第十七話 ひさしぶり
「ひさしぶりね」
彼女が言った。
「ひさしぶりだな」
僕が答える。
「ねえ、ひさしぶりの意味、分かる?」
彼女は難しいことを聞く。
「少なくとも、昨日逢ったら今日使えないってことだけは確かだよな」
僕はそう答えて、彼女から目を逸らす。
「ええー? そうかしら」
彼女は不満げにそれを打ち消す。
「逢えない時間が長いと思えば、それは私にとってはひさしぶりよ」
僕は横を向いたまま、くすりと笑う。
「じゃあ、逢えない時間がどんなに長くても、それでいいと思えばひさしぶりとは言えないんだね」
彼女はそれを聞いて膨れっ面を見せた。
「そういうあなたの言い方も、ひさしぶりだわ」
話を逸らしたな。僕は、もう少し意地悪を言ってみる。
「僕が君に逢いたいと思う時間より、君が僕に逢いたいと思う時間の方が短いって気がする。だから、ひさしぶりって言いたくないね」
「あら」
彼女は、真剣な眼差しで僕の横顔を食い入るように見つめた。
「それは誤解よ。私が私でいれば、あなたには逢えなくなるんだもん」
「ほう?」
僕はゆっくり顔を正面に向ける。
鏡。そこには、半分が女。半分が男の顔。
僕は口の端だけで、少し笑って見せる。
「どっちにしても……ひさしぶりになっちゃうね」
【 了 】
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