第6話 来客
異界生物を倒し、学校へ遅刻していった正行。
授業を優等生として受け、放課後になるとそのまま家へと帰宅、また家庭で学習を始めた。勉強をすることに苦痛を感じていないので正行にとっては普通に趣味と変わらないことであった。
そんな感じでいつも通り勉強をしていた正行の元へ一通の電話が来た。
「はい、林です」
「もしもーし、正行―。元気―。ひましているぅ。ねえねえ──」
ガチ
正行は、思いっきり電話を切った。
それは衝動的動作であった。その声を聞いた瞬間に正行はあっと察し電話を切ったのだ。
ブルルルル
また、電話が鳴った。
昭和の固定電話の着信音に設定しているのが正行である。古いものが好きだという趣味のためこのような着信音となっているのだ。
電話に出るか一瞬悩んだ正行であったが、紆余曲折した結果取ることにした。
「もしもし」
「ねえねえ、どうして切ったの。私の話をしっかり聞きなさいよお」
「いやです、そのテンションに付いていくのが大変なんですよ。詩織さん。しかも、今日2回目ですよ。もう今日は異界生物を倒したのですから連絡しないでくださいよ。も、もしかしてまた異界生物が出たのですか?」
「いいえ、違うわよ。でも、招集よ。今日は妙議団の大事な会議をする日って言っていたでしょ。なのに、何で来ないのよ。しかも、誰一人も。だから、早く来るのよ」
ブチッ
電話は切れた。
正行は、はぁと一回ため息をつく。詩織の話によるとまだだれも来ていないと言っていた。ああ、これは完全に他のメンバーも面倒くさくてさぼったなと直観的であったが思い至った。
正行はさてどうしたものかと考える。
このまま会議をさぼって勉強を続けるのか。それともきちんと詩織の言うとおりに会議に出ることにするか。かなり悩んだ。そもそも今日の会議ってする場所が何処であったのかしっかりと確認をしていなかったことに気づく。
場所は……カラオケまねき戌であった。群馬県に本部を置く企業が運営している全国展開しているカラオケチェーン。その前橋大島店が会議の行われる場所であった。
「これ、本当に会議をするつもりなのか?」
正行は思った。
妙議団の本部で会議を行うことをせずにカラオケで会議をする。そんなことがあっていいのかと。しかし、詩織のことだ。会議をするに決まって……いない。これは絶対に会議という名目でメンバーを集めてそのままカラオケ大会をしようとかいうノリになる。そんなことを正行は察した。
となると、正行がとる行動は決まっていた。
「さてさて、勉強しようと」
もちろんとる行動はさぼるというものであった。
いちいち正行は詩織に振り回されるようなことをしたいとは思っていない。だったら、正行は勉強をするという選択肢を取る。
しかし、そんな正行に来客が来た。
ピンポーン
「誰だよ」
正行はいやいやながら家の扉を開ける。そこにいたのは妙議団のメンバーの一人である石原倫子だった。
「林君。少し話をしたいのだけどいい?」
石原倫子。
年齢は20歳。県内の女子大に通っている女子大生である。おっとりとした性格であり団内ではかなり男性に人気があるとかないとか言われている。ザ文学少女というのが正行の印象である。しかし、おっとりとした見た目とは裏腹に運動神経が抜群でありかなりスポーツができる人である。高校時代は卓球で全国大会にまでいった実力を持っている。
ちなみに胸が大きい。
正行はつい倫子の胸元を見てしまいそうになるが、バレるのが怖いので必死に見ないように話そうとする。正行だって男だ。そういうことにはもちろん興味があるのだ。
「倫子さん」
「林君―。ちょっと、来てくれないかなあ」
「いや、無理です」
正行はいくら倫子さんの頼みとはいえ断ることにした。だって、どこに連れて行かれるのか分かり切ったことであったからだ。倫子さんに付いて行ってはいけない。そんなことをしっかりと理解していた。
しかし、倫子さんはそんな正行の行動を知ってか知らないかわからないがある行動を起こした。
むにゅ
「へっ」
正行は間抜けな声を出した。
なぜ、正行が間抜けな声を出したのか。それは倫子が唐突に正行の腕に抱きついてきたのだ。
むにゅ。その擬音の正体は正行の腕には倫子のその豊満な胸が引っ付いていた。
「ちょ、ちょっと倫子さん」
正行はその動作に動揺をしてしまう。最初は間抜けな声を出したが今は焦っている方が大きい。
正行は男子高校生なのでそれなりの性欲はある。さらに童貞だ。だからこそ女性の胸に対して過剰に反応してしまう。
「なーにー、正行君。顔を赤くしちゃってどうしちゃったの?」
天然なのかそれとも計算したうえで行っている言動なのか。倫子について正行はたまに分からなくなることがある。
顔が赤くなっているのはあなたのせいですよと思いっきり言いたい気分にもなっている。
「別になってませんよ」
「嘘ついちゃってー」
「嘘じゃないです」
「嘘だねえ。わかってるよー」
そのような問答が続いた。そして、この下らない問答が実はある作戦だということに正行はまだ気が付いていないのであった。
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