第9話

 佐藤さんは政治や経済に関心がある。自分の主張を記事に込めることは少ないけれど、新聞の政治欄や「日本経済新聞」に載っているようなネタを取り上げたりする。

「なんで佐藤さんは政治が好きなんですか」と、彼女に問いかけたことがある。

「好きというより、人間の目的はつまるところ、政治に行き着くのよ」

「はぁ……」

「だってそうじゃない? 世の中を変えるには政治に参加するしかないんだから」

「でも僕らには選挙権はありませんよ」

「もうすぐ18歳になったら選挙に行けるかもしれないのに」

「あっ」


 ちょうど倫理の授業でプラトンを勉強していた。プラトンが最後に行き着いたのは政治思想だった。『国家』という本を書いたらしい。たしかに、人間は政治的なものに行き着くのかも知れない。

 僕には政治がわからない。太宰治の『走れメロス』に「メロスには政治がわからぬ。」って書いてあったっけ。右も左もわからない。選挙も縁遠いものだと思っていた。

 ただ、「人間の目的はつまるところ、政治に行き着く」と佐藤さんに言われてから、たとえば佐藤さんと部長の政治談義が、少しだけ聞き取れるようになった気がする。

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