第百六話 出来


 よく出来た人は、周囲から出来た人だと言われることがあっても、自らよく出来るとは言わない。

 

 人事のやつらは、出来上がったやつは使えないと言ったその口で、出来ないやつを容赦なく切り捨てる。


 わたしは出来が悪いからという言葉には謙遜と真実が混じっていて、二者は必ずしも分離できない。


 料理が何も出来ないくせに、出来合いのものには偉そうに文句を言う。


 他人の出来にこだわる人は、自分の出来には決してこだわらない。


 酔って出来上がるやつは、素面の時はまともに出来ないから二重にたちが悪い。


 出来栄えのいいものが、本当に出来がいいとは限らない。


 できもの、おできと、丁寧に言われるが、出来れば出来て欲しくないなあ。


 出来次第という言い方には、出来レースから門前払いまでいろんなニュアンスが含まれている。


 出来の悪い子供で申し訳ないと言いながら、教えるおまえらの出来が悪いからだと内心責任転嫁する出来の悪い親が多い。


 出来高払いは、結局不払いと同義になりやすい。


 上出来だと自慢するほど上にはなく、不出来だと嘆くほど不味くはない。


 ちっとも出来ていない時ほど、もう出来ていると言い訳をする。


◇ ◇ ◇


 出来という言葉は、意味があいまいな上に自身の都合のいいように使われ、自他の認識落差が激しい。出来れば使わない方がいい。


 あ。まあた使っちまったわ。俺も出来が悪いなあ。ははは。



【 了 】

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