机上の空、論。(8)

 え……演劇仮面?

 何だかとんでもない言葉を聞いた気がする。聞き間違い、だろうか。

 しかし、部長は場違いなほどにうきうきした顔で、レヴァーポップ先生に言う。

「だけど、今回は俺たちの勝ちだぜ! 大人しく負けを認めてくれよな」

「何だ、空部くんにはとっくにバレてましたかぁ。仕方ないですねぇ」

 緊張感を破るまったりとした声と共に、仮面を外してフードを上げるレヴァーポップ先生。その下の顔は、いつも通りのふにゃふにゃの笑顔だった。

 部長はにっと歯をむき出して笑い、鞄の中から分厚いノートを取り出す。その……初代部長とその仲間たちの日誌を先生に向けて差し出して、言った。

「『机上の空』は、アンタが預かってるんだよな、フィデルせんせ。いや、元・学園のヌシと言った方がいいかな」

 ――学園の、ヌシ?

 その噂は聞いたことがある。一昔前、この学校には「ヌシ」と呼ばれる生徒がいたのだ、と。

 いつから学校にいたのかはわからないが、リベル上級学校とリベルの町について知り尽くし、望めば今日の校長のネクタイの色から魔王城の侵入経路まで、生徒の知りたいことを何でも調べたという仮面の男。

 しかし、彼はいつしか学園から姿を消してしまったという。

 まあつまり、学校とリベルの町が好きすぎて留年しまくった挙句、卒業できないまま退学になった阿呆な生徒がいた、という笑い話なのだとエルルシア先生は教えてくれたけれど。

 そうか、それがレヴァーポップ先生のことだったのか……驚き半分、感心四分の一、呆れが四分の一くらいのバランスで先生を見やる。けれど、確かに学校とこの町が好きならば、教師は最高の仕事なのかもしれない。先生にとって正しく天職であるどうかは、全力で横に置いておいて。

 部長はそっと日誌を開く。航空部設立当時を生きてきた、初代部長ノーグ・カーティスとその仲間たちの記録。ずっと目を逸らしていた、あの人の、記録。

「日誌を見てわかったよ。アンタは航空部の設立に関わってて、ノーグとフー……セイル・フレイザーが卒業するときに、『宝物』を預かってた。具体的には何も書いてなかったけどさ、多分、ノーグはアンタがこの町に残るって踏んでたんだと思う」

「ええ、その通りです。そして、ノーグさんが『エメス』の長として知られるようになってからは、それこそ勘違いしたああいう連中に狙われないよう、宝探しを始めた生徒たちを影ながら守るのも、私の役目でした」

 君たちに限っては必要なかったみたいですけどね、と先生はくつくつ笑う。

 そ、そうか、こっちが盛大に勘違いしてたってことか……

 何かすごく恥ずかしいけれど、レヴァーポップ先生が明らかに怪しいのも悪いのだと思う! この悪ふざけとしか思えない格好もそうだし……って。

 そうだよな。そうに決まっている。

「それはそれは、とてつもなく盛大な悪ふざけですね」

 最初から、最後まで。

 これは「宝探し」という子供の遊びで。

 レヴァーポップ先生は、こっちの皮肉交じりの言葉を、普段見せるものとは違うにやりとした笑顔で受け止めた。

「そりゃあそうですよ、学園都市リベル最大の悪ガキにして『空狂い』ノーグ・カーティスが仕掛けた、阿呆による阿呆のための、壮大な遊びですからね」

 頭の中で、誰かさんが笑う。不器用な、笑顔ともいえない笑い方で。

 俺は、そんなアンタを知らない。

 知らないけれど……

「あの人は、宝探しを通して、ここにいた自分を知ってもらいたかったのですね」

 最初の地図があった場所、四つの地図が指し示していた場所。

 それは、今、自分たちが暮らしている場所で……かつてのノーグ・カーティスが日々を過ごしてきた場所、そのものだった。

「ご名答ですよ、ブルーくん」

 レヴァーポップ先生は、にっこりと笑った。笑って……窓の外に広がる朝の空を見つめる。眩しいほどに青い東の空には、ぽつりぽつりと定期船の姿が浮かんで見えた。

「もっと正確に言うなら、忘れてもらいたくなかったのでしょうねぇ。ノーグさんは、忘れられないから。何もかもを背負ったまま、ここから飛び立っていったから」

 ノーグ・カーティスは、目にしたもの、耳に入れたもの、自らの経験した何もかもを記憶する能力の持ち主だった。

 言い換えてみれば、何もかもを忘れることの出来ない「欠陥」の持ち主だった。

 その事実を、知らなかったわけじゃない。

 ――それでいて、あの人の孤独を、ここに来て初めて理解した気がした。

「何もかも、何もかも、か。そりゃあ、なかなかに重たいな」

 窓の外を見上げる部長の呟きも、風に乗って。

「でもさ」

 振り向いた部長の手には、一冊の日誌。

 端が擦り切れるくらい使い込まれた分厚いノートは、彼とその仲間たちの生きた記録そのもの。俺はその中身を知らないけれど、部長は輝くように笑いながら言うのだ。

「ノーグは、それをきっと、重たかったとは思ってねえんだろうと思ったよ」

「え?」

「だって、ノーグにとっちゃ、当たり前だったんだろ。自分と周りが違うのなんて、とっくのとうにわかってたと思うんだ。それでも、誰かと一緒にいるのが、とにかく理由もなく大好きだったんだろうなーってさ」

 繋がっていること。それを感じられること。

「理解はされなかったかもしれない。実際、されなかったはずだ。

 今だって、そもそも俺はノーグ・カーティス本人を知らないし、ブルーはブルーで、自分の知ってるノーグの記憶と人が語る話の間で戸惑ってる。モニカせんせだって、リムリカさんだって、皆、皆、ノーグを知ってる人は理解しきれていないんだと思う。

 でも、もしこの場にノーグがいたとしたら、きっとそんなこと気にせずに、笑ってると思うんだ」

 今も、誰かと見えない絆で結ばれていること。

 それが――

「ほら、皆俺のことを忘れてねえだろ、ってさ!」

 どれだけ、幸せなことなのか、知ってたんじゃないか……!

「……どしたん、ブルー」

「な、何でもないですっ」

「また泣いてんのか? 相変わらず涙腺弱いよな、ブルーって」

「泣いてないです! 人聞きの悪いこと言わないで下さい!」

 反射的に言い返しながら、眼鏡をかけ直す。人の目が怖くてかけ始めた眼鏡だけれど、こうやって何かをごまかす時にも都合がいい。本当は……ごまかさなくたっていいんだろうけれど。どうしても、部長相手に素直になりたくない。

 そんな俺たちを、レヴァーポップ先生は目を細めて見つめていたけれど、やがていつものゆったりとした声で言った。

「ノーグさんは本当に幸せ者ですね。こんな素敵な後輩と、優しい弟さんに自分の宝物を託すことができるんですから」

 いつの間にかレヴァーポップ先生の手の中には、手品のように一つの箱が現れていた。実際に手品だったのかもしれないし、遺失魔法の道具かなんかを使ったのかもしれないけれど……

 それは、薄く、平べったい木の箱だった。黒く塗られた箱の表面には、銀の文字で『机上の空を、ここに収める』とだけ書かれている。

 これが、『机上の空』?

「これ……貰っていいのか?」

 部長の問いに、レヴァーポップ先生は「もちろんですよ」と微笑む。

 床に座り込んで、部長は閉ざされた箱を開く。その手元を、中に入っているものを見逃さないように覗き込む。

 蓋が開けられた瞬間……初めは、何だか一瞬わからなかった。けれど、部長がそれを手にとって、やっと俺にもその正体がわかった。線と文字で構成された不可思議な世界が描かれた、紙の束。それは……

「設計図だ……!」

 そうか、だから……『机上の空』だったのか!

 実物があるわけではない、ただ机上の計算だけで描かれた、架空の船の数々。未だ形になって現実の空を飛んだことはない、そんな初代航空部二人の「空想」が箱いっぱいに詰め込まれていた。

 部長が目を輝かせて手に取った紙の束の中から、一枚を抜き取る。

 見たことのない船、鳥や竜蟲を思わせる形の翼持つもの。それは、楽園に生きる全ての『空狂い』たちが望んでも届かなかった世界に挑戦するものだった。

 引かれた線の太さと正確さ、書かれた文字の丁寧さ。筆跡の違う二つの文字が、これを描いたノーグ・カーティスとセイル・フレイザーの声をそのままこの紙の上に焼き付けているようで。

 これを書いている間、二人は何を思っていたのだろう。時に意見をぶつかり合わせて、己の理想を描きながらもそれが現実に可能かどうか悩みながら……

 それでも、きっと、二人は何よりも楽しんでいた。それが手に取るようにわかる、伸び伸びとした筆致だった。

「これが……初代が残した宝、か」

 部長の声には、感慨と静かな興奮がこめられていて。自分もまた、胸の中に湧き上がる熱い感情を感じていた。

 宝だ。まぎれもなく、これは宝物だった。

 俺たちに『空狂い』にとってはまさしく憧れそのもので、それ以外にとっては、ただの紙くずでしかない……そんな、夢の形がそこにあった。

「……あれ、部長、まだ何か入ってますよ?」

「お?」

 箱から設計図を全部取り出すと、底に何かがはりついていた。部長は一旦設計図を床に置いて、それを取り出す。見れば、それは封筒に入った手紙だった。緊張の面持ちで封を切り、中に入っていた紙を取り出す。

「見るぞ」

 はい、と頷きを返す自分もまた、緊張していたのだと思う。その声は、少し上ずってしまっていたから。

 そこに書かれていたのは……綺麗過ぎる文字。ノーグ・カーティスのものであると一目でわかる、他に真似のしようがない完璧な文字で書かれている文面を、部長が読み上げる。

「……『空狂いの同志へ』」


 

 ――これを見ている君には、初めましてだろうか。それとも、もしかすると俺の知っている誰かだろうか。

 これを読んでいる、ということは、俺と相棒の残した宝の地図を全て見つけて、ヌシにも認めてもらったということなのだと思う。

 これが、ここリベル上級学校に航空部を設立した俺とフー……相棒セイル・フレイザーが、これからここに生きるであろう君たちに残すことのできる全てである。もちろん、これが君の手に渡る頃には、ここに描いてみせた夢はとっくに形になっているかもしれない。もしくは、不可能だと断じられてしまっているかもしれない。それでも、俺たちはここに、俺たちが生きてきた証として、『机上の空』を残す。

 仮に。

 ここに描いたものがまだ現実となっていないのであれば……もし、君たちにその気があれば、の話だが……どうか、形にして欲しい。俺たちの描いた空の夢は何処までも架空だが、本当の『空狂い』であれば、いつか必ず形に出来ると信じている。

 だから……これは俺から、君たちへの最後の挑戦だ。

 机上の空に、堕すなかれ。

 俺たちには届かなかった遥かな空へ、どうか、君たちの手で飛び立ってほしい。

 そして、願わくは誰も届かなかった楽園の果てへ、たどり着いて欲しい。

 それが、君たち未来の航空部にかける、俺の最初で最後の願いである。


 

「――『ノーグ・カーティス』」

 部長は、その名で手紙を締めて……しばらく、黙り込んだ。

 俺もまた、言葉を出すこともできないままに、その場に立ち尽くしていた。

 ノーグ・カーティス。あの人が俺たちに課した宝探しは、まだ終わってなんかいなかった。むしろ、ここからが本番なのだ。

 二人が残した夢を形にした先にあるのは、楽園の果てというとんでもなく大きな宝物。それこそ、天才と呼ばれた二人ですら届かなかった場所に、挑めというのだ。きっと、俺一人でこれを見たなら「そんなの不可能に決まってる」と言い切っていたに違いない。

 けれど。

「……っ、俄然、燃えてきたじゃねえか!」

 部長は、ぐっと手紙を握りつぶして、空に向かって吼える。

「見てろよ、ノーグ・カーティス! アンタが夢見た船を、絶対に楽園の果てにまで届かせてみせる! お前の弟と一緒にな!」

 ――そうだろ、ブルー。

 声と共に振り向いた部長は、子供みたいに笑っていて。俺も、一緒になって笑っていたに違いない。

「はい。絶対に」

 無理だと笑い飛ばして、諦めてしまうのは簡単だ。実際、ほとんどの人はそうやって、空を飛ぶことを諦めてきたに違いない。だけど、俺たちは最初から最後まで『空狂い』。空に魅せられ、空に狂った阿呆なんだ。

 一人では届かない場所でも、同じ志を持つ部長とならば……何処までも行ける気がした。それがもし不可能だったとしても、絶対に後悔はしない。この手紙を書いたノーグがきっとそうであったように、歩んできた道筋はきっと、無駄にはならないから。

 歴代の『空狂い』はそうやって、空への思いを受け継いできたに違いないのだから。

「よし、そうと決まれば……」

 部長の声を遮って、突然に風が吹いた。ごう、という音と共に窓から吹き込んで、鐘楼の中を複雑にかき回した強い風は――床に置いてあった設計図を巻き込んで高く、高く、舞い上げる。

「ああああああああっ!」

 部長と自分は同時に叫んだ。手を伸ばして飛んでいこうとする設計図を掴もうとするも、風はそんな俺たちをあざ笑うかのように紙束を窓の外にばら撒いてしまう。

「ちょ、待てよ!」

 慌てて螺旋階段を駆け下りていく部長。すぐにその背中を追おうとしたが、ふと階下に残してしまった『エメス』の連中と、レヴァーポップ先生のことを思い出して先生をちらりと見る。

 すると、先生はいたずらっぽく笑って言った。

「心配いりませんよ。下の人たちは、こちらで何とかしておきますから。もちろん、君たちのこともごまかしておきますからね」

 言って、片目をつむってみせる。

 普段はあんなに頼りなく見えるレヴァーポップ先生だけれども……あの人が信用して宝を託した相手なのだ。今はその言葉を信じて、螺旋階段を跳ぶように駆け下りる。時計塔を飛び出して、何とか部長に追いついた。

 空を行く設計図は、まるで白い鳥。大きく翼を広げて、空の果てを目指すかのようにも、見えた。

「部長」

 そんな紙の鳥を追いかけて走りながら……部長に呼びかける。

「俺、熱の月に入ったら、家に帰ろうと思います」

「ん、気が変わった?」

 部長はこっちを見ないままに言う。視線は当然、空を舞う設計図を追っていたから。こちらも、同じように空を見上げながら、笑う。

「はい。あの人に会ってこようと思うんです。もう、逃げるのは止めようと、思いまして」

 あの人……異端研究者の長、『機巧の賢者』ノーグ・カーティスの行方は誰一人として知らない。知らないことに、なっている。そうやって、誰もが本当のことを知らされぬまま、何も言わずにあの人は帰ってきた。帰ってきたのだ。

 だから、ずっと家に帰りたくなかった。わけもわからないまま俺の前から消えて、世界の敵となって、それで黙って帰ってきてしまったあの人のことを思うだけで心がざわめくというのに、今のあの人と対峙して、まともでいられるとも思わなくて。

 一言で言えば、逃げていたのだ。

 けれど、今回の宝探しを通して、少しだけ……少しだけ、わかった気がしたのだ。

 自分の中で、ノーグ・カーティスはさっぱり理解のできない存在だった。尊敬すべき相手であり、人間離れした頭脳を誇る天才であり、心を持たない異端研究者であり……なのに夢を諦めてしまった、ただの人でもあって。

『俺は、飛べないから』

 そうやって言ったあの人の背中を、今も忘れられずにいる。

 ノーグ・カーティスは天才的な飛空艇技師でもあると伝えられている。実際、俺はあの人が異端研究者だと知るまではそれをずっと信じていたのだ。けれど、あの人は……早々に技師の道を、己の船を形にするという夢を諦めて、異端の道に進んでいたのだ。その事実を隠したまま、ノーグ・カーティスは気づけば取り返しのつかないまでに、世界の敵となってしまっていた。

 夢を諦めた理由は簡単だ。いわゆる「人間関係の不和」……同じ目的を持っていたはずの仕事仲間に、背を向けられたからだった。けれど、元より人の理解を拒む孤高の天才が、そんなことで夢を諦めたことが許せなかった。そう、許せなかったのだ。

 ノーグ・カーティスはかくあるべきと。そう決め付けていたのは、自分だった。

 けれど……違ったのだ。

 確かにあの人は天才で、頭も心も人間離れしていたかもしれない。

 それでも、ここにいる間は自分たちと同じ、夢を追いかけるただの阿呆な子供だった。ちょっとしたことでいらいらしたり、喧嘩したり、落ち込んだりもしていたのかもしれない。けれど、何もかもをひっくるめて……あの人は、ここでの生活を愛していた。

 俺と同じように……仲間と一緒に足を揃えて歩く、そんな日々を誰よりも愛していたんだ。

 だから、今は、とにかく。

「あの人に、話をしたいんです。今の俺のこと、部長のこと、それに、『机上の空』を見つけたこと。そうすることで、俺も、少しだけ前に進めるような気がして」

 話すだけで何が変わるだろう、と笑われるかもしれない。けれど、まずは伝えたかった。少しだけ、ほんの少しだけど、アンタのことがわかったんだと。それで、今の俺はアンタと同じように、楽しくやっているんだと。

 だから……もう、何も心配はいらないと。

「ブルーがそうしたいなら、それがきっと正解さ」

 立ち止まった部長が、振り向く。

 きらきらと、黒曜石のように輝く黒い双眸は……明るい光に満ちていた。

「大丈夫だ、きっと何もかも上手くいく。俺が認めたお前なんだ、何も心配するこたねえよ」

 そこに、根拠なんて何もなくて。

 だけど、部長にそう言われてしまうと、何とかなるような気がしてしまう。そんな部長に何度騙されて……何度、勇気付けられたことだろう。

 そっと胸に手を当てて、顔を上げて。

「――ありがとう、ございます」

 言葉を放てば、部長は「よし」と満足げに笑ってみせる。

「じゃ、折角だから俺も家に帰るとするかな」

「……え?」

「散々帰れって言われてるし、そろそろ俺も現実を見なきゃなって思うわけよ」

 逃げてるのは俺も一緒ってこと、と部長は軽く笑って……空を見上げる。風に煽られた白い紙は、ふわりふわりと落下を始めている。

「でも、今はまず、あれに追いつかねえとな。お前の兄貴の宝物、失くすわけにはいかねえもんな」

「……追いつけますか?」

「ノーグ・カーティス曰く、『気合と根性さえあれば、案外何とでもなる』さ!」

「……それ、よく聞きますけど、本当にあの人の台詞ですか?」

「はは、さあな!」

 ふざけあいながら、お互いの拳を打ち合わせて。

 そこに、それ以上の言葉なんていらなかった。部長は左、俺は右。飛んでいった設計図を追って同時に駆け出す。

 駆け出しながら……空を、見すえる。俺の髪の色と同じ、綺麗に透き通った青が、一面に広がっているのを見つめて、思う。

 ――もう、大丈夫だ。

 胸の痛みは決して消えないし、これからもずっと、なくなることはないと思う。それでも、俺は一歩だけ、前に進んでみようと思う。だからまずは、アンタと向き合って、今まで抱えてきた全てをきちんと伝えようと思う。

 きっと、アンタもそれを望んでいるだろうから。


 

 そうだろ――兄貴?

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