第19話 虚無との戦い
そして、ぼくはまた旅をして、ソニアのいる宿屋に戻った。
ぼくは宿屋に着いてからは、ずっとソニアの看病をしていた。
一週間ほどで、ソニアの意識が戻った。
ぱっと突然、目を開けたソニア。
ソニアの顔をのぞきこむぼく。
「まあ、チートじゃない」
「そうだよ、ソニア」
ぼくは少し照れて、ソニアに返事した。
「元気になってよかった」
「今、何日? わたし、どのくらい寝ていたの?」
「一カ月半くらいだよ」
「ずっと看病していてくれたの、チート」
「ずっと、じゃないよ。途中で、パパリにまで行って帰って来た」
「そう、ありがとう、チート」
ぼくは大袋の口を開いてソニアに打ち明けた。
「これを見てよ。ぼくら二人のものだよ、ソニア。洞窟に行けば、この十倍以上の財宝がまだあるんだ。ぼくらは大富豪だよ、ソニア」
「あはははははははっ、やったあ、チート」
ソニアは素直に笑ってくれた。
「これからどうするの、チート」
「できれば、パパリに行きたい。まだ、会いたい人がいるんだ」
「誰?」
「この剣をくれた人だよ。フラランスの王子なんだ。恩人だよ」
「儲かりそうね」
そして、ぼくらはパパリへ旅に出た。
パパリに着くと、ぼくは、ユユリを偶然、見つけた。
母の病を診察した医者の弟子だ。
ぼくの心の奥から、自然と怒りが湧き起こるのを感じた。許せない。
ぼくは、ユユリを殴った。
「何をするんです」
ユユリは丁寧なことばで詰問する。
「何をするだあ? 法外な診察料をふんだくり、ぼくら一家を破産させた張本人が」
ぼくはまたユユリを全力で殴った。ユユリが倒れ付す。
犯してやろうか。
そんな気持ちがぼくの心の奥で湧きあがり、ユユリの上にまたがった。ユユリの服を脱がそうとぼくがすると、
「ふううん、そういう女の子が好きなんだあ?」
と、ソニアの甘い声がした。
急に恥ずかしくなって、ぼくはユユリから跳びはねて離れた。
「ち、ちがうんだ、ソニア。これは」
「あらあ、殿方が突然その気になることがあるのは、よく理解しているつもりですけど、わたし」
ソニアが横を向く。
「ち、ちがうんだ、ソニア。これは怪しい行為では決してなく、ぼくが好きなのは」
ユユリが立ち上がって、ぱんぱんと埃を払った。
「わたしはこれで失礼します。どうぞ、つづきをお楽しみくださいませ」
ユユリは、超然として、堂々と立ち去って行った。
恥ずかしくて顔が真っ赤になったぼくは、ソニアの顔を右手で引き寄せて、そっとキスをした。
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