誰も悪くない世界

垂季時尾

誰も悪くない世界

 セミがハラワタを半分くらい失って、カラカラになった状態で道に転がっていた。おおかた仕事が片付いた蟻の一団は、太陽に晒された灼熱のコンクリート道路で仕事を続行するのは危険だと判断したのだろう、蝉を完全に解体することなくその場から去った。

 中途半端に捕食された蝉の骸が、陽炎で揺れていた。

 虫の判断は正しい。誤ると即、死へと繋がるからだ。その点、人間は安全な暮らしに慣れてしまったせいで、生への執着も死の実感も、日常では忘れてしまっている。

 

 幸いと言っていいのか分からないが、この団地に棲む住人たちにとって死は決して遠い存在ではない。


 目に見えない壁があって、それはとても薄く人の目には見えない。生と死の壁と死神は呼ぶ。


 死神にはノルマがあり、虫や小動物の微量な魂よりも、もちろん人の魂が一番営業成績に影響する。


 この団地は死神にとっては恰好の漁場であった。

 そのかわり、このエリアを管轄する死神たちがこぞってその団地一帯に集まるものだから、空気はいつも暗く淀んでいた。

 終日関係なくカラスが鳴いている。


 霊感の無い人間でも、このあたりに来るとなにか不穏な気配を察し、自然と足が遠くのだ。


 ただし、死神は妖怪や悪魔ではない。

 命を落とす人間の魂をすくいとるのが仕事であって、死の原因は死人本人に由来する。


 死神はただ見ているだけ。人への干渉もぜったいに許されない。


 今日も、B‐4棟の一室で八十二歳の老婆が孤独死した。介護ヘルパーを嫌い、身寄りもなかったので、異臭を隣人が感じるまで五日間、浴槽に浸かったままだった。

 湯船は真っ黒に変色し、老婆は倍ほどの大きさに膨張し、事件性もなかったので専門業者がやって来て、処理に丸一日かかった。

 浴槽はもう使用できないのでリフォームに莫大な金がかかると、管理人が嘆いていたが、老婆の死を悼む言葉はなかった。

 いつかこうなるだろうと、住人の誰もが思っていたからだ。

隣りに住む、半年前に引っ越してきたばかりの女性は流石に耐えられなかったのかすぐに出ていってしまった。


 老婆は死に方こそ悲惨ではあったが、寿命を全うしたわけで、不幸と呼べるほどではなかった。


 死神も滞りなく老婆の魂を天界に持ち帰った。


 普段は静かな団地が、その日は朝から野次馬が集まり騒がしかった。

 中学生の男の子が早朝屋上から飛び降りて死んだのだ。

 屋上のフェンスに遺書が置かれてあった。


「貧乏だと言われ、クラスメイトからいじめられてれた。ずっと我慢していたけどもう限界です。お父さんごめんなさい。お父さんは悪くない。お父さんは一日中、工場で油にまみれ頑張っていた。ここから抜け出せないのはお父さんのせいじゃない。ぜんぶこの国が悪い。そしていじめていたやつらは地獄に堕ちてほしい。おまえたちだって、いつボクのような生活になるかわからないんだ。この団地に住めばボクの気持ちもわかるはずだ。死の壁はいつだって近くにあるんだ」


 遺書にしては奇妙な文面だったが、いじめが原因であることはまわりに伝わった。

 自殺した子は、五歳の時、母親が突然家を出てからずっと父親に育てられていた。父親は中学しか出ていなかったので、団地の近くの廃品を解体する工場で中卒後ずっと務めていた。

 母親は行きつけのスナックのホステスだった。


 一時は工場も景気がよく、母親の収入もあったため、暮らしに困るほどではなかったが、自殺した少年が小学校高学年になるころには工場の業績も悪くなり、被害者の父親の収入だけでは食べていけなくなり、三十年ローンで建てた家を半分の値で売って、親子はこの団地に越してきた。


 過労がたたって、父親もフルタイムでは働けない身体になった。

 やっと障害者手帳をもらい、生活保護申請が通った矢先の出来事だった。必死に働いた結果がこれだ。

 父親はもうどうなってもいいやと、全身にガソリンを被って、遺書に記された加害者の生徒の家に走ったが、家に突入する寸前で警戒していた警察官に取り押さえられ、その際にガソリンに火が引火して火ダルマになって死んだ。


 残念ながら、父親が死んだ場所は団地から離れた場所にあったので、管轄外であった死神は父親の魂を取り逃がしたと悔しがった。それでも、若い魂は貴重だ。死因が自殺なので、自然死よりは価値が下がるが、老婆の魂にくらべたら雲泥の差だった。その月のノルマは少年一人の魂で達成することができた。


 死神は団地の屋上から向かいの棟の部屋を見ていた。


 キャミソール一枚の女が、腕に蜘蛛の刺青を入れている坊主の男にボコボコに殴られていた。目はもう青く腫れていて、前歯が数本折れていた。

 涙のあとはあったが、抵抗する力はすでにない様子だった。

 刺青の男は女の首を絞めようと細い首に手を掛けたところで、大きく溜め息を吐いて女から手を離し、台所の方へと消えた。


 女は無言で横たわっていた。目は開いたままだった。


「またやってもうたな。わしはほんまにアカンわ」


 男は台所で誰かに電話をしているようだった。

 しばらくして、玄関のチャイムの音がした。


「兄さん、来ましたわ」


 扉の向こうで声がして、刺青の男はやってきた二人の若い男を部屋に入れた。


「またですか? ほんまかんべんしてくださいよ」


「誰に口きいとんじゃ、あん?」


「あっ、すんません…」


 刺青の男は、若い二人に小声でいろいろと指示を出し、若い男たちは、居間で横たわる半裸の女を用意した大きめの旅行用トランクに無理矢理押し込んで、再び部屋から出ていった。


 刺青の男はベランダでタバコに火をつけた。


 向かいの団地の屋上から一部始終を見ていた死神は、男と一瞬目が合って、見つかったと焦ったが、男にはなにも見えていなかった。ただ「こんな都会でもたまには星が見えるもんなんやなぁ」と男は夜空に微かに星の光を発見し、ふと思っただけだった。


 死神は、女がどこかへ運ばれてしまう前にちゃんと魂を回収した。


 そのわずか一週間後、刺青の男も、団地の中庭にある錆びたキリンの滑り台の近くで、敵対している組の者に包丁で刺されて死んだ。


 まさか殺された女の怨念のせいかな? と死神は人間が少しだけ怖くなった。

でも一週間に二人分の魂が回収できてラッキーだったと、死神は普段はめったに会話しない団地に棲みついている黒猫にその事を嬉しそうに話した。

黒猫は興味なさそうにすぐどこかに行ってしまった。


誰がなんのためにそんな場所に作ったのか、団地のすぐ横には都会には珍しく火葬場が建っていた。

火葬場の煙突からは今日も灰色の煙が上がっていた。

 燃やされた死体にはもう魂はない。ただの入れ物を燃やしているにすぎない。なので死神にとっては煙突の煙などなんの興味もなかった。

 だが、その日は違った。


 煙が紫色をしていた。この紫色の煙は人間には見えない。死神だけが見える特別な煙だった。


 しまった!

 こりゃ大失敗だ。


 団地の周りを徘徊していた他の死神も、紫の煙にすぐに気づいた。何人かの死神たちが一斉に火葬場の上空に集まって来た。


 ダメだ。もう散りじりになってしまっている。

 

 誰だ! こんなミスを犯したのは?


 こいつは懲罰案件になるぞ!


 いつもは感情などほとんど表に出さず淡々と仕事をこなす死神たちであったが、その時ばかりは違った。


 なんとかして回収できないか?


 元々まだ完成されていない魂だから難しいぞ。


 もし断片でも回収できたらノルマ二ヶ月分になるぞ。


 あっ、クソ、ダメだ。空気に溶けてしまう。風になるともう無理だ。


 焦る死神たちは消えゆく紫の煙をなんとかして集めようとしたが、一陣の突風が吹き、ついに空中に消えて無くなってしまった。


 死神たちは諦めきれない様子であったが、もうどうにもならないことも理解していた。

 無言のまま、またそれぞれの持ち場に帰って行った。


 火葬場で燃やされていたのは、若くして病気で死亡した女の遺体だった。女のお腹には新しい命が宿っていた。

 死亡した女も、自分の身体に新しい命が生まれていることをまだ知っていなかった。

 ちゃんとした病院に入院していたならこんな事案は起こるわけがなかった。ここはそういう場所なのだ。

 だからこそ、死神たちは死の臭いを逃さないようにいつも真剣に団地一帯を監視していた。


 今回の出来事は死神にとっては痛恨のミスだった。翌日から、火葬場の見張りが増員されたことは言うまでもない。


 その年の夏の終わり、戦後最大級だという台風が接近していた。団地のある街にも、直撃コースだった。団地の近くには大きな河が流れていて、もし氾濫すれば団地も床上浸水どころでは済まない。


 すでにドブネズミや虫たちの魂は、夜半からの大雨で大量に天に召されていった。通常なら、そのまま浮遊霊にしてしまう小動物の魂であったが、今月のノルマ達成が難しいとあって、たとえ瑣末であっても少しでも足しになればと、死神たちは情けない気持ちで、どしゃ降りの雨の中で溺れ死んだドブネズミの魂をかき集めていた。


 そんな時だった。


 消えそうな命を一人の死神が感じとった。

 消えゆく命はひとつじゃなかった。


「河が決壊したぞ!」


 団地の住人のだれかがベランダから外に身を乗り出して叫んだ。

 団地のすぐ上にある土手がついに決壊したのだった。


 河の濁流が一気に団地のある方へと流れ込んで来た。そこにいたほとんどの住人は急いで団地の階段を駆け上がったが、逃げ遅れた老人と子どもが何人か濁った水の渦に腰まで浸かり、そのまま流されていった。


 死神はただその行く末を傍観しているしかない。

 生き残るのも死ぬのもすべては運命だった。


 大勢の人たちが協力し救助活動をしたおかげで、召された魂は死神が期待していたよりもずっと少なかった。


 それでもその日、ノルマを達成するのに充分すぎる魂が回収された。ほとんどが、やはり老人と子どもだった。


 団地がここに建ってから三十年以上経過していたが、団地の歴史の中で一番大きな災害だった。


 雨は一日で止み、決壊した土手もすぐに復旧し、一週間もすると団地はいつもと変わらない日常に戻った。


 死神達だけは、止められない死の臭いを敏感に感じ取っていた。洪水よりもさらに大きな事件が起き、一日で十年分ほどになるかという魂がもうすぐ天に召されることになる。


 団地に差し込む西日が、棟を歪んだような形に見せていた。


 母親が出て行ったまま帰って来ない部屋の女の子が、ガリガリになった身体で団地の屋上から下界を見ていた。

 髪はバサバサで服も汚れ、目はすっかりおちくぼんでいたが、長いまつ毛が女の子の可愛らしさをかろうじて残してくれていた。


「お母ちゃんな。もう帰ってこおへんねんて。吉田のオッちゃんが言ってんの聞いてもうたんや。あっ、吉田のオッちゃん言うんはな、わたしがユイちゃんと行ってた駄菓子屋のオッちゃんやねん。オッちゃんホンマは駄菓子屋の上の家に住んでたんやけど、雨漏りが酷いからって、この団地に今は住んでるんやて。駄菓子屋ももう閉めてもうた。わたし、アメちゃんのアタリまだ持ったままやったから、駄菓子屋無くなる前に使っとけばよかったわ。それだけが後悔やわ」


 女の子は見えないはずの死神に向かって、どうでも良い話をずっと続けていた。


 死神は迷惑そうに女の子の話を黙って聞いていた。母親に捨てられた女の子は、ついさっき死んだばかりで、まだ魂と身体が完全に解離していなかった。


 死神は人間の身体には触れてはいけない決まりがあったので、黙って女の子が魂になるのを待つしかなかった。

 それよりも、その日の夕方はもっと特別な出来事が起こるから、哀れな女の子に同情している暇はなかった。

 まぁどっちにしても人の死に同情などしないのが死神なのだが。


 団地周辺の死の臭いは色濃くなっていった。

 臭いを感じとったカラスやネズミや虫たちはすでにその場から逃げていた。


「だれも気づかへんの? あそこ掘ったらあかんやん。みんな死んでまうよ。このあいだの洪水の時よりもっと死んでまうよ」


 女の子はすでに半分人間ではなくなっていたので、これから起きることを知っていた。


 死神は黙ったままだった。これも決まりなのだ。


 ただ時が来るのをじっと見ているだけだった。



「おーい、もう五時すぎてるから早く終わらせてくれ」


 下水工事現場の責任者が叫んだ。


 先日の洪水で壊れた下水の配管工事が進められていた。

ショベルカーが土を掘り起こして、団地と団地の間の敷地に大きな穴が開けられていた。


「配管を傷つけんように注意してやりや! そこ掘ったら配管が見えてくるはずやから、今日はそこまで掘ったら終いにしよかー」


 現場監督がそう言った瞬間だった。


 ショベルの鉄の爪が、なにかの金属に触った。


 地面が光った。すさまじい衝撃波が両端の団地の棟にぶつかって、古いコンクリで出来ている棟の壁は簡単に崩れ堕ちた。


 連鎖的に、地中にはしるガス管に火が引火していった。

 破壊される建物の轟音で、人間の悲鳴はかき消されてしまったが、死神たちは消え去る命の数を冷静に数えていた。


 あらかじめ決められた運命とはいえ、この光景は、人の死をいつも冷静に見ていた死神たちにとっても興奮を覚えずにはいられないくらい、世界の終焉に似た甘美な美しさを夕日に映していた。


 次々に倒れていく団地。逃げ回る人々。崩れた団地の階段で、ベビーカーごと抱きかかえながら転げ落ちていく若いお母さん。

 炎に包まれた人の影が、踊りながら伸びていく。


 煙と粉塵がまざった灰色の風が、その場を真っ白な世界に変えた。

 なんとか死を免れた住人も灰で真っ白になって、男か女かの区別もつかず、よろよろと、もしくは呆然と、破壊された世界を瞳に刻んでいる。

 誰もがなにが起きたのか分かってはいなかった。

 突然に爆発が起き、団地のすべてがたった数秒のうちに吹き飛んでしまったのだからしょうがない。


 事実を知っているのは、死神と餓死した少女だけだった。


「だからあそこ掘ったらあかん言うたやん。わたしの声聞こえへんかったのかなぁ? みんな無くなってもうた。なぁ、吉田のオッちゃんも死んでもうたんかなぁ?」


 隣りにいた死神は、その光景に興奮していたせいでつい決まりを忘れて女の子の言葉に答えてしまった。


ほら、あの光。あれがオジサンの魂だよ。


 収まりつつある粉塵の中にいくつもの魂が空に上がっていくのが見えた。


「あんなにあったら、どれがオッちゃんかわからへんやん」


 大丈夫、すぐにおじさんに逢えるよ。当たったアメちゃんの袋まだ持ってるかい?


「もちろん大事にポケットに入れとる」


 じゃあオジサンにアメちゃんに換えてもらったらいいよ。


「せやけど、もう駄菓子屋も無くなったんやで」


 オジサンに君の記憶が残っているならアメちゃんは貰えるよ。でも魂が回収されたらもうダメだ。早く行っておいで。


「分かった! お兄さんありがとな。オッちゃんとこに行ってくるわ。じゃあバイバイ」


 女の子も光になって飛んで行ってしまった。


 女の子の横にいた死神は自分の大事な仕事も忘れ、しばらく壊れた夕暮れを眺めていた。

 同僚がちゃんとやってくれるだろう。そう思いながら、辺りが暗くなるまで眺めていた。


 たくさんのサイレンの音がずっと辺りに響いていた。


 ショベルカーが鉄の爪で引っ掻いてしまったのは、大戦中にアメリカ軍が落とした1トン爆弾だった。不発弾が、洪水のせいで地下から地表に浮き出してきたのだ。

 運悪く…いやこれもあらかじめ決められていた運命ではあったが、この団地には古いガス管が張り巡らされていた。

最初の爆発のあと、火がガス管に次々と引火していき、団地群は灰塵と化した。多くの魂を巻き込んで。


歴史が終わるのはいつも突然だと、死神は哲学的な想いに耽っていた。


浴槽でドロドロになって孤独死していた老婆も。

いじめを苦に飛びおりて脳ミソを跳び散らして死んだ中学生も。

復讐を遂げられず火ダルマになって死んだ父親も。

ヤクザに乱暴されて死んだ女も。

報復で全身めった刺しにされて死んだヤクザも。

病院にも行けず、子どもを腹に宿したまま死んだお母さんも。

おなかの中で一緒に燃やされて紫の煙になって死んだ赤ちゃんも。

洪水で流されて溺れ死んだ子どもと老人たちも。

母親に捨てられて、ガリガリになって死んだ女の子も。

不発弾で、突然吹き飛ばされて死んだ団地のたくさんの住人たちも。


人の死は平等だ。不公平に見えるのは、生き残った人間からの視点でしかない。


だれも悪くない。この団地は最初からこうやって終わることが決められていた。


破壊された団地の跡にやがて小さな慰霊塔が建てられた。

毎年、慰霊祭が行われるようになった。


なんの慰めにもならないのに、人間はなぜ慰霊碑などを建てるのだろう。死神は不思議に思った。


だけど、毎年慰霊祭の夜に必ず姿を現す少女の念を死神はちゃんと感じていた。感情などないはずの死神も、少女の念を感じる時、僅かな幸福感に包まれるのだった。


だれも悪くなく、今日も人間は当たり前に死んでいって、死神たちは魂を回収していく。団地が無くなってからノルマが少しだけきつくなっただけだ。


 慰霊祭の夜、死神たちは一年ぶりに集まって話しあう。

 

 生まれたら、あとは死ぬだけなんて人間は生きていてなにが楽しいのかな?


 死ぬのが楽しくて生きてる人間なんていないさ。死を忘れられる時に楽しいだけさ。


 なんにも楽しくないのは死神の私たちの方かも知れないな。


 それは考えちゃいけないことだよ。


 そうだね。私たちは自分の課された仕事をするだけだ。


 ああ、今夜も消えそうな命の臭いがするね。


 こんなことを言ってはみんなから怒られそうだけど、今夜だけはちゃんと命を全うした魂が召されるといいな。

 やっぱり人の死にはちゃんと順番が必要な気がする。


 ノルマの話、一度上にかけあってみるか。


 それはやめておこう。感傷にひたるのは今夜だけにしておこう。


 うん。わかったよ。


 さて、新しく召される魂はどうやら年老いた黒猫らしい。


 黒猫?あのずっとこの団地に棲みついていた野良か?猫一匹くらい回収してもしょうがないだろ?


 いや、あの子はここに棲む人間の死を見過ぎた。浮遊霊になってまでもう人の死を見ることはないよ。天に召してやろう。


 ホント、やけに今夜は感傷的だね。


 死神にだってそんな夜はあるさ。


 死神の頭上に一筋の流れ星がはしったが、誰も気づかないまま星屑は明るい都会の夜空に散って、黒猫と女の子の姿が重なって消えた。

                  

                         おわり

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