第17話 至高神との対話

 意識の戻らないソニアの看病を宿屋の一家に頼み、ぼくはパパリの都へ帰った。

 華の都パパリには、ぼくの父と母がまだ残っているのだろうと思って、帰って来たのだった。

 父と母が死んでいたらどうしよう、そんな不安がぼくの頭をよぎる。

 だが、父と母は、ぼくが飛び出したあの夜と同じ場所にテントを張って住んでいた。父がどうやって生活費を稼いでいたのかわからないが、二人は生きていた。

 ぼくは、わざと陽気に父に話しかけた。

「父さん、帰って来たよ」

「チート」

 父は、ぼくとの再会を喜んでくれた。その当たり前の感情が嬉しくて、ぼくは胸が熱くなった。これが、人の心というものだろうか。

 そして、ぼくは語り始めた。

 背中の大袋の口を開いて、中身を父に見せ、大威張りでいった。

「ぼくは大富豪になったんだよ、父さん。ぼくは、やったよ。ぼくら一家がもう、お金に困ることはないんだ」

 それを聞いて、父は横を向き、悲しそうな顔をした。それがぼくには意外で、納得できないものだった。

「どうして、喜んでくれないんだ、父さん。ぼくがお金を稼いで来たんだよ。もう、一家破産じゃないんだよ」

 声を高くして叫ぶぼくに向かって、父は重い口を開いた。

「チート、父さんはなあ、いくらお金があっても、母さんの病いが治らないんだと思うと悲しさは消えないんだよ。すまないなあ、チート」

 ぼくは、母を思う父の思いと、ソニアを心配する自分の思いが重なり、その気持ちが痛いほどよくわかったため、それ以上、陽気にふるまうのをやめた。

 ぼくが悪かった。お金が手に入ったからって、喜んでもらえると思っていたぼくが悪かったのだ。人の心は、お金では買えないのだ。


「母さんと話をしてやってくれ、チート」

 ぼくは父にいわれて、寝ている母のもとにいった。

「チート、チートかい。チートが戻ってきたのかい」

「そうだよ、母さん。ぼくらがこの先、暮らしていける目途は立ったよ、母さん。何も心配いらないよ」

「それはよかったねえ、チート」

 母は安心したように、手をお腹の上で組んだ。

「チート、また旅に出かけるんだろう」

 母が悲しそうにいった。なぜだ。なぜ、大富豪になったぼくに悲しそうに話しかけるんだ。

「そうだよ、母さん。どうしても、行かなければならないんだ」

「よく聞きなさい、チート。母さんは、もうすぐお迎えが来るだろう。こうして、話ができるのも最後かもしれない」

 ぼくは目頭が熱くなった。

「チート、自分の信じた道を行きなさい。あなたがどんなまちがいを犯そうと、あなたがどんなに落ちぶれようと、母さんはあなたの味方だからね。何の力にもなれないけど、母さんの心がチートを裏切ることは決してないからね」

「ありがとう、お母さん」

 ぼくは、涙をこらえて、テントを出た。

「それじゃあ、行くよ、父さん、母さん」

 重荷になった父と母にこれ以上、関わりたくないから、二度と戻って来ないであろう旅に、ぼくはでかけるよ。

「ああ、元気でな、チート。父さんたちの心配はいらないから」

 宝石を十個、渡して、ぼくは父と母を置いて去った。

 ぼくは、お金を手に入れて、家族を失うのだろうか。いや、ソニアの元に戻るためだよ。そう、自分をなぐさめた。

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