第2話 『発覚した新事実』

 すでに閑散としている昇降口にて、俺たちの新しいクラスである二年二組の階を確認し、階段を登る。

 三階まで登り、手前から二番目の教室に、「二年二組」と書かれたプレートが下げられていたので、そのまま中に入る。

 と、そこで急に騒がしかった教室が静まり返ったかと思うと、すぐにまた何事もなかったかのように喋り始めた。

「まったく……。有名人というのは困ったものです」

「あはは……」

 香凛は入学当時から学年を問わずその名が知れ渡り、一ヵ月目は部活勧誘のラッシュが、二ヵ月目以降は男子生徒による告白ラッシュが到来し、学校生活に支障をきたすくらいには大変だった──らしい。去年の俺と香凛は別のクラスだったため、颯太から聞いた噂に過ぎないけれど。

「おう、司! 遅かったじゃねーか!」

「おはよう颯太。今年も同じクラスだな。よろしく頼む」

「おうよ! っと、冬見さんも一緒か。クラスでちょっとした話題になってたんだぜ?」

「私としてはあまり目立つのは好きではないのですが……」

 ちょっと凹んでいるように見える香凛が突然年相応になったみたいで微笑ましい。

 普段は大人びた雰囲気を醸し出しているため、こういう姿はとても貴重だ。

「あなたが春井颯太さんですね?」

「いかにも!」

「いつも司がお世話になっております」

「それは普通親のセリフだからな!?」

「いえ、でも、司と仲良くしてくれていますし、これくらいの挨拶は必要かと思いまして……」

「お気遣い感謝します。それじゃ、俺たちは席を確認しに行きまので!」

「あ、ちょっ!」

 黒板前まで強制連行され、脇腹を小突かれる。

「……お前らもしかして付き合ってたり?」

「……しねーよ。俺と香凛は幼馴染ってだけ」

「んだと!?」

「あの、どうかしたのですか?」

「い、いえなんでも……」

 颯太は俺に一瞥くれてから、「俺にもまだチャンスはあるんだよな……」などと呟いている。

 と、そこに、

「あ、颯太! 何で先に行っちゃうかなあ、もう!」

「すまんすまん。忘れてたっていうか、迷惑かけたくないっていうか……」

「せめてメールくらいしてくれればよかったのに」

「今度から気を付ける」

 下から声がしたと思えば、さっきの砂色ブレザーさんがいた。

 140cmあるの?というくらい小さい背丈と、肩からこぼれる二つのお下げ髪が特徴的な女の子だった。公共交通機関を利用するとき、子供料金で払っても絶対ばれないだろう。いや、実際ダメだけど。

「春井君、この方は?」

「紹介するよ。俺の幼馴染の東條夏希だ」

「東條です。えっと……」

「俺は秋月司。こっちは──」

「私、彼女のこと知ってるよ? 確か……冬見さん、だったよね?」

「そうです。そうですが……なんだか知らぬ間に個人情報を拡散されているのは、あまり気分が良いものではありませんね……」

「ご、ごめんね!? 私、全然そんなつもりはなかったんだけど──って、さっきは心配してくれてありがとね!」

「いえいえ。それより、ブレザーは大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫だよ。一回人ごみの中に突入してクラスを確認しようと思ったんだけど、もみくちゃになって転んじゃって……」

 どうやらいじめではないようだ。ほっと胸を撫で下ろす。

「私たち、幼馴染同士もう仲良しだよね? ね?」

 ずずいっと詰め寄ってきた東條さんを引き剥がすように、颯太が襟を掴んで引っ張った。

「そろそろチャイム鳴るから、さっさと席確認して座れ」

「ううっ……。じゃ、また後でね!」

 言うが早いか、さっと自分の席を確認して去っていった。

「東條さん見てるとなんだか心がほっこりしてくるよな……。なんというか、合法ロリみたいな……」

「あいつと関わった男子は大概同じこと言うんだよ……」

 しばし笑いあった後、チャイムが鳴り始めたので、急いで席を確認する。

 席に着くと、間もなく担任がやってきて、ホームルームが始まった。

 東條夏希。一言で表すなら、合法ロ──じゃなくて、天真爛漫。全力で存在をアピールしているところとか、庇護欲を掻き立てるようなあの容姿は反則級に可愛い。

「まさか颯太にもあんな可愛い幼馴染がいたなんてな……」

「お前も人のこと言えないだろうが……」

 俺も颯太も、お互いのことを知っているようで意外と知らないみたいだ。まあ、幼馴染だとバレれば、校内の誰も彼も敵に回すことになりそうだから、黙っていたんだけど。

「今年も楽しい一年になりそうだな、司」

「そうだな。楽しい一年にしようぜ」

「ほらそこ! 私語を慎みなさい!」

「「すみません!」」

 こうして、俺と香凛と颯太と東條さんの新学期が幕を上げた。

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