第34話 真田
俺達が最初に向かった先は真田安房守のもとであった。
滝川軍の陣地の中で真田家が陣取っている場所を探す。
「真田信之、幸村、そして昌幸に会えるなんて」
俺の隣を歩いている歌川はかなり興奮していた。
真田信之は、幸村の兄だということしか俺は知らないが、真田幸村についてなら戦国に詳しくない俺でも知っている。
真田幸村。本名真田信繁。昨年度の大河ドラマにおいて主役をしていたので本名もしっかり覚えた。ドラマ自体はしっかりと見ていないがところどころ軽く見ていたので俺の戦国の知識である程度どうにかなっているとしたらそのあたりのおかげかもしれない。
「小田は、真田についてはある程度知っているということでいいのか?」
「ああ、去年の大河のおかげかな? でも、お前たちほど詳しい知識を俺は持ち合わせていないぞ」
「そうか。まあ、何かあったら歌川にヘルプに出てもらうつもりだからその時は宜な」
「ヘルプって、竜也君からしたら助けなんていらなくてどうせ1人ですべて解決させちゃうのでしょ」
「そんなことはないぞ。俺にだってできないことはもちろんあるし、分からないこともある。第一俺は戦国に詳しいとしても全般的な知識がきちんとあるかと言ったら疑わしいところもあるからな」
竜也は歌川の言葉にそう答えるが、実際のところ竜也の戦国の知識は俺達歴史研究部の全部員の中で一番のものである。竜也の戦国の知識には歌川でもかなうことはなかった。それほどのものだ。
だから何でこいつはこんな謙遜しやがって、という思いが俺の中ではあった。
そして、俺達は真田家の陣地にたどり着いた。
「失礼する」
滝川一益がそう言って真田家の陣地の中へと入っていく。俺達もその後に続いて真田家の陣地の中へと入っていく。
「これはこれは滝川左近殿どうかなれましたか。我が真田家の陣にどういった御用がございますか」
俺達を迎えた男、それは真田安房守こと真田昌幸だった。大河の影響であの有名な俳優を思い浮かべそうになったが、俺が見たこの男のイメージは徳川家康と同じ狸顔でいかにも策略を得意にしていますというオーラを出している色男だった。
体も結構大きかった。
「この男が真田安房守」
「すごい、まさか本物に会えるなんて」
竜也は真田安房守を観察し、歌川は本人に会えたことに感動していた。
「実は真田殿には折り入って話がありまして。少々時間をいただけるでしょうか?」
「承知しました。さて、こちらへどうぞ」
俺達は滝川一益と共に真田の陣の奥へと案内された。
机と見立てられた平たい板が置かれたスペースへと連れて来られた。
「で、話というのはどういった案件でしょうか?」
「実は、今回の戦いについてですが私達は負ける可能性もあります。ですので、ぜひとも真田殿お力を大いに必要ですのでどうかご協力いただけないでしょうか」
滝川一益は、自分の配下として使おうとしている真田安房守に対して土下座をした。
その様子を見た真田安房守はおどおどと慌てた。
まさか自分を配下とする上の人間が自身に土下座までしてくるとは読めなかったのだろう。
だが、真田の方も策略が得意な一族だ。何か考えているに違いないと俺は思っていた。その点では竜也も歌川も同意していた。
土下座をした滝川に対して何か自分に有利にことを進めることができるのじゃないか。本人の頭の中では今そのことだけを考えているだろう。真田の家のために今何ができるのか。
「父上、これは真田の家の力が認められたということでぜひとも協力をしましょう!」
「いや、源二郎。父上にもきっと何か考えがあるのだ慌てて考えをまとめようとするな」
「そう言って、源三郎兄上はいつも慎重すぎるのです。もっと真田の家は熱く猪突猛進で行かなくてはならないのです」
「あのなあ、源二郎」
真田安房守が返答に困り考えている横から2人の若武者が意見を言ってきた。
若武者といっても年齢は俺らと同じかそれより下ぐらいの頃合いだ。
この2人ってもしかして……
「小田君も気づいた。この2人が源三郎と言われた方があの信州松代藩初代藩主として真田家を明治維新まで残すことに成功した真田昌幸長男真田信幸。そして、源二郎と言われた方が大阪冬の陣、夏の陣において豊臣方として徳川家康をあと少しまで追い詰め後世日の本一の兵と呼ばれることになった真田昌幸次男真田幸村こと真田信繁だよ」
俺の目の前にはあの偉大な真田兄弟がいた。
まだまだ若いが。
でも、この2人が将来立派な武士に成長していくと考えるととても感慨深かった。まだまだ子供だけど今は。
「よし、決めた。真田は全面的にこの戦に協力をする。そのために我が真田に作戦を立てる許可をください」
「それなら問題ない。真田安房守殿の作戦を立てる能力は疑いのないもの。真田殿に指揮してもらうとなればそれはとても力強いものです」
「では、任された」
真田安房守と滝川一益は握手をする。
真田に作戦を立てるという一番重要なところを認めたことで真田はすんなりと協力をしてくれることになった。
源二郎の意見の方が採用されたということにもなる。
俺は、そのことに気づいてドラマと同じように信幸って可哀想だなって思った。
真田の兄弟ってよく仲良いって言われているような、あれで。
「さて、次はどこへ向かうか」
「北条殿のところへ行きましょう」
竜也が次に指名した人物は俺も会ったことがある厩橋城主北条高広の名前であった。
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