第七十五話 一
「一ってのはさ」
「うん」
「便利なんだよね」
「どして?」
「増えても、一ずつしか増えない」
「うん」
「減っても、一ずつしか減らない」
「へー」
「一を掛けても、一で割っても、変わらないでしょ」
「確かにねー。でもさ」
「うん?」
「僕らは一じゃないよ。棒人間は、転ばない限り、1さ。えへん」
「……」
◇ ◇ ◇
人間は、生物分類学的には群れを作るサルの一種ですね。群れを作ることで天敵の脅威を減じ、同時に確実な繁殖を行うことが出来ます。ですが科学技術というプロメテウスの火を得たホモ・サピエンスには、すでに脅威となる天敵がおりません。本来ならば、群れを解いて個人がばらばらに生活する生き方になってもいいはずです。でも、現実にはそうなっていません。
なんでかなーとつらつら考えてみると。天敵がいなくなったわけじゃないんだなと気付きます。そう我々自身が。同じ人間と言う種でありながら、互いを敵と見なして争う生き物であることに気付きます。
社会や国家というものを考える時。しばしば群れを維持するための掟の息苦しさを感じます。群れを支えるための善意の手が、その同じ手が、しばしば他の群れを襲う。そこに、人間というサルの限界があるのかなあと時折思うのです。
私は理想論のコミュニズムを信じません。
私は形骸化したナショナリズムを信じません。
私は一であり。それを足すことも、引くことも出来ない。
私は。一ですから。
【 了 】
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