第八十五話 鳴らないベル

ベルの形をしているものを見れば、私たちはそれが鳴ると思う。

 でも、それは音の出ないただの飾り物かもしれない。


矢印が何かを指し示していれば、私たちは先に何かあると思う。

 でも、それは何の意味もない悪戯描きかもしれない。


赤い光の点滅を見れば、私たちはそれが警告だと思う。

 でも、それはただの切れかけた蛍光灯かもしれない。


頭上に何か飛んでいれば、私たちはそれが上昇していると思う。

 でも、それは墜落してくる旅客機かもしれない。


動かずに屈んでいる人を見れば、私たちは具合が悪いのかなと思う。

 でも、それはただ靴紐を結び直しているだけかもしれない。


工事中という看板を見れば、私たちはその中に入れないと思う。

 でも、それはテロリストたちのカムフラージュかもしれない。


数量限定販売というポップを見れば、私たちは買いたくなると思う。

 でも、それはただの吊り文句かもしれない。


『猛猫注意』という表示を見れば、私たちはそれを笑うと思う。

 でも、それは本当に恐ろしい猫で笑えないかもしれない。


目の前で発車したバスを見れば、私たちは時刻表がおかしいと思う。

 でも、それはあなたの時計が狂っていたからかもしれない。


杖をついている人を見れば、私たちは盲人かお年寄りだと思う。

 でも、それは仕込み杖を武器にしている殺し屋かもしれない。


◇ ◇ ◇


 予測をすることで、自分に災難が降りかかるリスクを低減できる。しかし予測の全てが最悪の事態に結びつけられるわけではなく、自分にとって当然だと思われる方向に流れたり、自分にとって都合のよい願望が多く入り混じったりすることは珍しくない。それによって、全く予測をしなかった場合よりも悪い結果をもたらす恐れがあるのだ。

 ベルの形をしていても、それは鳴らないかもしれない。それならどうするか。



 単純予測の次を考えること。

 みなさんなら、鳴らないと分かった時点でどうしますか?

 何をどうしようと考えますか?



【 了 】

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