ミャイの母親に、ミャイに甘いと言われたことを思い出す。
しかしミャイの気持ちをないがしろにするのも、悪い気がした。
「必要な部分だけなら、リボンをつけてもかまわぬと思うのだが」
まあ、とミャイの母親は目をまるくして、その目をすぐさまトロリと細めた。
「ミャイに甘いんですねぇ」
そうだろうか。
ともかく私は食事を終えると、ブラッシングを丁寧にし、やはりミャイの望みをすべて無視するのも気が引けたので、邪魔にならない程度に毛をまとめるという名目で左右にリボンをひとつずつ、地味なものを装着することとなった。
ミャイは不満そうな顔で私の半歩先を行き、チラチラとこちらの様子をうかがいながら目的地へと足を動かす。
「どうした」
「ん……うう、ん」
歯切れの悪いミャイなど、めずらしい。私はモゴモゴと口と鼻をうごめかすミャイが、なにか言葉を出すのを待った。
おそらくこれは、なにか言いたいことがあるのだ。
じっと待っていれば、口の中にとどまっている言葉をこぼすだろう。
ミャイは周囲を見回したり、私を見たり、足元を見たりしながらソワソワとしっぽを揺らしている。口の中にとどまっている言葉は、よほど吐き出しづらいものらしい。
背中を叩いて吐き出させるか。
ミャイの母親に、ミャイに甘いと言われたことを思い出す。
こういうものも、甘いと判断される行動になるのかもしれない。だが、なにが『甘い』のかがわからない。私は甘いのだろうか。
「あ……あのね、モケモフさん」
「ん?」
ボソボソとしたミャイの声に聞き返すと、ピャッとミャイはヒゲとしっぽを跳ねさせて、あわあわと前足を動かした。
「ああああのね……あのっ、あ、ああの」
不思議な踊りと歌だとながめていると、それは唐突に終わった。
しゅんとミャイがうなだれて、スカートの裾をギュッと握る。
「ご、ごめんなさい」
「ん?」
今度は疑問の問いだった。ミャイはモジモジしながら上目遣いに私を見てくる。
「お、怒ってる?」
なぜ、そのような質問をするのか。
わからぬ。
ゆえに私は首をかしげた。
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