第六十三話 平行線
「君と僕とは、絶対に交わることのない平行線だ」
「そうね。あなたは冬。わたしは春」
「そうだ」
「あなたは男で、わたしは女」
「ああ」
「あなたは固く、わたしは柔らかい」
「そうさ」
「あなたは冷たく、わたしは暖かい」
「だろう?」
「あなたは鈍重で、わたしは軽快」
「ああ」
「あなたは危険で、わたしは安全」
「そうだ」
「あなたは終わりで、わたしは始まり」
「ああ」
「あなたは死で、わたしは生」
「その通りだ」
「ねえ。それ、本気で言ってる? そう思ってるの?」
「……」
「わたしとあなたとの差は、あなたが思っているほど大きくはないのよ」
「そんなことはない!」
「いいえ、あなたがそうやって峻別しようとしているだけ。分けなければならないものほど、本当は分けられない。そうじゃない?」
「……」
「暖かい冬の日もあれば、寒い春の日もある。きんと澄んだ空気が清々しい冬の日と、淀んだ混沌がぬたぬたまとわりつく春の日のどちらがいいというわけでもないでしょ?」
「……」
「芽吹きは弱さ、脆さの象徴。それは、生命の確かさとは裏腹よ。きちんと警戒して自分を守れる冬が終われば、すぐに危機が訪れる。そこに境界はないの」
「……」
「あなたが声高に平行線を引こうとすればするほど、本当はそれは平行じゃないってことが分かっちゃう」
「じゃあ、僕と君の意見はなぜ相容れないんだ?」
「あなたが無理に平行線を引こうとするから」
「……」
「平行線なんて、現実にはあり得ない。わたしたちの距離は変化する。その交点が過去にあるか、未来にあるか。ただそれだけのことでしょ?」
【 了 】
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