第26話 理由を考える
バシャバシャ
川に誰かがいる。俺は、川にいる謎の人物に向かって叫ぶ。
「誰だ!」
「お、お前は!」
「「竜也!?」」
「ああ、2人にまさか出会うとは思ってもいなかったな」
俺らの前に現れた人物は、現代において歴史研究部副部長であった野村竜也その人であった。
間違いない。野村竜也である。
「どうして、お前がここにいるんだ?」
「それは、こちらからも同じ質問をさせてもらうぞ。どうしてお前らがここにいるんだ?」
お互いがどうやらこの時代に飛ばされたようだった。とりあえず、どうしてここにいるのかの説明をして現状を把握することから始めたほうがいいのかもしれない。
「俺は、気が付いたら戦国時代の厩橋周辺の村に飛ばされていた。タイムスリップした理由については覚えがない」
「私は、滝川一益の陣にタイムスリップしていたわ。どうしてタイムスリップしたのかの理由は小田君と同じくわからないわ」
「俺は、小田原城に気づいたらいた。タイムスリップする前に何をしていたのか全く記憶に残っていないからどうしてここに来たのか思い浮かばない」
3人ともどうしてこの時代にタイムスリップしたのか理由が思い浮かばないようだ。というか、タイムスリップ寸前の記憶が俺にはなかった。俺だけではない歌川も竜也もないようだ。
「じゃあ、俺らはどうしてこの時代に来てしまったのか?」
「うーん」
「……」
最大の疑問だった。
この時代に来たことになんか意味はあるのか。
そもそもどうやってこんなSFのような展開が起きてしまったのか。謎が多すぎて俺程度の頭だと混乱が起きて物事を考えることがうまくできない。
「何か法則があったのか?」
俺が思考停止の状態になっている中で竜也はどうにかしてでもこうなった理由を必死に頭の中で考え探っていた。
「またはこの時代に何かがあるのか?」
「お、おーい、竜也。何か思い浮かんだか?」
「それとも──はっ! え、ええっとなんか言ったか小田?」
「いや、竜也が真面目に考えているから何か思い浮かんだのかなと思って。東大志望さんなら思い浮かぶだろうと思ったのだが」
「うるせえ。東大志望とか言うな。俺に東大は無理だ。そんな頭良くない。せいぜい北大程度の頭だ」
「北大程度ですか……」
北大をその程度扱いしているこの男はやはり頭がいい。
まあ、話がそれてしまった。
大事なのは竜也の頭がいいということからこの現状になってしまった理由を探ることができるのではないかとひそかな期待をしていた。理由が分かればつまりは元の時代に戻ることもできる可能性が出てくる。全く分からない状況よりは改善する。
俺としてもこの時代で農民として生きていくと決めたが、やはりこんな戦国時代の農村の生活に現代人の俺がなじむことがそう簡単にできるわけがない。最初の数日程度は我慢をすることができたがこれが一生続くとなるともう我慢できないという日が近い将来に来るはずだ。
だから本音を言うと元の時代に俺は戻りたい。
一日でも早く。
歴史が好きだからと言ってその時代に行くことは必ずしも幸せになる、うれしいとイコールの話ではない。実際にその時代に来てしまえば最初はうれしいし自分が今まで疑問に思っていたことを自分の目でしっかりと確認をすることができるかもしれないからテンションはかなり上がっているかもしれない。というか、俺は最初少しだけ実はテンションが上がっていた。しかし、その状況に慣れ始めると逆に冷めるような気がする。歴史が歴史じゃなくなってしまった瞬間だ。ちなみにそれが今の俺の状況であると言っても過言ではない。
「小田君、話がそれているよ。で、竜也はどう考えたの?」
「そうだな。ひとまず何も思い浮かばなかったが俺の答えかな」
「そう……竜也でも思い浮かばないことがあるのね」
「歌川まで俺のことを何でもわかる完璧主義者のような物云いかよ。お前も小田と同じだな」
「べ、べべ別に小田君と一緒の発想をしているわけじゃないからね」
「なぜ、そこでツンデレ発言……まあ、お前の気持ちはわかっているから皆までいうなだけど」
「わ、わわわ私の気持ちって何の話よ」
「あ、その話をしていいんだ」
「だめええええええええええええええええ」
「はいはい」
俺のいないところで歌川と達也の話は盛り上がっていた。何の話なのか俺にはわからなかったが。
気持ち……そういえば、気持ちで思い出したことがあった。今は神流川の戦いの最中であったのだが、同時に俺は北条高広に叩きつけられて歌川に告白をしようとしたところだったんだ。
まあ、告白をしようとした瞬間によくあるラノベとかラブコメである告白妨害パターンで失敗したのだが。
そう考えると竜也は何しに来てしまってるんだよ。
ふざけるんじゃない!
ちょっと、竜也に対するいら立ちがたまっていった。怒りゲージとかゲームのように存在するのであればまあまあたまった状態だろうか。
一回竜也に文句をがちんと言った方がいいのか。いや、やめよう。絶対にからかわれる。だったら、何もなかったことにしよう。
それが一番な気がする。
「そう言えば」
竜也が何かを思い出したかのように俺らに言う。
「告白の邪魔をしてごめんな」
「「っ!」」
俺と歌川の顔は一瞬にして真っ赤になった。
こいつ気づいていたのか。
しかもこのタイミングで蒸し返すとは……何ともひどい奴め。
俺は、竜也にさらに腹が立ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます