第11話 次は破壊神の登場だあ

 ぼくは、聖剣サンジュバをすらりと抜いた。きれいに、文字通りすらりという音を立てて、剣は抜けた。

「わははは、わしに勝てると思っているのか、若造」

 悪魔が真正面から突っ込んでくる。

 ぼくは、頭を働かせる。この悪魔は絶対に、真正面から素直に突撃してきたりはしない。絶対に、直前で方向を変えるはず。

 ぼくは、無闇に剣を突き出さず、ぐっと構える。

 悪魔は、予想通り、目の前でひらりと宙に跳ね、ぼくの左の腹を殴ろうとしてくる。

 悪魔は素早い。

 ぼくは待ちかまえていた通り、悪魔の腕に目がけて剣を振り下ろす。

 ざくっ。

 それは、恐ろしく切れ味が鋭かった。聖剣は、まるで空気を斬るように軽く、悪魔の腕に突き刺さった。

「ぐぬぬ」

 悪魔の右手が落ちる。

 ぼくの慎重な策が成功し、悪魔の右手を斬り落とした。

「逃げないのだな、お主」

 悪魔が笑う。

「夜の町に住みつき、人を襲う悪魔を見逃して逃げるわけにはいかない」

「はははははっ、わしがその気になったら、お主など、ひと呑みにしてしまうのにか」

 悪魔は笑う。

 ソニアも笑う。

「あははは、おかしな男の子。自分の身の程も知らずに」

 ひらひらとソニアが舞う。

 負けるわけにはいかない。

 悪魔に対して、じりじりと足を近づけるぼく。

「そりゃ」

 悪魔が左手で殴ろうとしてくる。ぼくは、左手に聖剣を向ける。しかし、跳ねるように飛んだ悪魔が、逆方向から蹴ってきた。

 べきっ。ぼくは塔の屋上の上で吹っ飛んだ。床に落ちて転がる。

 踏みとどまるんだ。

 ぼくは手と足に力を入れる。屋上から落ちたら、死んでしまう。

 痛い。肋骨が二、三本、折れた感じだ。ずきずき痛む。

 だが、痛みを気にしていては死んでしまう。悪魔に注意を向けるんだ。

 ぼくは悪魔を見る。悪魔は、翼で軽く浮き、低空飛行で突っ込んできた。

 腕が重い。

 しかし、腕を動かさなければ。

 悪魔の動きに遅れをとれば、殺される。死んだら、死んだら。

 ぼくが死んだら、どうなるんだ?

 何も困らないじゃないか。

「わはははっ」

 悪魔の蹴りを両腕で受け止める。剣はかわされた。

 腕が痛い。

「そりゃあ」

 ぼくは叫んで宙に浮く悪魔に剣を突き立てる。

 悪魔は軽く浮いてかわす。

「わしの左手を斬り落としたことは褒めてやろう。お主はたいした人間だ。しかし、わしに本気で勝てると思っているのか? 怖くないのか?」

 悪魔に話しかけられて、ぼくは急に怖くなった。なぜ、ぼくは戦っている。

 逃げなきゃ。

 ダメだ。逃げちゃダメだ。

「この聖剣をくれた恩人のため。魂の救済者のため。ぼくはきみを倒す」

「ほほう、命をかける偶像をもっていたか。ただの凡暗ではないわ、このガキ」

 悪魔がぼくを褒める。

「ええ、この男の子、見込みあるの?」

 ソニアが満面の笑みを浮かべる。

「ある。聖なるものにも、邪なるものにも、好かれるであろう」

 ぼくは、地面に降りた悪魔にじりじりと間合いをとって、詰め寄る。

「ソニア、きみはこの悪魔の何だ?」

 ぼくは悪魔をにらみながら叫んだ。

「わたしは、魔女よ。この悪魔の祭壇で、生贄を待っているの」

「この悪魔を殺したら、ぼくの召使になるか、ソニア」

「あなたが勝ったら、あなたのものになってもいいわ。この悪魔が死んだら、わたしは行くところがないもの」

 ぼくは、悪魔に目がけて突っ込んだ。

 悪魔がソニアをつかんで、ぼくに向かって放り投げる。

 ソニアがぼくにぶつかる。ぼくは後ろに吹っ飛ぶ。

 悪魔がぼくの喉笛に噛みつこうとする。

 ぎりぎりで、ぼくは聖剣を悪魔の口に突き立てる。

 悪魔の口が裂けた。

 ぼくは、全力で、剣を前に突き出す。

 悪魔の頭を聖剣が突き抜ける。

「ああ、悪魔が本当に負けた」

 ソニアが目を点にして驚く。

「なぜ」

 ソニアの問いかけに、悪魔の霊が答えた。

「この男は、ソニア、汝を決して斬ろうとはしなかったのだ。それだけだ。それをわしは読みまちがえた」

 悪魔は、灰になって消えた。

 後には、聖剣を握りしめたぼくだけが残った。

 動けない。全身が痛くて動けない。

「あなたの勝ちよ」

 ソニアが顔を赤くして立っている。

 ぼくは、

「少し待っていてくれ」

 とうめいて、うずくまりつづけた。

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