第25話 野村竜也



 話は少し戻って、まだ俺が戦国時代にタイムスリップする前の話。現代にいた時の話だ。


 平成29年5月1日。


 日本国群馬県前橋市にある県立東高校。


 その学校の校舎内にあるとある教室。いつもならば部室に行きたいところだが、今日は普通に授業をする教室にいた。



 「はぁ~、ゴールデンウイークなのに学校ってどういうことよ?」



 「文句を言うな、小田。そもそも今日は月曜日だ。文句を言うなら5月1日と2日を国民の休日にしなかった偉い人たちに言うんだな」



 朝。


 まだ、授業が始まる前の時間帯であるが俺のやる気は完全になかった。これから授業が始まると考えるととても憂鬱であった。50分授業を乗り切れる自信というのが完全に俺にはない。



 「まったく朝からシャキンとしないか」



 「副部長~」



 「こういう時だけ人を副部長扱いするな。そもそも今は部活の時間じゃないから俺を副部長扱いするのは間違っているだろ」



 「うるさいな、竜也は。そんな細かいことはどうでもいいだろ」



 「おい、細かいことか?」



 竜也―歴史研究部の副部長がうるさく文句を言っているが俺はめんどくさいので相手にしない。


 俺と竜也は同じクラスだ。それに席替えの結果席は教室の黒板を前だとすると、竜也が前側になり、俺が後ろ側になる。



 「今日の1限って何だっけ?」



 「あ、えぇっと、日本史だぞ」



 「日本史か……近代史ってまだまだ先だからな」



 「そうだよな。日本史の授業って2年から始まるから楽しみにしていたが、最初って旧石器時代とか縄文時代とか完全に考古学の内容だから興味を持てないんだよな」



 「わかるわかる。竜也が言うとおりだと思う」



 高校に入っての日本史の授業はこの学校では2年生から始まる。1年生の時は世界史であった。ちなみに歴史研究部には昔は世界史を専門にした人がいたみたいだが、今はいない。だから、もしかしたらいつか世界史担当の人が入って俺に世界史のことを熱く語ってくるかもしれない。世界史が別に嫌いという訳ではないから困ったりはしないが、得意ではないから戦国みたいにちょっとひいてしまうことはあるかもしれない。


 そして、考古学は苦手だ。土偶が好きとか、古墳が好きとか、打製石器が好きとか、そんな感情を持ったことがないから考古学を好きと思えないのだろう。俺は自分なりの考察をする。



 「2人と戦国とか近代史とかいかにも日本史のにわかが好きそうな分野を専門とか甘いよね」



 「何だと!」



 「あぁ?」



 俺達の会話に混ざってきた奴がいた。



 「いや、だってさあ、戦国とかはゲームの知識でどうにかなるし、近代史も今話題じゃん。だから、あまり日本史が専門の人とは言えないような分野だなって思ってね」



 「内村は、何様なんだ?」



 「内村、日本史に興味がない奴が何を偉そうに言っている?」



 俺らに喧嘩を売ってきた女は内村香織という。


 授業前に教室の中で話しかけてきたということからわかるようにクラスメイトだ。ショートヘアーでアウトドアスポーツが大好きであると本人は語っていた。ソフトボール部部長は伊達じゃない。いや、まだ3年生が引退していないからソフトボール部次期部長とでも言った方が正しいか。


 あと、胸が……残念だな。うん。


 本人に言ったら絶対に怒られる。いや、殺される。後、絶対に胸のあたりを見てはいけない。視線が若干下に言った時にじろりと内村ににらまれた。絶対に見るのはやめよう。てか、やってはいけないことだ。



 「日本史に興味がないってその言葉は失礼だね。そもそも私は将来考古学専攻したいからその方向の大学に進学するつもりであるほどに本気で考古学やっている人間なんだけど」



 「考古学専門だったのか?」



 「古墳? 打製石器? 土偶?」



 竜也とそして俺はお互いに内村に問い詰める。


 内村が日本史関係の事柄に興味があるような人間であるとは思っていなかったので、考古学が専門であると言われて大いに驚いたのだ。



 「須恵器よ」



 「「……」」



 須恵器って何だっけ?


 いや、どこかで聞いたことがある。多分。中学時代の社会科の授業で習ったような気がするようなしないような。でも、どこかで聞いたことがあるものだった。



 「須恵器って何だ?」



 俺が、つい口にしてしまう。



 「あれだろ、古墳時代の土器だろ。確か土師器と須恵器の2種類があったはずだ」



 竜也が分からない俺に説明をする。その言葉を聞いて、ああ、何だか習ったような気がした、思い出したような気にはなった。



 「まったく、日本史というのは別に人が出てきてからの時代だけじゃないでしょ。旧石器時代から歴史は始まっているの。記録があるかないか、文字があるかないか。それだけの違いじゃない」



 内村に諭されているような気がした。


 でも、内村が考古学をどれだけ好きだということはわかった。



 「内村、歴史研究部に入らない? お前確か帰宅部だったよね?」



 俺は、内村に歴史研究部に入ってくれないか聞いてみる。



 「いや、私が目指している大学は偏差値がかなり高いからきちんと勉強しないと今のままだと受からないから勉強を優先させてくれない。だから、ごめん。私は入れないわ」



 「そう、無理に誘ってすまなかったな」



 「別に大丈夫よ。小田君の心遣いに感謝するわ」



 俺は、内村がいれば歴史研究部がさらに面白くなると思ったので誘ってみたがあっさりと断られてしまった。残念だ。



 「おい、小田。勝手に何部員にしようとしているんだよ」



 「いいだろう。部員になってもらいたかったから誘っただけだぞ。いちいち部長や副部長に許可を求める必要はないだろ」



 「まあ、そうだけどさ」



 「そんなことよりもお前今日発表会じゃないか?」



 「ああ、そうだった! いやさあ、昨日頑張ってさあ呼んだんだよ。戦国遺文の北条編を全部」



 戦国遺文というのは、戦国時代の手紙など文書を集めた本のことだ。かなりの量がある。それを全部とは本当にこいつはバカなのか。北条マニアというかオタクはバカだ。



 「さあ、今日の発表で俺が北条についてどんなことを知ったのか教えてやる! まずは、神流川の戦いの話だ!」




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