第35話 北條を説得
北条高広。
この男の場所に向かうことになった。この男がいる陣は真田家の陣から少し離れたところであった。もともと北条高広は越軍すなわち上杉家に仕えていた武将だ。そのことは歌川から聞いた。
北条高広は、厩橋城の城主として越軍から独立、北条と上杉の間を行ったり来たりしているみたいだ。今は息子の高広(同姓同名だが別人だそうだ)が当主として北条家を仕切っているそうだ。ただ、この戦に出ている北条高広は現当主ではない方の北条高広だそうだ。間際らしいことありゃしない。
すべての話でそうだと言っているのは、俺がもともと知っていた知識という訳ではなく今までの話は全て歌川から聞いた話なのだ。
ちなみに北条家は高広の息子景広が上杉家において暗殺された後、勝広が継ぎ、そして高広(これが今出た同名の人物)が継いだらしいがこのあたりの記録はもう残っていなくて歌川もはっきりとしたことは言えないらしい。
だから、本人の目はとても輝いていた。
そんなに北条さんのその後のことが気になっているんかい。
そう、突っ込みをしてみたかったが我慢する。
歌川の歴史愛、戦国愛をなめてはいけない。
おとなしく、話を聞いておくしかない。
まあ、話を聞いているおかげで少しながら戦国の知識を仕入れることができるので俺的には結果オーライであるのだが。
「こちらでいいのか?」
「このあたりに確か北条殿が陣を敷いていたはずなんだが……」
滝川一益は、あたりの陣を見渡す。
「北条って、どんな旗を使っているんだ?」
「えぇっと、何だっけ?」
歌川も知らないそうだ。そこに竜也が俺達の話に割り込んで説明をしてくる。
「北条は確か、上杉謙信に籏に小さな蟻が書かれたものを使っていてどうして籏にそんな小さな旗を使っているんだと言われて殿をするのにとか、先陣をするのに小さいも大きいも関係ないと言ったという逸話が確か残っていたはずだから……白地に小さい蟻が書かれたものが北条のもののはずだ」
「白地に小さい蟻、ねえ」
「白地に小さい蟻」
俺達は、竜也に言われたその旗を探す。
そして、その旗は案外早く見つかったのだった。
「あっ、ここだ」
「そのようだな」
「結構、簡単に見つかったね」
もっと、分かりやすいものを使ってくれたのならば俺らも探すのに手間取らなかったのにと思ったが、当時の人が後世の人からどのように評価されるかは絶対に気にしていなかったはずだ。まさか、自分のことが後世伝わっているとまでは思わんだろう。それに、残そうと思って案外残らないこともある。結構、有名なことをしないとやっぱり歴史というのは無理なものだ。
それこそ織田信長、豊臣秀吉、徳川家康クラスではないと歴史が残らんし、とりわけ軍旗とかは伝わらない。
もっと印象の残ることをしてほしかったと当人に悪いが思ってしまったのだった。
さて、俺らは北条の陣の中に入ることになった。
「失礼する」
「入ります」
「お邪魔します」
「失礼します」
滝川一益、俺、歌川、竜也の順に陣の中に入っていく。滝川はやはり偉そうに入っていく。まあ、この軍の総大将だし偉いのは事実なんだけどさ。
「これは、これは滝川殿どうかなされましたか?」
北条高広。
この男には一度会ったことがある。
だから、この男に会うのは二度目だ。
「北条殿に話がございましてな。少しそこの若者たちの話を聞いてやってくれはしませんか」
「なるほど。1人は知りませんが、私が見たことのある顔がいますね。わかりました。話しとやらを聞いてあげましょう」
「では、私の方から説明させてもらいます」
竜也が北条に説明を始める。
北条は、その前に君の名はと言い、竜也は自分の名前を名乗る。俺達も北条に会ったことがあるが名前を言った覚えがなかったので自己紹介がてら名前を言った方がいいのかと思ったが、北条が君たちはいいよと言ってきたので自己紹介をすることはしなかった。
「……ということです」
「ふむ。そういうことか」
竜也が北条を倒すためにも上野国衆たちの力をぜひとも貸してほしいという話をし終えた。
北条はその話を聞いて熟考しているように見えた。
「ただ、私に言ったところで他の上野の国衆が言うことを素直に聞くとは思えんが」
「わかってます。他の人にも交渉はします。しかし、まず最初にあなたのもとに行って話をしたかったのです」
「うれしいことを言うな、小僧」
「そうほめてくださり光栄です」
「……食えない奴だ。わかった。私の方からも他の者に話をしておこう」
「そう言ってくださるとうれしいです」
「弥介、来いっ!」
北条が誰か人の名前を呼ぶ。
「お呼びでしょうか、殿」
弥介と呼ばれた人物が来た。年は俺達と同じぐらいに思えた。
「弥介、この者達と共に上野の国衆の説得にあたりなさい」
「はっ、承知しました」
弥介と呼ばれた足軽? 小姓? が俺達と共に上野の国衆の説得にあたることになった。俺達は次いでどの上野の国衆の説得に行こうか考えることとなった。
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