本編

前置き


 北には緑豊かな森が広がり、南には紺碧の海がどこまでも続く。

 けして大きくはないが、そんな自然の恵みがあふれた国土を持つ、フロシア王国。

 その都、フローラルには、真珠宮と呼ばれる白く光り輝く王宮があった。




 この王宮のあるじである現フロシア国王には、三人の子がおり、その一人、マリー・ド・フロシア王女には、たくさんのあだ名がついていた。

 そのあだ名は、王宮の中と外ではかなり違っていた。

 農民や商人などの庶民の間では、「騎士王女」や「賢姫」、「剣姫」、「我らが王女様」と称され、絶大な支持を得ている。…………が、一歩、王宮の中に入ってみると、その印象を見事に壊すようなあだ名で呼ばれていた。

 王宮の華やかな貴族からつけられたあだ名は、『黒薔薇姫くろばらひめ』。

 王女や王妃が花の名前で呼ばれるのは、けして珍しいことではない。貴族たちは王族の女性に敬意をこめて、このようなあだ名を使う。しかし、このあだ名にこめられているのは敬意…………ではなく、あきらかに敵意や悪意のたぐいであることがわかる。

 なにしろ、黒薔薇の花言葉の一つは"憎しみ、恨み"であるからだ。同じ薔薇でも、白薔薇や赤薔薇とは訳が違うのである。

 これは彼女の行いによって、出てしまった差である。なぜ、ここまで庶民と貴族との間で評価がはっきりと違ってしまっているのか?

 その疑問はさておき、この王女、マリーはいつものように真珠宮の謁見の間にいた。

 

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