第58話 長野の大名って?
案外どうにか山を乗り越えることができるものだ。
現在信濃国軽井沢。すなわち現在の長野県軽井沢町の旧軽井沢というところだ。軽井沢の中心ではなく旧軽井沢に軽井沢宿が江戸時代に整備されるらしいがこの時代はまだ宿はできておらず小さな村があるだけだった。しかし、小さいとはいえその村に泊まるらしい。この時代武士が絶対だ。
俺が農民をしていた時も武士にものを納めていた。農民は武士に逆らうことができない。小さな村であるがゆえに武士には逆らうことができないのだろう。
俺が深く考えるべきことではないような気がするが、それでも現代人としてどうしても考えてしまうことがある。
佳奈美や竜也もわかってはいたけどそういうものかと割り切ろうとしているようにみえた。
時代が違うと人の価値観がかなり異なる。戦国時代にタイムスリップでもしていなければ絶対にわからなかったことだ。これもある意味勉強になったような気がする。
「長野って今誰が戦国大名なんだ?」
俺はこの時代の知識があまりないので竜也と佳奈美という戦国時代に詳しい2人に改めて聞く。
「長野かあ。もう武田は滅びているからな。武田の前には諏方とか小笠原とかいたけど今は小さな武士団が割拠しているような状況。でも、ほぼ徳川の領地かな」
「そうだね。北の方は上杉の力があるけどね。そうだね。あとはもうこの時代になると真田の力が突出してくる頃かね」
「真田ってあの厩橋城にもいた真田安房守の真田氏でいいのか?」
「ああ、あの真田だ。室賀が暗殺されて小県も真田が中心でまとまるからな。室賀正武は分かるよな?」
「ああ。あの大河がなければ絶対に知らなかった存在だな。あれだけ同じ言葉をインパクトに伝えられれば嫌でも名前を覚える。あんなマイナーな武将が一気に知名度が上がるなんてすごいよな」
「そうだね。やっぱり四ツ谷さんの脚本がすごかった」
「わかるよ。四ツ谷さんの作品に関して私は基本的に見ているの。あの人本当にすごいと思うわ」
知らないうちに戦国の話から四ツ谷さんという脚本家の話へと進んでいってしまった。高校生あるある話の脱線だ。脱線した話は元に戻すのがかなり難しい。
いや、元に戻そう。このままじゃあだめな気がする。
「ちょっと四ツ谷さんの話はその辺にしようぜ。とにかくこのあたりには有力な大名がいないっていうことでいいんだな」
「ああ、あと木曽がいたかもしれん」
「木曽がいたね。木曾義昌。確か木曽谷地方の領主だったよね。信長に下っていたからとりあえずこっちサイドの武将のはずだけど」
「でも、滝川一益が終わりに帰る際に木曽義昌の人質を取っていなかったはずだ」
「そうだっけ? そのあたりのことはよく覚えていないわ」
「うん、でも、確かそうだったはずだ。安全に変えるためには人質をとりあえず通り領地を過ぎたら返すっていうのは戦国時代のやり方としては正しいと思うが、あの後木曽はかなり滝川に対して反感を覚えていたはずだ。だから、このやり方は止めさせた方がいいのかもしれない」
「でも、この時代の常識でしょう?」
「そうだが、変えるべきことは変える。そうでもしないと滝川一益に未来はないぞ。歴史を変えると俺は決めたんだ。2人だって農民として新たな作物を育てるなど歴史を変えるつもりだろ。これは武士になると決めた俺の戦いなんだ。だから、協力してくれ」
竜也が俺らに協力を求めてきた。
何でもすることができる竜也が俺らに助けを求めるなんてとても珍しい光景であった。正直言ってその光景を見ることができただけで俺は竜也に協力してもいいと思えた。しかし、そんな簡単に協力したら竜也に対して珍しく優位に立っているように思えるのでもったいない。ちょっと、交渉してみようか。
「えー、協力しないといけないのかい。俺、戦国の知識とてもないんだけど」
「じゃあ、佳奈美だけでいいや」
「私は協力するわよ」
「え、ちょ、ちょっと。どうしてそんなこと言うんだよ。俺も協力するから」
俺は慌てて協力すると言った。
その言葉を聞くと竜也がニヤとした。ああ、これ完全に竜也の罠だ。竜也の策略にどうやら俺ははまっていたようだ。なんてこった。やってしまった。
「罠か」
「まだまだだな。忠志」
俺はがっくりと肩を下げた。
また竜也に騙された。
「野村君の一枚上手だね」
「いつになったら勝てるんだよ」
「それな。いつまでもお前の相手をしていると勝てる気がするよ」
俺は一生竜也に勝つことができないのかよ。それはそれでつらい。
「皆様、夕餉の時間です。来てください」
夕餉の時間と言われ御飯が出される。
脱穀米、塩、大根の漬物とまあ質素なものだった。
この時代の農民はこんな生活をしている。この生活を改善することができれば平和になるのだろうか。そもそも平和にならないからこんな生活をしているのだろうか。どうすればいいのだろうか。農民として暮らしていくうえで俺もどうすればいいのかしっかりと考えていかないとな。
京での生活の様子をしっかりと視察しようと心の中で一人決めたのだった。
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