宇宙人に拉致改造されて異世界へ
広畝 K
第1話 プロローグ
手術台の上に全裸の女性が横たわっている。
その外見は無残の一言で、人間としての形が整っていない。
手足の一部は損壊していて、その上ところどころが腐っている。
右肩から腰に掛けて、皮膚と肉が完全に捲れあがってしまっており、内臓がほぼ露出している。
露出している内臓器官はほとんど全て潰れて機能は停止しているが、未だに生命活動が行われているのは奇跡と言っても過言ではないだろう。
次の瞬間には心拍が停止して、いつ脳の活動が止まってもおかしくない状態であることに相違ない。
そんな重体であるにもかかわらず女性が生きているのは、その身体に繋がれた数百機もの人工臓器の働きによる。
その人工臓器の数々が、既に活動不能な体組織の代替機関として絶え間なく働き続けており、女性の生命活動を維持していた。
もしそれらの働きが無ければ、女性はとうの昔に死の世界に旅立っていただろう。
そんな女性の身体を、八体の人影が取り囲んでいた。
いずれの人影も頭に白い帽子を被り、口と鼻を覆う白いマスクをつけ、よれよれの白衣を着ている。
共通する外見はそれくらいのものであり、背丈や体格、年齢などは見事にバラバラでチグハグである。
彼ら彼女らは女性の身体を隅から隅まで観察しながら、手にしているプレートに色々と書き込んでいく。
そのうち、女性の観察をしていた長身の男が、目を細めて呟いた。
「久方ぶりの実験体だな」
プレートに何やら書き込みながら、彼の仲間と思わしき人影たちも口々に呟き始める。
「本当に。知的生命体をいじくるのはどれくらいぶりになるかねぇ?」
「そんな昔のことは忘れたわよ」
「それで、上は何と言ってきてるんじゃ?」
「知的生命体の身柄を『合法的』に確保したため、局員として働けるように治療して欲しいとのことです」
分厚いメガネを掛けた女性が、手元のプレートを見ながら説明する。
そのプレートには女性の個人情報がびっしりと書かれていて、上司からの通達が端の方に簡潔に書かれていた。
「局員として、ねぇ……元の惑星に帰す必要はないってこと?」
「ええ。彼女が消えても心配するような仲間はいないみたいですから」
「へえ、それは世知辛いこって」
「まあ、一見しただけで脆そうって分かるしねぇ」
「それは関係ないでしょ」
「でも、局で働かせるんだろ? ぶっちゃけこいつの身体じゃ無理じゃないか?」
「だから私たちがここにいるの」
「生身じゃキツイのは間違いないからねぇ」
「アンドロイドにするか、或いはサイボーグにするかってとこですね」
「そのどっちかなら、俺はサイボーグを推す……ちぃとばかし古風だが、折角の実験体だしな。それに、なかなか面白い趣向だと思わないか?」
「まあ、アンドロイドにするには部品も予算も足りないしねぇ」
「選択肢は無いのう」
「他の注意事項は?」
「特には無いですね」
「まだ生きていることだし、安全性を確保しつつ行なうのか?」
「いや、安全性及び安定性は無視して良いとのことです。生きていても死んでいても、どうせ同じ結果になりますし」
「ならば、今まで試作してきた作品のテストも兼ねて色々ぶっこむべきじゃろう」
「それもそうだが、乱雑に組み込んでも面白くないだろう? ある程度の方針を決めるべきではないかね」
「方針? 近距離戦闘型にするとか?」
「近距離戦闘型のサイボーグなんて古臭くて誰も使わんじゃろ」
「なら遠距離特化にしてみるの?」
「戦闘から離れろよ。諜報・調査型なんてどうだ? こいつの故郷に伝わる……えーと、なんだっけ?」
「NINJAのこと?」
「そうそれ、NINJAのような型だ」
「なるほど……なかなか面白いが、それでも最低限の戦闘力は必要だろう」
「それはそうですね。ついでに探査・索敵型の能力も追加しましょうよ」
「つまり万能型、ということになるのかねぇ?」
「万能型は言いすぎじゃな。器用貧乏になるのがオチじゃろ」
「だが、それがいい」
「そうだね、否定はしないよ」
「では諸君、とりあえず器用貧乏を目指すという方針で良いかね?」
「「「「「「「異議なし」」」」」」」
長身の男が頷くと、その隣にいた少女が指を鳴らした。
と同時に、手術台の周りに八つの作業台がゆっくりとせりあがってくる。
八人はそれぞれの作業台からメスやら注射器やらハサミやらを取り出して、鼻歌を歌いながら女性の身体を切り裂き始めた。
「あらゆる環境下において適応できる肉体に強化するのは基本じゃろうな」
「破損した筋肉だけでなく、既存の筋肉は全て取り除いた方が良いか?」
「それがいいだろうね。強化筋繊維を移植しといてくれ」
「骨も脆くなってるから全部取り除いて、硬性金属素体に置き換えといて」
「髪はどうする?」
「生体金属の流用で良いっしょ」
「私は脳に生体チップを幾つか取り付けときますね」
「ああ、お蔵入りになってたやつだねぇ」
「チップの中身はどうなってる?」
「各種の強化データと補助プログラムです。それと人工知能のN-A-V-I型ですね」
「空き容量はどれくらい?」
「思いついたときにデータを新規追加できるよう、空き容量は多めに拡張しときました」
「そいつは重畳」
「眼球も両方傷ついとるぞ」
「取っ替えるよ。当たり前でしょ」
「血液が少ないから代替用のナノマシンを注入しておくか」
「動力炉はどうする?」
「確か、少し前に配備された準永久機関の概念歪曲型があったろ。それでもぶちこんどけ」
「いや、かなり前に切らしたよ」
「第3段階の試作機、多次元連結α型が埃かぶってるけど、どうします?」
「もしかして複層型なの? 五、六次元ほど制御すれば使えるの」
「じゃあ調整して入れといてください」
「それにしても感覚器官が貧弱すぎるね。あちこち擦り切れてるもん」
「外見は細身を意識してよ。太くなったら調整が面倒だからね」
「神経系統の大幅調整完了したよぅ」
「ベースを崩さないように注意しなさいよ」
「言われなくても分かってるの」
「髪の毛も色彩変えられる様にちょこっといじっておきましょうかね」
「皮膚も使いもんにならねぇから取り替えとけよ」
「ナノマシン入れたんでしょ? 放っておけば治癒すんでしょうよ」
「おい馬鹿! 誰だよ全身にエーテルコーティングなんて施した野郎は! 高いんだぞ!?」
「良いじゃないか、光学迷彩のためだ」
「カッコいいよね、光学迷彩」
「そうそう、男の浪漫と言うものじゃよ」
「男って馬鹿ねぇ」
「馬鹿とはなんだ!」
「おい馬鹿、とっとと仕事をしようぜ?」
「私が馬鹿ならあんたも馬鹿ね」
「みんな揃って馬鹿ばっかりなの」
――――――――
――――
――
かくして、死に瀕している女性はマッドでブラックでサイエンティストな八人によって、好き勝手に改造されたのであった。
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