだから生きるうえでかなり必要な水がすぐに取れるという点からあると思うんだけどね。なかなか見つからないね」
俺らはとりあえず川を探すのと民家を探すことの2つどちらか先に見つかればいいやと思い歩き続ける。
しかし、やはり見つからない。
どっちが先に見つかるか。
先に見つかったのはわさびだった。
「おお、わさびだ」
「この時代にもわさびって本当に存在しているんだ」
俺はわさびがあったことに感動していた。
「わさびということは寿司でも作りたいね」
「寿司って江戸時代だよな。できたの」
「そうだね。握りずしは江戸前寿司が原型だった気がするからそうなるね。ただ、寿司という名前でもちらし寿司とかそのようなものはこの時代にあってもおかしくはないかもね」
寿司についての歴史は少しながら知っていた。
だからこそ、江戸時代のものだからこの時代の人は寿司なんか知らないであろうということが分かっていた。
海から遠い群馬で寿司を作ろうにも車など高速の乗り物がないこの時代で寿司をするのは現実的ではないな。寿司についてはとりあえず保留にしておこう。
「わさびなら何をするか決まっているでしょ」
「忠志君、何をするの?」
俺はわさびの話になった時からあるものを作ろうと思っていた。そして、そのためのものがこの時代にきちんとあることは知っていた。それは散々見ておきながら忘れていていつも竜也に文句を言われていた例の大河ドラマでの中に出てきたことは覚えている。その食べ物の事だけは覚えていた。
「蕎麦だ」
そう。俺が考えていたのは蕎麦だった。
蕎麦がきは存在していた。真田家が流された後に仕送りとして送られていたことはよく覚えている。わさびはやっぱり蕎麦だ。薬味として最適のものである。
なので、そばを作る。
群馬には蕎麦の生産を行っている地域がある。
なので、できないということはないはずだ。
小麦などの生産に向いている群馬ならできるはずだ。
「蕎麦、ね。確かに蕎麦がきは真田家が食べていたね。大河ドラマの内容をここは覚えていたんだね」
佳奈美にもちょっと馬鹿にされるが、いつも忘れていると思うなよ。
「覚えているよ。だから、蕎麦でも作ろう。わさびの根でも持っていくことにしよう」
俺らはわさびを育てることができるようにいくつ取っておく。
あとは、群馬に戻った時に近くに生えていないのかも確認することにすればいいと思いあまり多くは取らない。
わさびをたくさん採っていると湖の方からバシャバシャという音がした。
「佳奈美」
「うん、誰かにいるね」
俺らは湖の音がした方へと向かったのだった。
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