婿入りします

ゆのた

とある男が実家へ宛てた手紙

 そろそろ花粉が飛ぶか飛ばないか、過敏に反応して俺の鼻が勝手にむずむずしている今日このごろ。田舎の親父、母ちゃんはいかがお過ごしでしょうか。家の裏の杉林は花粉を飛ばしまくっているのでしょうか。

 あなた達の息子の楢崎務ならさきつとむは、都会の割と冷たい現実に絶望したりすることもなく、平凡に会社勤めをしています。

 ところで、本題なのですが、もしかしたら俺は楢崎ではなくなってしまうかもしれません。



 俺の勤めている会社を覚えているでしょうか。そうです。全国でも名の通った製薬会社ですね。我が社の経営陣は――最近、大企業では少なくなってきたように思いますが――創設者の親族で固められています。

 そんな我社の社長にはたった一人、ご令嬢しかお子様がおられません。社長は一人娘が可愛くて可愛くて仕方がないようで、次期社長の座を譲りたいとお考えになっています。

しかし、周りの皆さんは女性が社長になる事に不安――不満といった方がいいかもしれません――を抱いているようです。古風な考え方だと、俺は思うのですが、急に人の意識を変えるというのは難しいものですよね。

 社長は周りの上役の皆様から総スカンを食らってしまいました。そして、ならば婿を探して、二人で経営させればいいだろうとお考えになりました。少し強引な気がします。



 そのような感じで始まった婿探しでしたが、なかなか社長のお眼鏡にかなう方はいらっしゃらなかったようで、婿探しは難航していました。

「あんなチャラチャラした男に娘を託せるか!!」

 一時期の社長の口癖です。『チャラチャラした』と言っても、スーツの色が明るすぎるだとか、腕時計のデザインが奇抜だとか、そういう程度です。婿を探すとはおっしゃっていも、結婚させたくないのだな、とこの頃には気付くようになりました。

 鈍感なところがあると自覚している俺でも気付けたので、社長の苦悩は周りに筒抜けだったと思います。


 そんな社長の苦悩の日々に終止符を打ったのは件のお嬢様でした。

「私、結婚したい人がいるの」

 そう仰られました。


 そこから先のことは、親父と母ちゃんの勘が良ければ気づいているかもしれませんが、というか気づいていて欲しいという気持ちがおおきいのですが――あまり自分の口からは言いたくありません――すいません。俺は十五歳下の人の元へ婿入りすることになりそうです。彼女の気が変わらない限りは。


 同封した結婚式・披露宴の招待状がありますので東京まで出てきてください。

 俺は倫理観に押し潰されそうですが、元気ですので心配しないでくださいね。

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