第2話 ギルドに登録しよう

 ぼくは行商人の手伝いをしてひらすら働いた。学校というものに通っていないため、知識は父と母が教えてくれるいかがわしいものばかりだ。

 仕事柄、算数と読み書きはできるが、それ以外はさっぱりである。

 我が家の大切な財産である一頭のロバに積荷を背負わせ、オーストリリアからフラランスに向けてひたすら歩く。積荷である時計や靴が荷崩れする時は、家族で総がかりで荷の整理をする。

 運が悪ければ、全部の荷をバラして、一から積みなおさなければならない。

「我が家の蓄財は、残りわずかしかない。これで、荷が売れなければ、一家のたれ死にもありえる」

 と、父はいう。

 ぼくらは、長い道のりをひたすら歩いた。歩いて歩いて、歩き倒した。父の足が、歳をとっているため、脱臼している。脱臼したままの父を連れて、ぼくらは長く険しい道を歩きつづけた。道は整備されておらず、ところどころ、ロバが通れないため、長い迂回をしなければならないこともあった。

 旅先で日が暮れれば、松明を灯し、毎日、行商に励む。遊んでいる時間はいっさいない。

「本場、皇帝の城下町の職人の品だよ。今なら、三割引き。買うなら今のうち。さあ、時計と靴の大売り出しだよ。いらっしゃい。いらっしゃい。本場、宮廷職人の作った時計と靴だよ。買うなら早いもの勝ち。今なら三割引き」

 腹から声を出して、ぼくは呼び込みをする。

 通りすがる人々は、時計や靴を珍しそうに手にとってみるけど、買ってくれることはめったにない。

 本当は三割引きなんてしてないし、今日限りの大安売りというわけでもない。


「今日は、靴が一個売れただけだな」

 父がいう。

「このままでは、一家はのたれ死ぬかもしれないね。チート、もしかしたら、おまえを丁稚に出すかもしれない」

 丁稚になったら、師匠や兄弟子の命令を絶対に聞かなければならず、今より苦しくつらい毎日をすごすことになるだろう。ご飯だって、満足にもらえるかわからない。すべては師匠の命令通りに暮らすことになる。

 ぼくは十四歳になるけれど、見かけるのは疲れた労働者ばかり。

「父さん、ぼくは、丁稚には行かないよ。猟師になろうと思うんだ」

「猟に使う銃や猟犬はどうやって買うつもりだ。くだらない夢を見ているんじゃない」

 父さんは厳しくぼくを叱った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る