第14話 原初の神の登場

 洞窟の中を一頭の黒竜が迫ってくる。黒竜には、頭には大きな黒い角、背中には大きな黒い翼、口には鋭い牙、手には鋭く大きな爪があった。どしん、どしん、と音を立てて歩いてくる。

「ちょっと、チート、この奥は行き止まりよ。逃げ道はないわ」

 ソニアが叫んだ。小刻みに震えている。

 黒竜に向かって、ぼくは剣を抜いた。ソニアを後ろにかばい、剣をかまえる。この巨大な竜を相手に、いったい、勝ち目があるのだろうか。

「我が寝ぐらに何の用だ、人類よ。我が財宝を手に入れるために、この我と力と技を競おうというのか、か弱き人類よ」

 黒竜は人語を解した。かなり、知能の高い相手のようだ。

「これは失礼した、黒竜よ。あなたの寝ぐらだと知っていれば、邪魔せずに立ち去ったものを。ぼくらは、事情もわからないうちにあなたの寝ぐらを訪れてしまったようだ」

 ぼくは、高さ十メートルぐらいある黒竜に臆することなく話しかける。

 黒竜は、ぼくらを逃がしてくれるだろうか。

 ソニアが固唾をのんで見守っている。

「人類よ、我が寝ぐらを訪れた人類は、お主が初めてではない。この数千年の間に、幾人もの旅人が我が寝ぐらを訪れ、我と技比べをしたものだ。お主も、もう、逃げることはできぬぞ。我が寝ぐらを訪れてその宝物に手をかけたからには、この我と命のやりとりをすることを拒むことはできぬ。お主は、我が十七人目の生贄となるのだ。さあ、技比べといこうではないか、人類よ」

 黒竜は、ぼおおっと炎を吐いた。気力十分のようだ。

 ぼくは、見逃してもらうことができないとわかって、焦り始めた。黒竜と戦って、勝ち目はない。

「見逃してはくれないのか、黒竜よ」

 ぼくが往生際が悪く懇願すると、黒竜はあからさまに戦意を示した。

「人類よ、お主たちが我が宝物を欲しがるのと同じように、我も汝の宝剣が欲しいのだ。我は汝を殺して、その剣を奪おうと企んでいるのだよ。わかるかな、か弱きものよ」

 黒竜が人語で語る。

 聖剣が目当てだというのか。

 ぼくは、例え、命が惜しくても、この聖剣を手放すわけにはいかない。

「戦うしかなさそうだよ、ソニア」

 ぼくが投げやりに声をかける。

「無理よ。死ぬわ、わたしたち」

「できる限りの悪あがきをしよう」

 ぼくは、聖剣を手に、黒竜に向かって突っ込んだ。

 ぼくは聖剣で、黒竜の足に斬りつける。ざくっと、黒竜の黒い血が流れる。

「いい剣だな。人類よ」

 黒竜はそういうと、ぼくを腕で払い飛ばした。

 ぼくは洞窟の奥の壁まで吹っ飛び、叩きつけられて、一瞬、気を失いかけた。気をしっかりもたないと、すぐにやられてしまいそうだ。

「悪霊の雑菌にとりつかれなさい」

 ソニアが魔法で作り出した邪悪な雑菌が黒竜に向かって飛んだ。それは、命中したが、黒竜はまるで意に介さないようだった。効いていないのか。

 黒竜が顔を前に突き出して、来た。

「まずい。炎を吹かれたら、死ぬぞ」

 ぼくは慌てて、黒竜に向かって再び突撃し、低くもたげられた頭部に斬りつけた。黒竜の口の右側が斬れて、また、黒い血が流れた。

「ぎゃおお」

 黒竜が痛みで、顔をのけぞらせたと思ったら、ぼくは、再び黒竜に爪で吹っ飛ばされた。また、壁の奥に叩きつけられる。痛い。

 ふらふらと立ち上がったぼくは、ソニアから三メートルぐらい離れた場所にいた。

 黒竜が炎を吐きかけてきた。

 黒竜の吐く炎に包まれて、ぼくとソニアは燃えた。呼吸ができない。今、息を吸ったら、熱が肺に入って死んでしまう。

 なんとか、炎に耐えたぼくは、ソニアを見た。地面に倒れていた。

「大丈夫か、ソニア」

 ぼくは、昨日会ったばかりのこの少女に完全に心を奪われていた。ソニアのためなら、命をかけることもできる。ソニアを死なせはしない。

「うう、大丈夫よ、チート」

 ソニアが目をつむったまま答えた。

「黒竜!」

 半ば、やけっぱちな怒りにまかせて、再び、黒竜に突撃する。ぼくの聖剣は、黒竜の堅いはずの鱗に刺さる。黒竜の急所を当てることができたら、ひょっとしたら、勝てるかもしれない。

 ぼくは、黒竜の膝に飛び乗って、黒竜の腹を目指した。黒竜が足を動かす。退く。足場を失ったぼくは宙に浮く。

 ばたんっ、と黒竜の腕に地面に叩きつけられた。

 くそう、勝てない。

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